長いです。そして、最終話まで辿り着けなかった(^^;
◆第47話「残されたU/フィリップからの依頼」◆ (監督:石田秀範 脚本:三条陸)
最後の晩餐シーンに見当たらなかったので心配していたのですが、翔太郎が探してきて、ミック、事務所に。それを喜ぶフィリップだが、肉体に異変を感じていた。
「翔太郎、頼みたい事があるんだ。若菜姉さんを探して、助け出してほしい」
フィリップのただならぬ様子に、約束をする翔太郎。
「勿論引き受けるさ。若菜姫は必ず俺が助け出す」
「どんなに辛い事が……待っていたとしても?」
「おまえのために耐えられねぇ事なんてねぇわ……相棒」
大きな戦いを乗り越え、ここに来て、急速にラブ度の上がる2人(おぃ)
いやだってこれ、いくら戦友とはいえ、男に向けて言う台詞としては突き抜けすぎだよ翔太郎!
そして――
これが、フィリップの最初で最後の依頼だった。
ずっと2人で1人のつもりだった俺たちが、あんな事になるなんて、思いもしなかったよ。
なあ、フィリップ……
その頃、加頭が手中に収めたミュージアムのメモリ製造工場を、財団Xの上役であるネオン局長が訪れ、ミュージアムへの投資中止を通告していた。ここでちらっと、劇場版のNEVERに言及。
ネオン局長は働き者でとても忙しいらしく、ストップウォッチのタイマー機能で会話時間を限定する事で、財団Xが大規模に活動している事を描写しているのですが……トライアルと被り気味でいいのか。後この演出、会話の途中でタイマーが鳴って話を打ち切ってこそ面白みが出ると思うのですが、加頭が会話をきっちり時間内に収めてしまう為、微妙に物足りない(笑)
加頭は確保した若菜を材料に、ミュージアムへの投資継続を求める。加頭の計画、それはミュージアムの新たな頭目に冴子を据えて崩壊した組織を立て直し、若菜の力により改めてガイアインパクトを起こすというものだった。だがその為には、若菜の体内に融合したクレイドールメモリを甦らせる必要があった……。
その冴子は、何故かサーキットで走っていた。
(私の証明……それは私が若菜に勝っているという事。でも認めさせるべき父はもう居ない。若菜……)
若菜を探す翔太郎達はウォッチャマンからの情報でその所在を突き止め、ちょっとしたチェイスシーン。この辺りは、『仮面ライダー』としてレース出場している協賛関係でしょうか? この時期もやっていたのかは知りませんが。そして翔太郎は実は、バイク乗るがの一番得意なのではという気がする(笑)
フィリップの言葉で若菜の生存を知る冴子だが、そこへ加頭がやってくる。
「酷いですよ冴子さん。1人で居なくなるなんて。さあ、貴女を迎えに来ました」
「私がどこへ行こうが勝手でしょ」
冴子さんはどうやら、ミュージアムの追っ手を気にしなくて良くなった以上、あんな男の取ったホテルの部屋なんて真っ平御免と大脱出していたようで、超、嫌そう。
「貴様、どこかで」
「財団Xの加頭順、と申します」
「財団X……?」
「ミュージアムのスポンサーよ。闇の巨大資本」
出てきた時から大雑把な雰囲気の漂う財団Xでしたが、物凄くざっくりとまとめられました(笑) 作品全体としては、一般市民を闇にそそのかすガイアメモリを流通させているミュージアムが、世界各地の闇の夢追い人達に資金提供をしている財団Xの投資を受けているという、入れ子構造。
冴子と共にミュージアムの悲願であるガイアインパクトを達成すると告げる加頭は、一本のメモリを取り出す。それは、園咲の人間だけが使う事を許される筈の、ゴールドメモリ。
「スポンサー特権というやつですね。これは私と適合率98%。まさに――運命」
『ユートピア』
劇場版でマキシマムドライブに使われたユニコーン辺りかと思いきや、ここでこの名称は、なかなか面白い。
メモリが発動するとバイクや人が浮き上がって吹っ飛び、その能力は重力操作? 変貌したユートピアドーパントは、金色の鎧姿にマントを羽織り、手持ち武器は杖。飾り気のない真っ直ぐな杖なので、微妙にハスラーも思わせ、それとなく、ハードボイルド。
