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『ジャッカー電撃隊』感想16

◆第21話「バラ色の野球時代!! クライムの強打者」◆ (監督:竹本弘一 脚本:上原正三
野球回、再び。そして女性隊員8号がリストラされ、10号登場。『ジャッカー』世界の事なので、回と回の間の任務中に殉職している可能性も考えられ、こっそりと殺伐。
そんなハードな行間はさておき、本編は、河川敷で草野球を楽しむ少年少女達、というほのぼのシーンからスタート。だがそんな彼らに、「ホームランの打ち方教えます」という幟を立てた自転車を漕ぎ漕ぎ、真っ黒なユニフォームに身を包んだ怪しい影が近づいていた。
「私も混ぜてくれんかの。ふははははっは。私はクライムのデビルバッターじゃー」
「クライム?」
「そうじゃー」
「クライムは人類の敵だ!」
「おぅ〜、心配せんでもよかよ。私は野球が大好きでな。野球一筋に生きとるよ。血と、汗を流してな」
どこかのほほんとしたデビルバッターは、そのままなし崩し的に野球に参加。…………大先生、大先生、世界が『ゴレンジャー』になってますよ!
勿論、軽々とホームランをかっ飛ばすデビルバッター……機械怪物だからな!
「どーじゃい。バッティングは力じゃない。タイミングじゃ」
そのまま打撃指導を始めたデビル打者は、塾に行くから帰る、という子供2人を気持ち良く送り出すが、警察に通報されてしまう。
「なにー?! 少年4人を人質にしているというのか?!」
「はいそうです! 早く助けないと、皆殺しになる恐れがあります。至急出動願います」
警官がジョーカーに連絡し、事態は急展開でエキサイト。
…………ええとなんか、前回の感想でだれてきたなぁとか書いた途端に、今回凄く面白いのですが(笑)
緊急出動したジャッカーは、用意周到に変身してから河川敷に向かうが、そこではデビルバッターが子供達と和気藹々とホームラン教室の真っ最中だった。そんなデビルバッターに、いつにない勢いで猛然と襲いかかる4人のサイボーグだが、倒れたデビル打者をかばう子供達。
「いや、悪い奴こそ、いいふりしてみせるもんなんだ」
「そう、クライムは悪いに決まってるんだ」
子供達に向け、大人の一方的な正義を振りかざすジャッカー(笑) ギャグかと思って油断していると、微妙にメタ風刺が入ってくる辺り、上原正三、恐るべし。
クイーンが気絶したバッターの体を検査するが、火薬反応は無し。武器かと思われたバットもごく普通の金属バットであり、目を覚ましたデビルバッターは、役立たずでクライムを追放されたと自称する。普段の機械怪物とはあまりに違うその様子に、ジョーカーの判断を仰ぐべく連絡を取るエース。
「将来ジャイアンツに入りたいと言っている?!」
「はい、なんでも王選手と巨人のクリーンナップを打ちたいと言っています」
1977年当時は、9月3日に王貞治が通算756本塁打を記録した日本プロ野球界のメモリアルイヤー。このエピソードが放映されたのは9月10日で、制作自体は数ヶ月前でしょうが、割とタイムリー。一週間前の放映だったら、恐ろしいほどドンピシャでした。
「あぁ〜、まったく、妙ちくりんな奴が現れたもんだ」
「どう処分しますか?」
「クライムの事だ。何か企んでいるに決まってるさ。しばらく泳がせてみろ。きっと尻尾を出す」
後年の戦隊シリーズならこの辺りで早くもほだされそうなものですが、生粋のプロ集団であるジャッカー電撃隊に、容赦の2文字は無かった(笑)
デビルバッターを監視するジャッカーだが、バッターはいたって善良に野球に打ち込み、自ら投げたボールを自ら打って自ら捕球するという、超一人野球を子供達に披露。
この辺りで間延びしてきそうなものですが、映像的にも面白く、引き続きテンポ良く展開。
「よーし、尻尾を出さんのなら、出させてやる」
日本の治安を担う組織の幹部としてあくまでも冷徹なジョーカーは、監視及び保護の名目でデビルバッターを関東第一支部に軟禁。敢えて基地内部では自由に行動させ、野球を愛するバッターは、科学特捜隊の野球部(何故ある)に参加する事に。
(プロの選手も顔負けの練習量だ……)
監視している筈が、その真摯な姿に共感してしまう東(笑) 一方ジョーカーもそれとなくバッターに接触し、いっけん和やかな会話でジョーカーまでほだされた? と思いきや、背中を見せるなり鋭い視線を向けるのが格好いい。
「相当の大物と見た。第一級のスパイだ」
デビルバッターの声をあてた永井一郎さんのとぼけた演技と、あくまでシリアスに対応するジョーカーの対比が、ギャグとシリアスの狭間で揺れる作風そのものとも重なって、綱渡りの振り子のバランスがどちらに傾くのかが、妙にサスペンス。作品の置かれた状況そのものが、物語を盛り上げるスパイスになるという、凄いメタ構造です(笑)
「単なる、野球好きに見えますが」
Q「私にもそう見えます。礼儀正しくて、優しくて、働き者で、野球一途です」
J「頭が下がるぐらいだな」
「ふふふふふふふ……甘いぞ」
警戒を緩める部下達に、上司の経験値をアピールするジョーカー。
もう、今回、面白すぎる。
ジャッカーはデビルバッターを24時間徹底的に監視するが、怪しい動きはゼロ。更に精密検査で、身体能力も普通の人間と変わらない事が判明する。……という事は、超一人野球は、純粋な修練の結果による歩法とかを駆使していたのか。身体能力に関係なく、危険な気もしてきました(笑)
