◆第三十四幕「親心娘心」◆ (監督:長石多可男 脚本:小林靖子)
長石多可男スペシャル回来たーーーーー。
2話ほど参戦していたという話は知っていたのですが、ここでしたか。
志波家を茉子の父にして、先代シンケンピンクの夫である衛(まもる)が訪れる。
「おまえを迎えに来たんだ、茉子。シンケンジャー辞めて……一緒にハワイに行こう」
「え?」
父の来訪に固まる茉子、「やっと声が聞けた」など微妙な距離感が表現されており、突然の申し出に困惑する茉子は、何やら両親とはスムーズな関係ではない様子。
「ずっと離ればなれだったけど、やっぱり親子は一緒がいい。お母さんもそう言っているんだ。最初に、茉子を迎えに行こう、って言い出したのは、お母さんなんだ」
「お母さんが……でも、だって」
その時、外道衆がセンサーに引っかかり、シンケンジャー出陣。ナナシ達が小学校を襲い、何人かの子供達がどこかへさらわれてしまう。
それは、さらった子供達に石を積ませる→ナナシが途中で崩す→石を積ませる、の無限コンボにより生み出した絶望で、此の世に賽の河原を出張させ、増水で溢れさせるでのはなく人の世の側に三途の川を引き込ませようという、アクマロの新たなプロジェクトであった。
「理屈じゃそうかもしれないけどー」と難癖つけながらドウコクに酌をするシタリが、なんだか凄く、ダメな人に!
アクマロが太夫と十臓をヘッドハントした事を察したドウコクはアクマロの足に刀を突き立て、軽くお仕置き。ドウコクは酒飲んでくだまいているだけなのに、やたらに人間界の動向に精通しているのですが、実は優秀なスパイ組織でも持っているのか、或いは、超・天使センサーが内蔵されているのか。
なお、忠誠心0むしろマイナスぐらいな傭兵コンビは、アクマロさんが早く獲物を修理してくれないかなー、と川のほとりでくだを巻いていた。
自分から働いたら負けだから。
茉子がさらわれた子供のポケットに隙間センサーを投げ入れ、その反応を彦馬と黒子が追っている内に、源太を交えて、白石家の家庭環境が軽く解説。茉子の両親はハワイに移住しており、5歳ぐらいの頃から、茉子は両親と離れて祖母の元で侍の修行をしていたのだった。回想シーンの映像を見る限り少女時代の茉子がえらいお屋敷に住んでいたり、茉子の父が「娘が辞めたらハワイの黒子という事でうちの会社がバックアップします」と言っていたり、かなりブルジョワジーな生まれの模様。
源太の寿司はどれぐらい「普通」なのか論がありましたが、流ノ介も家を考えると恐らくそれなりにいいもの食べてそうですし、茉子と流ノ介から「普通」の評価を得るゴールド寿司は、割とレベルの高い「普通」であると断定してよさそうです。
凄いぞ「普通」!
普通!
まあ、握り方については提灯からダメ出しを受けるレベルなので、ネタがいいのでしょうが。
離れて暮らしてはいたものの父とは度々会っていたという茉子だが、母については言葉を濁す。そこへ黒塗りの車でやってきた父、やおらハワイの素晴らしさをPRする……って、もう谷家に何も言えない!!
「茉子。お母さんが本当にお前を!」
隙間センサーが道に落ちていたという報告が届き、手分けしてその付近を調べる事にするシンケンジャー。茉子もまた、食い下がる父を振り切るようにしてそれに加わる。
それにしても殿は、「他人の事情に踏み込まない」とうよりもむしろ、「最初から交渉の余地無し。何故なら侍は侍ゆえに侍だから」という事なのでしょうが、一応、名目上の雇い主なので、お父さんを完全無視はどうかと思います。前回、榊原藤次と会話した事で、2クール分蓄積した社交エネルギーを使い果たしてしまったのか?!
いったい殿は、いつになったら身内以外とスムーズにコミュニケーションを取れるようになるのか……!