変身したアクセルが切りかかるが、ユートピアは重力操作によって、その攻撃を防御。アクセルの攻撃は、文字通りにユートピアの体に届く事もできない。
「フィリップ、俺たちも変身だ」
「まだ出来ない……」
「なんでだよ?!」
「次のダブルの変身は、若菜姉さんを助けるその瞬間に取っておかねばならない! 今度ダブルに変身したら…………僕の体は、消滅してしまう。この地上から、永遠に」
ユートピアはウェザーっぽい能力も使用し、炎に嵐の連続攻撃で、触れる事も出来ずにアクセル完敗。突発的な戦闘で説明を受けるタイミングがなかったとはいえ、照井はかなり可哀想(^^;
「来人、今頃お父さまもきっとお墓で泣いてるわ。お墓でね」
「行きましょう。貴女の夢を、叶えるために」
加頭は冴子を連れ去るとミュージアムの新たな総帥として上司に報告し、改めてガイアインパクトの実行を宣言。
ガイアインパクト――それは、メモリ適性を持たない人間を瞬時に消滅させる、人類選別の儀式。加頭は風都市内を対象に行われる予定だったこの計画を、データ化した若菜を財団Xの人工衛星にインストールする事で、一挙に地球全域で行おうともくろんでいた。
ここで、ガイアインパクトの詳細が判明。この構成上仕方なかったのでしょうが、琉兵衛の口からガイアインパクトの具体的な話が無かった為に、琉兵衛の背景周りの説明が不足する事になってしまったのは、やはり勿体なかったところ。
そしてこれ、地球全域でやると、財団Xの偉い人が「あれ? 俺、メモリ適性無かったの? いやっはーーー」って消滅する可能性があると思うのですが、それでいいのか財団X。
上司の許可が下りたので、それでいいんだ財団X。
「遂に貴女が、ミュージアムのトップですよ」
局長は財団Xの投資再開の可能性を示唆し、加頭は冴子にタブーのメモリを渡す。
その頃フィリップは、冴子の残した「墓」を最後のキーワードに、若菜が囚われているミュージアムの施設の絞り込みに成功。それは表向きは玩具会社、CHARMING RAVEN。若菜を助ける為にそこへ乗り込み、加頭と決着をつけようとするフィリップだが、翔太郎は突然の衝撃発言に混乱していた。
「おまえが消えるって、どういう事なんだよ」
前回、若菜と融合させられたフィリップは地球の記憶に近づきすぎた影響で、再構成されたデータの肉体が、加速度的に崩壊を始めていた。次にダブルになった時、それが最後の一押しとなり、フィリップは地球の記憶と一体化してしまう。
「でも姉さんを救ってからであれば、悔いは無い」
「馬鹿野郎! んな事諦められっかよ!!」
これを回避する方法はない、と覚悟を決めているフィリップに対し、残酷な現実を受け止められない翔太郎は、シュラウドの森へ。……すっかり、森の住人扱いです(笑) 翔太郎がさんざんわめき散らしてから、ようやく姿を見せるシュラウド……どう考えても、故意。
フィリップを助ける方法は本当に無いのか、シュラウドに激しく食ってかかる翔太郎だが、シュラウドもまた首を左右に振る。
「冗談じゃねえよ! あいつを救う事は、おやっさんから託された、俺の一番(???)依頼なんだ! なのに!」
いい所なのですが、何度聞いても、()内が何と言っているのか聞き取れません(^^;
「大事」とか「最初」とか、そういうニュアンスの言葉が入りそうなんですけど。
「鳴海荘吉に、来人を救う事を依頼したのは、この私」
「あんたが依頼人……」
「そしてあの子は救われた。もはや来人は、復元されたデータの塊ではない。……おまえのお陰だ」
祝・翔太郎、とうとう、お母さんに認められる。
「でも消えちまうんだろぉ!!」
「あの子が、安心して、笑顔で消えられるようにしてあげてほしい。それが今、あの子を救うという事。頼む、左翔太郎」
「勝手な事言うなよぉ!」
絶叫する翔太郎だが、シュラウドは陽炎のように姿を消してしまう。シュラウドとおやっさんの繋がりがハッキリとし、探偵事務所の隠し部屋にあんな秘密施設を作ってしまったのは、やっぱりこの人か!!!
