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『百日紅』、感想

葛飾北斎の娘・お栄(葛飾応為)を主人公に、江戸の風俗を描いたアニメーション。原作は、杉浦日向子のマンガ。
一言でまとめると、監督が少し、原作を愛しすぎたかな、と。
映画として一本ストーリーラインの軸を置いた上で原作のエピソードをまぶしていくのではなく、エピソードを順々に描いていくという構成になっており、原作の雰囲気の再現を優先したのでしょうが、個々のエピソードの終わりごとに真っ黒いフェードアウトで締めてしまう為に、映画としてはぶつ切れ感が否めません。
露骨に「第○話・了」といった演出になっており、言うなれば、5〜10分の短編アニメの第1話〜最終話まで一挙放送、みたいな構造。映画としてまとめたというよりも、あのエピソードもこのエピソードもやりたいのでそうなった、という印象。
最初からそういうものだと思って観れば出来は悪くないのですが、「映画観た!」という感触は薄いので、個人的には少々物足りなく感じました。
これは普段私があまり映画を観ない為に逆に、映画を観たら「映画観た!」が欲しい人、というのはあるでしょうが。
せめてフェードアウトだけやめてくれればだいぶ印象違ったと思うのですが、そこで敢えて接ぎ穂のシーンを作らなかったのは監督の原作への愛ゆえと思われ、しかしそこは映画としてもう少し広げてしまって良かったのではないか、と思う所。
何もエピソードを創出しなくても、それこそ、杉浦日向子の他の著作から、ちょっと江戸風俗の小ネタを持ってきて幕間に挟むような形で進行するぐらいの事はしても良かったと思うのですが、作者が既に故人という事で、少し難しい部分もあったのかもしれません。
一応、映画的な山を作らなければいけないと思ったのか終盤にそういうシーンはあるのですが、露骨に違和感を狙ったと思われる音楽の選択が疑問で、ちょっと引いてしまいました。映画館の音響の問題もあるかもですが、ああいう演出は映画でやると音楽だけ“浮いてしまう”感じが強いですし、個人的な好みとしては嫌らしく感じてしまいます。
あと、ラストシーンが少し蛇足という感じがあって、一つ前のシーンからエンディングに雪崩れ込んで良かったと思うのですが、どうしてあそこ、急にああなってしまったのだろう。……ラストカットは面白かったですけど。
原作・杉浦日向子の、幽現の境界が曖昧な世界観はうまく表現されており、あのエピソードやこのエピソードは好き、といったものはあるのですが、構造通りに個々のエピソードの好き嫌いになってしまい、1本の映画としては、やや物足りないといったところ。そもそもそういう原作ではないか、と言われればそれまでですが、アニメ映画にしたのであればもう少し、劇的な流れを持たせても良かったかな、と。