アクマロによる、賽の河原ドリームプロジェクトの現場を発見した茉子は仲間達に連絡を取るが、隙を見て逃げ出した少年をナナシからかばって傷を負ってしまう。そこへやってきた父の車に少年を逃がすもアクマロに見つかってしまうが、そこへやってくる、赤青緑。そして黄と金が別働隊として倉庫の中から子供達の救出に成功する。
「用心棒を、連れてくるべきであったぁ……!」
とか言いつつ5人を直接攻撃で吹き飛ばすアクマロですが、なんか、言い回しが面白かった(笑)
アクマロの攻撃を受け、ナナシに囲まれる5人を助けに入ろうとする茉子だが、切羽詰まった局面にも関わらず、父はそれを止めようとする。
「お父さん何とも思わないの?! 子供を心配している人達の事だって見てたでしょ。同じ親じゃない!」
「そうだ、親だよ。親だから、自分の子供を、安全な場所に避難させたいと思う、身勝手な親だ。……茉子、それはお母さんも同じなんだよ」
「…………そんな事、だって……だったらどうして、あの時、私も一緒に…………置いていかれたと思った。最後までお母さんは、私の事なんか目に入らなくて。だからずっと一人で侍になる為に! 今になってどうして!」
茉子の心に重くつかえるもの……それは、父に押された車椅子の母が、泣き叫ぶ茉子を振り返る事もなく去って行く、という幼い日の記憶だった。
茉子の両親がハワイに移住したのは、先代シンケンピンクであった茉子の母・響子が先のドウコクとの戦いで心身に深い傷を負い、その療養の為だったのである。婿養子であった父は、次代のシンケンピンクとして茉子を育て上げようとする祖母から茉子を引き離す事が出来ず、かといって妻をそのままにも出来ず、やむなく茉子を置いてハワイへ移り住んだのだった。
「言い訳だな……おまえをひどく傷つけた。恨むのは当然だ」
先のドウコクとの戦いは以前に描かれた回想シーンで、シンケンジャー全滅! みたいになっていましたので、茉子母が先代シンケンピンクだとすると、生きていても廃人なのでは……と思っていましたが、やはり、廃人寸前でした。
ここでちょっと気になるのは、千明父の時には先代緑の話は出ませんでしたが、茉子父にはことはが「先代ピンク?」とすぐに聞いている事。
個人的にはシンケンジャーは、志波家を除いては代々の家が固定なのではなく、幾つかの候補の家の中から、時代時代で最も適性の高い者が招集される、という解釈だったのですが(そういうシステムでないと何かあった時にすぐ壊滅してしまいますし)、その辺りの設定は組まれているのか組まれていないのか明かされるのか明かされないのか(別に、明かされなくてもいい)。
千明母が千明を生んですぐ亡くなっている、というのを先代緑だったとすればそこも繋がるのですが、しかしそうすると現代シンケンジャーの身内全員が先のドウコクとの戦いで酷い目にあっている事になり、それはどうも、序盤の展開としっくり繋がりません。各々もう少し距離感がありましたし、それだと当然生じるべき「復讐」という要素がほぼ描かれていませんし。
とするとやはり、必ずしも一つの家の直系に限ってシンケンジャーになるわけではなく、ただその中で、白石家は歴代シンケンジャー選抜回数が多くて家格が高く、祖母のこだわりが強かった、という方が個人的にはぴたっと来ます。
そしてそういった部分を茉子が押し隠していたとすれば、太夫とある種のシンパシーを持つに至り、ちょっと極端に触れかけた、というのも納得出来る背景。
父の立場が弱いのは、恐らく、会社を大きくしたのに白石家の家名や財力の後援があったからなのでしょう。目の前で5人が危ないのに茉子を止めるというのは、娘を思う気持ちと同時に、“廃人になった妻をその目にしている”という事で、納得がいきます。
父に止められた茉子は、先程負った手傷に触れる――。
「私、侍はやめない。お父さん達の事を恨んでるわけじゃないし、後悔もしてないから。ただ…………あの時……ただ……」
振り返らなかった母の姿――
今作は、親から子へ、ポジティブに言えば“想い”、ネガティブに言えば“重荷”が託され、それを受け継ぐ、という構造なのですが、前回の牛回が志波家と榊原家の“受け継がれた想い”を描いたのに対し、白石茉子に与えられたのは親の想いの欠落であり、その空虚ゆえに侍になっていた、というのはちょっとしたちゃぶ台返し。
メンバーの中では最も本音の読めない、ある意味で物語にとって都合のいいスタンスの茉子でしたが、それを逆手に取って、“そこに何もなかった”としてきたのは面白い。