そうなると、フィリップが主に過ごす隠し部屋は、いわば母の胎内であり、間接的にフィリップは母親に守られていた、と。そしてそこから外へ出る事で、フィリップは他者と交わり世界と関わり、復元された園咲来人ではなく、フィリップという個として新生する、という作品構造であった事が最後ではっきり見えました。
失意の翔太郎が事務所に戻ると亜樹子の呼びかけで、フィリップが海外留学するという名目のパーティーが開かれ、刑事コンビと情報屋達が勢揃いしていた。
「フィリップくんに、思い出沢山あげなくちゃ」
覚悟を決めてせめて前向きに出来る限りの事をしようとする亜樹子(おやっさんの血)と、納得のいかない翔太郎。
「フィリップから貰った」
えらく唐突に、フィリップからのプレゼント(多分マグカップ)をアピールして割って入る照井(笑)
繋ぎが凄く不自然なので、恐らくこの前に、照井が翔太郎を諭す言葉があったのが尺の都合でカットされたのかと思います。結果、落ち込む翔太郎に、おまえの相棒からプレゼント貰ったぜ〜と自慢するみたいで、照井が凄く不自然に(笑)
「僕は、人との付き合いに興味がなかった。……悪魔みたいな奴だった。でも、翔太郎に連れられて、この、風都に来て」
「今では、どうなの?」
「――大好きさ……街も、みんなも」
“人との関わり”を通したフィリップの変化と成長、1年間の物語で徐々にやってきた事を、主要サブキャラとの絡みで象徴的に描いたのですが、惜しむらくは、フィリップがほとんど、刑事や情報屋と関わってない所(笑)
どちらかというと、翔太郎不在の事務所に真倉達がやってきて、翔太郎愛されアピール、フィリップとは皆それほど親しくない、という16話辺りのイメージが強いです(^^; こうなると、フィリップが情報屋達のトラブルを解決するようなエピソードが、一つぐらい欲しかった。
「翔太郎、プレゼントだ。後でいいから、開けてみてくれ」
気持ちの整理のつかない翔太郎は無言のまま、しかし時間は個人の感情など無視して刻まれていき――翌早朝、工場へと乗り込む4人。翔太郎と照井が生身で組織の構成員を片付けていき、照井が追っ手を食い止めている間に若菜を見つける3人。だがそこへ、加頭が現れ、フィリップは加頭のもくろみに気付く。
「これがふざけている顔に見えますか?」
「翔太郎、いよいよその時だ。こいつを倒す。……その後は、頼むよ」
サイクロンメモリをはめるフィリップだが、翔太郎が取り出したジョーカーメモリを用いる覚悟が付けられない内に、ユートピアに若菜の身柄を奪われてしまう。止めに入ったアクセルだが、やはり重力操作を打ち破る事ができない。
ユートピアの重力ガードは、攻撃の寸止めにカット割りと効果音で見せていて、地味に面白い芝居。
アクセルはトライアルを発動するがユートピアは軽々とその攻撃をしのぎ、飛び上がったユートピアに地面に叩きつけられたアクセルは、何故かトライアルが解除されてしまう。
「ユートピアとは、希望の力のメモリ。君の生きる気力を貰い、私の力とした。その結果を味わいなさい」
人の持つ希望の心そのものを操るユートピア……はいいとして、トライアルの原動力、「希望」なの……?(笑) 極めつけのラスボスという事でかなり何でもありですが、ウェザーぽい能力を使ったのは、照井の気力を吸い取る事で、照井の持っている「絶望」のイメージを具現化したとか、そういう事なのかしら。
気力50になり装甲値が激減したアクセルは、気力150ユートピアのインテリヤクザキックで吹っ飛び、大炎上・爆散。かつてなく燃えて死にそうになる。
「照井竜ぅぅぅ!!」