「よし、次の手だ」
そろそろ立場の悪くなってきたジョーカーは、クライムを脱けたのなら組織の情報を渡せる筈だと迫って揺さぶりをかけ、最初はアイアンクローによる死刑執行を恐れていたバッターも、遂にそれを承諾。武器取引の情報を聞き出したジャッカーは、まずは先行して女性隊員が現場を偵察し、一般戦闘員ぐらいは倒せる事が判明……まあ、クライム戦闘員は市井の空手家とかより弱いのですが。
情報通りに武器取引が確認され、地下の兵器工場を爆破するジャッカー。バッターの裏切りを本物だと確信した東はバッターに更なる情報提供を求めるが、その時、クライムが報復攻撃を行い、割と派手に吹き飛ぶ関東第一支部のビル。地下へ襲撃してきたクライム戦闘員に対して、野球で結ばれた東とバッターが共闘する、という面白い展開。
だがそのどさくさに紛れ、デビルバッターは手持ちの金属バットと、戦闘員が持ち込んだバットをこっそり交換する。
そうとは知らず、遂にジョーカーもバッターの身の安全を優先し、第二支部へと身柄を移送されるバッター。
(これが、ジャッカー基地を地下で繋ぐシークレットロードか)
遂に本性を現したバッターが胸の中でシリアスで呟くのがやたら格好良くて、今回は緩急の付け方と雰囲気の見せ方が実に良く出来ています。
第二支部へ運ばれたバッターはとりあえず鉄格子の部屋に閉じ込められ、
「いい部屋だろ」
と笑う、東の裏社会ジョーク。
東が立ち去り、いよいよ計画を実行に移す時、とデビルバッターは交換したバットに隠して持ち込んだ高性能爆弾と、馬力増幅装置を装着。しつこく繰り返していたバットも本体も無害、というのがしっかり伏線となり、凶器を手にしたバッターは増幅された力で牢を破ると、東を気絶させてダイヤジャック号を奪い、第一支部の地下にある動力室へと走る。熱烈な野球好きとは仮の姿、動力室の原子炉を爆弾で破壊し、周囲数kmを吹き飛ばす事こそが、デビルバッターの真の目的だったのだ!
必死の東からの連絡を受けて動力室へ急ぐエース、キング、クイーンだが、一足遅く、動力室を占拠されて立ち往生。もはや、ジャッカー関東支部の大爆破まで後わずか。
「むぅははは、はーははは! むぅはははははははは……!!」
今回出番ここだけのアイアンクロー、凄い笑い声で大喜び。
「ジョーカー! 早く何とかしないと」
「……ジャァック!!」
ジョーカーの声に目を覚まし、立ち上がる東。
「なんですって……? 動力室に閉じこもった」
「急げぇ!!」
相変わらずよくわからなく魂レベルで繋がっている二人ですが、ジョーカーの腹の底から唸るような声が無駄に格好いい(笑)
東はジャックタンクで外部から動力室に突入するとマジックハンドでバッターの動きを封じ、その間にクイーンが爆弾の停止に成功。外へ吹き飛ばしたバッターを追い、船の上に並ぶジャッカー。
「天に代わってジャッカーが成敗してやる!」
口上は……やはり面倒くさくなってきたようです。今回は展開として面白い台詞になりそうだったので、ちょっと勿体ない。
船と倉庫街を使っての立体的なバトルが展開し、特に、画面手前に置いたコンテナをカットの切り替え代わりに使いながら、カメラを右に振る度に、キング→クイーン→ジャック→エースのアクションが連続する、というのをワンカットで見せたシーンは、凄まじく格好いい。その後、コンテナの隙間から4人が次々と現れ、バッターを取り囲むというのも決まっています。
バッターはジャンプでその囲みを突破すると、戦闘員を次々と爆弾代わりに打ち込んでくる、恐怖のデビルバッター殺人ノックで攻撃。トドメとばかりに巨大ボールを打ち込むがジャッカーコバックで弾き返され、打ち返そうとするもバットが折れてあえなく爆死。
かくして恐怖のスパイ大作戦は阻止され、河川敷で大地が超一人野球を習得しようとしていた……とほのぼのオチ。
途中まではデビルバッターの偽装工作に完全に欺されていた大地、カレン、東の3人(桜井はノーコメントを貫く)が、そんな事に全く頓着せず、正体を見せた敵をドライに抹殺するのが実にジャッカー。
今作だと9割方“いい怪人”ネタは無いだろうと思わせつつ、コメディ色の強い前半の展開に、最近の作風だと油断できないという危うさが加わって、ギリギリまでデビルバッターの正体を引っ張る事に成功。視聴者にはわかりきった芝居に劇中人物がコロリと欺されて白ける、というのを回避した上で、後半では、ギャグ怪人どころか自爆をいとわないクールなスパイだったデビルバッター、男の魂で通じ合うジョーカーとジャック、など初期を思わせる要素が加わってシリアスに展開し、路線変更を逆手に取ったともいえるメタトリックの秀作。
どこまで狙ったものなのか判断しかねますが、くしくもあの人の登場を前に、前半と中盤の『ジャッカー電撃隊』融合の到達点とでもいうようなエピソード。
どうせ自爆するならすぐにスイッチを押しても問題ないのでは……というのはありましたが、真相の判明後もテンポ良く進み、クライマックスのアクションも見応え十分と、ここまででも屈指の出来でした。路線変更の影響で崩れて溶け去るかと思いきや、突然こんなボールが飛んでくるのが、今作の侮れない所。