この背景で、「親を恨んでない」と言うのは恐らく、意図的に描かれた茉子の欠落だと思われますが、こうなると、21話時点でここまで考えていたのかは伺い知れませんが、千明父と絡んだのが姐さんで、千明の名前の由来――そこに込められた想い――を聞かされた、というのも意味深い。
今作で「人間」として一番真っ当なのって千明なわけですが、その逆に置かれるのは、実は殿ではなく姐さんだったという。
「わぁぁぁぁぁっ!」
絶叫とともにナナシ軍団を切り払った茉子は、天の文字でアクマロビームを跳ね返しながら変身し、アクマロと一騎打ち。殿に投げ渡された印籠を柄で受け止める、というこれまでになく格好いいパターンでスーパー化。問答無用の超必殺技で硬直状態にしたアクマロをなます切りにして撃破する。
「な、なんという女……!」
とうとう正面から負けてしまったアクマロですが、そういえば、スーパー化と戦うのは初か。……一応今回も、ドウコクの攻撃でHP減った状態で来ているといえば来ている気はしますが。
この戦闘中、変身直後と、スーパー化の後と、娘の背中を見る父の視点が2回入るのが、いいカット。
アクマロは賽の河原大拡張此の世を夢のプール化計画を断念すると、式神を召喚。何故か組み体操でオオナナシ軍団も出撃し、ナナシ騎馬隊vs牛車シンケンオーという巨大戦。
牛車シンケンオーはナナシ騎馬隊をあっさり壊滅させ、シンケンオー、大海王、猛牛大王が揃い踏みしての一斉必殺技で式神と大頭ナナシを滅殺。
ここ数話、凄く、お金がある気がするのですが、東映の株価でも上がったのでしょうか(笑)
戦いは終わり、ハワイへ帰る父を見送る茉子……と、遠巻きにそれを見つめる仲間達。
「お前の気持ちは、お母さんに伝えたよ。戦いぶりもな」
「……お母さん、なんて?」
「ん? 自分で聞いてみるといい」
「え?」
父の背後から、車椅子で現れる、母・響子(伊藤かずえ)。
「茉子……あの時、一人にしてごめんなさい。でも、あなたを忘れてたわけじゃないの! ずっと……あなたを、思わない日は無かった。ごめんね……」
坂道を運ばれていく回想シーンはあるものの、実質このワンシーンだけの登場で、娘を思う母の泣きに説得力が出たのは、それなりにキャリアのある人を配した意味の出た所。
「お母さん……お母さん!」
母の手に触れられ、茉子はすがりつくようにして抱きしめられ、それを父は無言で見守る。
――ナレーション「足りなかった何かが埋まって、本当にシンケンピンクを受け継いだ思いの茉子。その胸には、外道衆を倒す、新たな決意。シンケンジャー第三十四幕、まずはこれまで」
と、茉子の「ただ…………あの時……ただ……」の台詞がそこで途切れていたり、欠落について具体的に語られないまま終わる、というのは良かった所。
終始明るめのトーンの父・衛で誤魔化しつつ、基本いい話で綺麗に着地しているのですが、動かない母の足がさらっとワンカット入っていたり、姐さんの抱えていたいびつさがハッキリ描かれたり、なぜ父は場違いなほど明るく振る舞おうとするのかなど、劇中の現在時間で酷い事は起きていないけれど、実はかなりヘビー級というエピソード。
姐さんの弱った男に対する加減の効かない献身や、母性や家庭的な部分を持っているつもりなのに料理が壊滅的に下手な事などは、母親に対する憧憬と憎悪と欠落がない混ぜになった上で、祖母の元で侍として修行三昧の日々だった為、と背景が描かれた事でぴたっと収まりました。
まあそこまではやらないと思いますが、次回から茉子の性格が激変しても、それはそれで面白い(笑)
長石回を狙い澄ましての力の入ったシナリオだったと思われますが、茉子と両親の会話シーンにじっくり軸を置いたのは、演出への信頼感か。冨家規政・伊藤かずえ、としっかりキャスティングされたのも良かったです。
監督補:渡辺勝也も話には聞いていましたが、ほっこり師弟エピソードとして語られるけど、その後の病気の事を考えると、この年の前半は『ディケイド』に参加、翌年『ゴセイジャー』のパイロット版を撮ってはいるものの、この頃から体調不安が少しあったのかなぁ……なんて事も少し考えてしまう所です。
年齢も年齢でしたし(当時64歳)、そういった諸々あっての、長石監督にもう一度戦隊を、という流れが多分あったのでしょうけど、今になると、間に合って良かったな、と思う次第。
次回、なんか凄いの来たーーー。