フィリップが絶叫すると、緑色に輝き出す若菜の体。フィリップと若菜が精神的に繋がっている事で、フィリップの感情の揺らぎが若菜の覚醒を促し、クレイドールの力の発動値を上昇させていくのだった。
フィリップを失う決断に耐えられず、生身で突撃する翔太郎はユートピアにあしらわれ、更に揺れるフィリップの心、そして上昇していく若菜の力。
「素晴らしい、若菜さんの復活法が見つかった。来人くんの精神的苦痛が、若菜さんを呼び覚ます。ちょっと死んでみてください。来人くんの前で」
「やめてくれぇぇぇぇぇ!!」
あまりに圧倒的なユートピア、首をねじりあげられる、翔太郎の運命や如何に?!
節目の宿敵で、ナスカ、ウェザーの系譜という事か、素直に格好いいデザインのユートピアは、重力ガードのアクションが非常に秀逸(能力の理屈としては、希望を吸収する事で攻撃を無効化している?)。棒を持った片手を、背中に回している余裕のポーズも素敵。
琉兵衛に比べて迫力不足になりそうで心配だった加頭ですが、事ここに至っても延々と淡泊なまま、しかし圧倒的、というのがなかなか面白いラスボスになってきました。
フィリップの心の痛みは、フィリップが「――大好きさ……街も、みんなも」となったからこそ生じる、という構造が実に皮肉でえげつなく、人間の持つ弱さと優しさをキーとする今作らしいですが、果たして、その優しさは人を街を救う事が出来るのか?! 次回、ハーフボイルド探偵、最後の「変身」。
◆第48話「残されたU/永遠の相棒」◆ (監督:石田秀範 脚本:三条陸)
翔太郎をごきっとくびり殺そうとしたユートピアだが、タブーの奇襲攻撃を受け、変身解除。ユートピアにタブーの攻撃が通じるのは、飛び道具だからなのか、それとも一周回って属性の近そうな《禁忌》の特性なのか。
「冴子姉さん……まさか?! 僕らを助けて」
「まさか。こいつの方が気に入らなかっただけよ」
そういえば、45話で園咲家の姉弟の年齢が判明した時は冴子さん三十路に気を取られてしまいましたが、来人に対する冴子と若菜の距離感や感情の違いは、13歳の時に生まれた弟と、4歳の時に生まれた弟、という違いは大きいのだろうなぁと、今更思ってみたり。
貴様は、思春期真っ盛りに弟が生まれた姉の気持ちを、考えた事があるか?!(誰)
肉親間の憎しみというのは、余人には量りがたいねじくれ方をする事が多々ありますが、その憎悪の対象から解放された時に残っていた物が「園咲家の長姉」という立場と誇りだった、というのはこの2話における冴子さんの変心に、ただ物語に都合が良いだけではない面白みを与えています。
ちなみに調べたら、冴子を演じた生井亜実さんは当時27歳でだいたい劇中の冴子さんに近い年齢でしたが、キャスティング見る限り回想シーンでは多分セーラー服に挑戦させられており、ほぼ一回り分の年の差を演じていました。
生身の加頭にも容赦なく、「生理的に受け付けないから身の回りをうろちょろしないで頂戴」光弾を浴びせるタブーだったが、爆炎の中で加頭は平然と立ち上がる。
「私、ショックです、冴子さん。死んでいるところですよ。私がNEVERでなかったら」
なんと加頭は、蘇生された死者の兵隊、不死身の兵士・NEVERだったのだ。
加頭がNEVERである事に物語上の意味は薄いのですが(財団が投資していない筈の研究ですし)、劇場版とのリンクを補強したかったのか。
加頭は再び若菜と冴子を連れ去り(この際、ユートピアがタブーの光弾を重力ガードしているので、その特性上、相手をロックオンしていないと能力が発動できず、長距離射撃に弱いのか?)、3人は何とか照井を確保し逃亡。照井は全身火傷で集中治療室に運び込まれ……もう、照井課長に見せ場は無いのか。まあちょっと、44話が格好良すぎたのでシカタナイ。
