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『コンレボ』第20話「終わりなき戦い」感想

神化49年7月――超人課は米軍の要請により、東南アジアでの軍事行動に投入された後、日本の駐屯地から脱走した超人兵士ジョナサンの捜索に協力する事に。だが姿を消していた風郎太を仲介役に輝子に接触した爾朗は、「超人課は米軍に利用されている。ジョナサンの件からは手を引け」というメッセージを伝える。
センパイ、孫竹だとこじれる、ジャガーさんだと喧嘩になる、笑美だと一方的に喋れない、だから輝子に、という辺りの安定の駄目っぷり。
「まったくもう。相変わらず自分の都合ばかりね」
一方、風郎太はこっそり笑美にもご注進しており、微妙なバランス取り。まあそもそも、密会場所を稲荷神社にしている時点で、センパイは脇が甘いというか究極的にどこか甘えているというか躾を失敗したというか。
笑美は管狐を放ち、柴来人の協力を得て米軍から匿ったジョナサンを祖国へ帰そうとしていた爾朗の隠れ家を突き止める。
「お友達の言う通りだ。爾朗、俺はただの人殺しだ」
「でも超人だ。あなたはその力を、自ら望んで身につけたんだろう?」
「ああ。それが正しいと、素晴らしい事だと夢見ていた。超人は人類の新たな可能性、人間を未来に導く存在だと、そう聞かされて俺は改造に志願した。だが、俺があのジャングルでやってきた事は――」
これまで“社会の中の異能”であった超人が、かなり明確に“人類の進化形”として語られ、それを思想背景とする米軍の行動が、現実のベトナム戦争に重ねられるという構成。
そして米軍の目的とは――
大義だ。我々は国家の利益を超えた、全人類の為の兵士なのだ」
「……なんだと?」
「超人は人間の中から新しく生まれた進化の形。我らこそが人類を未来へと導く。一方で人より古きもの達は、人類の進歩を阻む足枷でしかない。ボギー、エルココ、トロール、日本では妖怪と言うのかな。――そういった旧支配者どもを、我々は全世界から駆逐する。その為の軍事介入だ。東南アジアの次は中東。更には……」
「世界中の妖怪を皆殺しにしようと」
「ステイツは世界中で最も新しい国だ。土着民の文化を完全に封印した上で、国家を作り上げたからこそ、今日の繁栄がある。我々には、この栄光を全ての人類に分け与える義務がある」
一種、米国の宗教ともいえる民主主義の啓蒙――それにともなうジャスティス――を、軍事行動を手段にした古き存在の駆逐に置き換えるという見事な、超人伝奇としてのなぞらえ。
若干、イギリス辺りと深刻な揉め事に発展しそうな気はしますが。
なおここで孫竹が口にする「猟豹部隊」は、小説『神化三十六年』のネタ。
笑美は爾朗とジョナサンの居場所を米軍に連絡するが故意に襲撃の足を引っ張り、
「あらー、一軒間違えたかしら」
は今までで一番いい顔でした(笑)
「なんだかいつもより、手口が悪者っぽくないですか?」
「今回ばかりは本気だし、慎重なのよ。――私にとっての、本当の敵が相手だから」
米国サイボーグ部隊の追跡を逃れて山中に潜む爾朗とジョナサンだが、かつての戦場の光景がフラッシュバックし、ジョナサンの精神は崩壊の一途を辿っていく。
「故郷に帰りたいのは本当だ……だがそれ以上に俺は、この国が駄目なんだ。ここに居るのが、耐えられないんだ。水の匂い、草木の匂い、川や森に何かが住んでいる匂い。故郷にこんな匂いはない。ステイツは我々が開き、我々が造った国だ、人間の匂いしかしない。でも、ここはあのジャングルと一緒だ! ここには奴等がいる!!」
ジャングルで出会った古き存在、得体の知れないアルカイックスマイル、何かを祀る神棚……人間でないものへの恐慌が爆発し、サイボーグ兵士との戦いで戦場を取り戻してしまったジョナサンは、行き会った登山者がぶら下げていた登山安全のお守りに反応して完全に精神の平衡を失うと一般市民を殺害、襲い来るサイボーグ兵士達の腕を次々ともぎ取っていく……。