フィリップの補足解説によるとユートピアは“生きる為の感情を吸い取って力にする”という事で、アクセルが炎上したのはあくまでイメージで、実際の火傷とは少し違う模様。《精神耐性》持っている照井だから致命傷の一歩手前で済んだような事を言っていますが、むしろ照井が振り切れすぎている為にダメージが激しかったような気もしないでもなく。
「君が変身を躊躇ったばかりにこのざまだ!」
なお照井はフィリップと翔太郎、双方から被害を受けている事をここに付記しておきます。
亜樹子が気を利かせて先に事務所へ帰り、砂浜で拾ったボールでぞんざいなキャッチボールをする2人。
「どうせ消えるなら、姉さんを助けてから消えたいんだ。なんでわかってくれない」
「聞きたくねえっ……どぉしても飲めねえ! こいつを差したら、おまえが消えちまうって思ったら!」
だが、ダブルへの変身いかんを問わず、フィリップの肉体には嫌でも限界が迫っていた。
「翔太郎……優しさは、君の一番の魅力さ。でも、このままじゃ僕、安心して行けないよ。なあ……約束してくれ。たとえ1人になっても、君自身の手で、この風都を守り抜くと」
「約束なんてできねぇ……俺は……自分に自信が持てないんだ」
翔太郎、ここに来て、ひたすら女々しい。
まあ実際、自分の手で相棒を殺すような行為を迫られているわけで、非常に厳しい状況ではありますが。
そこにかかってくる、刃野からの電話。受け取る前に、咳払いして声のトーンを普段に戻すのが翔太郎らしく、細かい良い芝居。
だが、刃野の携帯からかかってきた筈の電話の主は、加頭順であった。加頭はユートピアの能力により、フィリップの知己から次々と生きる為の感情を奪い取っていく。電話越しにその光景を突き付けられてフィリップは苦しみ、覚醒していく若菜。ユートピアは若菜を財団の天文研究所に連れ込んだ事を教えると、フィリップの極めて近しい人間、亜樹子からもその生きる力を奪い取る。
ユートピアの攻撃を受けたサブキャラ達は、CGによるのっぺらぼうで表現。生きる力を失った抜け殻のイメージ、という所でしょうか。
事務所で倒れる亜樹子の姿に、自分の甘さが招いた残酷な結果を思い知る翔太郎。フィリップは激しく嘆き悲しみ、その心の痛みが若菜を覚醒させる――。
「俺のせいだ…………。ごめんな、フィリップ」
亜樹子を抱えて慟哭するフィリップを見つめる翔太郎は、最後の最後でフィリップを笑顔にするどころか身を裂くように悲しませた自分への怒りを胸に、鳴海荘吉の白い帽子を手に取り、そっと事務所を出て行く。
「聞こえるだろう、この星の嘆きが」
「ええ。お父様の嘆きも。だから……私なります、地球の御子に」
「それが、姉さんの決断だったんですね」
「来人?」
「ごめん、僕にはもう、姉さんを救えない」
「来人ぉ!!」
覚醒寸前の若菜は、闇の中で琉兵衛との会話を思い出し、琉兵衛がガイアインパクトを目論んだ背景と、風都を逃げだそうとしていた若菜姫が父の真意を聞きミュージアムの女王として豹変した理由が、強引にちらっと挟み込まれました。正直かなり強引ですが、若菜に関しては、ときめいた男の子が血を分けた実の弟、しかも死んでいた! という運命に対する憎悪と諦観は恐らく影響していて、まあその辺りは描写しにくかったのでしょうが。
そして環境テロリスト的発言の出た琉兵衛ですが、aaさんにいただいたコメントは成る程と思ったのですが、琉兵衛が口にしていた「地球に選ばれた家族」というのは、裏を返せば「地球に選ばれてしまった家族」であり、《泉》と接触した事と息子の死を関連づけて考えざるを得なかった園咲琉兵衛にとって、地球の為に人類の浄化と選別を行うというのが、「運命」を肯定的に捉える為の狂気であった、という事なのかな、と。
まあレディオ回の若菜姫の回想を見る限り、《泉》と接触してかなり早い段階(来人が再構成前なのか後なのかわかりませんが、来人の見た目は5歳前後で、冴子さんがまだセーラー服着ていたような覚えが)でガイアメモリに関係する行為に手を染めており、もともと悪の総帥としての素養はあったようですが。
「さあ冴子さん、約束を果たす時です」
目を覚ました若菜と冴子の前に現れる加頭。
「約束?」
「出会ったときに言いました。貴女が好きで逆転のチャンスをプレゼントする。達成しました。愛ゆえに」
「本気だったていうの。あれで」
これまでの加頭の言動を思い出し、百戦錬磨の冴子さんも呆然(笑)
「良く言われるんです。感情が篭もってないから、本気だと思わなかったって」
どう見ても冴子さんへの嫌がらせとしか思えなかった加頭の求愛行動は、全て、本気だった。ガイアインパクトに興味があるわけでも、そもそも財団Xがミュージアムを利用しておいしい所をかすめ取ろうとしていたわけでもなく、ただただ純粋に、加頭は冴子をミュージアムのトップに据える為に行動していたのだ。
如何にもな見せ方を180°逆手に取った衝撃の展開で、これはしてやられました。悪を倒したと思ったら実はそれを利用していた更なる巨悪が〜というお約束回避ではあるわけですが、それにしても、アクロバット。
加頭は愛する冴子の裏切り行為を許すと告げてタブーメモリを差し出すが、冴子はその受け取りを拒否。
「なぜです? なぜそこまで私を拒絶するのです!」
「あなたが園咲を舐めてるからよ。こんな形で若菜に勝っても、死んだお父様は絶対に認めない。――若菜、逃げなさい」
冴子は初めて感情を露わにした加頭からメモリを奪い取るとタブーに変身し、若菜を逃がす時間を稼ぐ為にユートピアに戦いを挑むが、一方的に殴り倒された末に、全ての力を吸い取られ、敗北。
タブーは折角最後に出てきたので何か特性攻撃をしてくれるかと思いましたが、結局最後までふわふわ浮いて光弾打つだけで、ちょっと残念。あとナスカV3はクレイドールXに一方的に敗北したのが最後の出番だったようで、これもちょっと残念。
「結局一人きりの理想郷か」
とうとう最期を迎えた冴子さんですが、
見た目と営業成績だけが良かったへたれのM男
人間の皮には興味のない変態紳士
と来て、
非モテからの脱却を夢見て愛の為に人類を大科学実験できるサイコさんと、
つくづく男運が悪かった。
「私……若菜を助けようとして死ぬなんて。あんな憎んでいた妹を……最…低……」
どこかから鐘の音が響き渡る中、花畑に倒れ、園咲冴子、死亡。ヒロイン化した若菜姫との対比もあり、作中の「悪」の部分をかなり担ってきましたが、最期はかなり美しい散り際で、スタッフに愛されていた気配が窺えます。井坂先生との駆け落ち失敗後、しぶとく生き延びていたのは面白く、悪のセクシー女幹部の現代アレンジとして、最終的にかなり面白いキャラクターでした。
「若菜姫は任せろ」
事切れた冴子に近づき、その瞼を閉じたのは、白い帽子を被った――左翔太郎。
覚醒した若菜を装置にくくりつけ、データ化して人工衛星に送信しようとするユートピアの前に、翔太郎は主題歌をバックに独り立つ。
「君か。何の用です?」
「邪魔しに来た」
これは、なんというか凄くヒーローの台詞で、素晴らしい(笑)
猛ダッシュした翔太郎はユートピアの火炎攻撃をかわし、竜巻で機材に叩きつけられながらも何とかその懐に飛び込むと、ユートピアの感情吸収を、まさかの帽子ガード。
「終わりはそっちの野望だ」
翔太郎がユートピアを蹴り飛ばした所に、サポートアニマル軍団が大挙して現れ、ユートピアを縛り付けると、装置を破壊するという大活躍。なるほど、ユートピアの弱点は、感情を吸収できない機械だった! 玩具の販促が終わると空気になりがちな細かいアイテムを、最後の最後で使ってくれたのはとても良かったです。
翔太郎は若菜を救出し、天文研究所はユートピアを巻き込んで大爆発。翔太郎の行動に気付き、フィリップがエクストリームでやってくる。
「酷い顔だ」
「男の勲章、ってやつさ」
「1人でよくやったね。凄いよ」
「約束を守っただけだよ」
「君の友である事は、僕の誇りさ」
多分、色々な人が思い出したのではないかと思うのですが、なんだか『ドラえもん』の、ドラえもんが未来に帰る回みたいな事に(^^; 1人で若菜姫を救出してフィリップに誉められる、って、こちらが思っている以上に、作り手の中では翔太郎はぼんくら扱いなのか。
この辺り、社会性を強く意識したヒーローとして、翔太郎の年齢ならひよっこで当然、という意識もあったかもしれませんが、その辺りは、ヒーロー番組準拠で良かったような。
構造としては、特撮的には『ウルトラマンタロウ』の最終回も思い出される所ですが、折角の見せ場の直後に翔太郎が何か随分と情けなくなってしまいました(^^;
これまでのシュラウドによる翔太郎への数々の罵詈雑言は、作り手の中では至極妥当なものだったのか(笑)
「馬鹿な……この程度で、私の計画が止まるとでも思うのか」
もはや愛を失いながらも、爆発の中から這い出すユートピア。
「止めるさ。何度でも。この左翔太郎が、街に居る限り」
「なに……?」
「例えおまえ等がどんなに強大な悪でも、風都を泣かせる奴は許さねえ。体一つになっても食らいついて倒す。その心そのものが仮面ライダーなんだ! この街には仮面ライダーが居る事を忘れんなよ」
「仮面、ライダー?」
人の心の希望を嘲ろうとするユートピアに、今、2人で1人の探偵は、尽きない希望を見せつける。
「財団X・加頭順!」
「「さあ、おまえの罪を数えろ!」」
仮面ライダー――それは、この街の希望。
「行くよ、翔太郎! 最後の……」
「ああ……最後の!」
『サイクロン』 『ジョーカー』
「「変身!!」」
メモリを構えた2人は、ダッシュから一気にエクストリームに変身。プリズム盾でユートピアの攻撃を受け止めつつ、素手でパンチ。ダブルの希望を吸い尽くして自分の力に変えようとするユートピアだが、その力を転化しきる事ができない。
「このダブルにはなぁ、フィリップの最後の思いが篭もってんだよ。てめえなんかに食い切れる量じゃねえんだよ!」
最後の力を振り絞るユートピアに対し、サイクロンジョーカーエクストリームは、プリズムマキシマムドライブ×エクストリームマキシマムドライブのツインマキシマムを発動。最高パワーの飛び蹴り・ダブルプリズムエクストリームにより、ユートピア失恋大回転キックを打ち破ると、怒濤の空中連続キック、フィーバーダブルまっしぐらを浴びせて遂にユートピアを撃破する。
「おまえの罪を……数えろだと? 人を愛する事が、罪だとでも……」
しぶとくメモリを構える加頭だったが、マキシマムブレイクの作用により、細胞が崩壊して消滅。ユートピアメモリもブレイクされる。
なるほど、加頭がNEVERなので、劇場版同様、マキシマムブレイクで消滅させてOK、というのは、納得と言えば納得。
「財団は、これで正式に、ガイアメモリから手を引く」
そして戦いの結末を見届けたネオン局長は、風都から姿を消すのであった。
財団Xに関しては出てきた時点で、今作の作風からいって作中では特に片付かなさそうだなぁとは思っていましたので、これはあまり気にならず。ただラストにわざわざ加頭の上役を出したのは、次のMOVIE対戦への引きだったりしたのかしら?
前回に比べて激しく弱体化した感じのユートピアですが、これ、あれですよね……敗因は、失恋の痛手。
つまり、陰のMVPは冴子さん。
最終的に、崇高な理想でも巨大な組織の野望でもなく、個人的にモテたい、という極めてパーソナルな目的がラスボスの動機だったのは、“人の心の中の闇”を主題としてきた今作らしくて良かったと思います。その点では、加頭がNEVER、という付加要素にはちょっと引っかかるのですが(^^;
劇場版とリンクさせつつ最後のカタルシスに繋げられるという計算だったのでしょうが、加頭にはどこまでも、人間であって欲しかったな、と。
人間が人間であるがゆえに時に歪んでしまう、というのが今作のテーマであったと思うので。
「別れの時が来た。翔太郎、姉さんには、この事内緒にしておいてくれ」
「……わかった」
「じゃあ、行くよ」
フィリップの手を止め、自らドライバを閉じようとする翔太郎。
「俺の手で、やらせてくれ」
「任せるよ」
Cyclone Effect Don't stop it
きっと強くなれる yeah...
「大丈夫。これを閉じても、僕たちは永遠に相棒だ。この地球が無くならない限り。……泣いているのかい、翔太郎?」
敢えて気取ってみせるフィリップ、格好つける余裕がなく、泣き顔をさらす翔太郎。
「……馬鹿言うな。……閉じるぜ」
「……さよなら」
「…………おう」
男泣きしながら翔太郎はドライバを閉じ、最後は言葉に詰まりながら、消えていくフィリップ、エクストリームメモリ。
そして――仮面ライダーダブルは居なくなる。この地上から、永遠に。
Cyclone Effect Don't stop it
風の向こう未来 woh...
Find someone that you want
2人で
かなり長く時間を取った別離シーンは、バックで流れる「Cyclone Effect」(サイクロンジョーカーのテーマ)のアコースティックアレンジが非常に良い演出になりました。また、自分の手がフィリップを消滅させる事になる、という厳しい決断を散々躊躇っていた翔太郎が、ここで自らの手で最後のそれを行うという事で、翔太郎の決断と成長が描かれてくるっとまとまったのも良かったです。
(――若菜姫は病院に保護された。俺はフィリップが残した最後の依頼をやり遂げた)
照井は車椅子に全身包帯姿で何とか復帰するが、フィリップが去り、沈鬱な空気に包まれる事務所。思い立って翔太郎がプレゼントの箱を開けると、そこには、フィリップの本と、ロストドライバーが入っていた。白紙の本をめくる翔太郎は、その内の1ページに残されたフィリップからのメッセージを目にする。
「ありがとよ……フィリップ。大事にするぜ」
僕の好きだった 街をよろしく
仮面ライダー 左翔太郎!
君の相棒より
(俺はこれからもずっと街を守る。仮面ライダーとして。見ててくれよ…………なあ……フィリップ)
次回――最終回。