「爾朗――やっとわかったよ。俺たち超人が、どんな風に人間を導くのか」
ジョナサンの背中のハードポイントに取り付けた腕がぞろっと展開するシーンは、元ネタのエッセンスを取り込みつつ、異形と化した超人の姿がむしろ彼が憎む古き神を彷彿させるというグロテスクさがお見事。
戦争と帰還兵という中心軸の重さもあってか前半ややもたついた感じだったのが、後半ロジカルに収束していって一つ弾ける、というのは虚淵さんの色でしょうか。
「人々には信仰が必要だ。だから古き伝承のものたちが畏れ、敬われてきた。奴等に代わる新しい神話を打ち立てるなら、より強く、おぞましく、より絶対的な恐怖が必要だ。そうだ、死と恐怖。これ以上平等で、わかりやすい真理はない」
「ジョナサン、そんな……」
「俺たちはキャタピラの響きとナパームの炎で全ての人々を啓蒙する! この世の果てまでを焼き尽くす! その時世界はやっと一つになるだろう。俺たちのもたらす恐怖によって!」
爾朗に襲いかかるジョナサンだが、割って入った髭大佐がマッハパンチでジョナサンを撃破。その機能を停止させると、マスター・ウルティマからの特務により爾朗の身柄を確保しようとする。
「人吉爾朗、我々に同行してもらおう」
「ふざけるな! 何様のつもりだ!」
「我々は自由の戦士。世界の未来を担うもの」
ヒートアップした大佐は、両手両足を取り外すと戦車ロボと合体し、サイボーグ兵士の描写は徹底的にグロテスク。
「なにが自由だ! なにが正義だ! ジョナサンの心を壊しておきながら!」
「いずれ誰もが辿る道だ。それでも我々は戻れない。世界の果てまで、戦い続ける!」
「仲間を犠牲にして、そうまで戦争したいか?!」
「旧支配者が居る限り、我々の戦争は終わらない。そしていつの日か、燃え尽きた名誉だけが、星の旗にいだかれ故郷に帰る」
「そんなもの正義じゃない。ただの――狂気だ!」
「おまえ達にはジャスティスがない。悪しき力も、正しき力も、全て偶像にして奉る。新しい時代に目覚めろ! 人類の未来を、導く為に!」
今作において背景としてずっと横たわっていた“戦争の正義”が、過去ではなく現在進行形の存在として爾朗の前に立ちはだかりつつ、正義とジャスティスがカミと神の違いになぞらえられるという詰め込みを押し通す、台詞の勢いが強烈。
戦車メカに押される爾朗だがメテオテールに助けられて逃走。後日、代々木八幡宮の境内で来人と言葉をかわす。
「あいつには帰る場所なんてなかった。戦場で生まれ、戦場に戻るしかなかった化け物だったのさ。無駄骨だったな」
「無駄なんかじゃない。ジョナサンは超人に憧れ、超人になろうとした。それだけで俺には助ける理由があった。……見届ける義務もな」
“戦争の正義”として生まれ、そこから抜け出そうとし、超人に憧れた者……恐らく因果関係は無意識に歪めている爾朗の、ジョナサンへの自己投影が語られ、その手にした新聞の記事を伏線として見せつつ、続く。
今回のエピソードを考えると、ここで八幡宮なのは何か意味があると思うのですが、武運の神を広義の“戦争の神”と捉えた上で、しかし爾朗だってそれをことさら気にかけるわけではなく、カミへの信仰は日常に取り込まれて機能していく、というようなニュアンスなのかなー。
新聞記事は、沖縄超人人工島 来年二月完成という見出しで、一時停止して確認したところ、設計はマスターウルティマ。通称ウルティマポリス。自在に潜行し、世界のどの海にでもいける世界初の海上都市。石油に頼らない新しいエンジンシステムを搭載し、7月の沖縄超人博覧会の最終日にそのシステムを公表予定、との記述。
下敷きになっているのは、沖縄国際海洋博覧会と思われますが、昭和40年代を描くにあたってまず入ってくるだろうと思ったのに、ここまでほぼ描かれなかった「沖縄」に、最後の最後で焦点を合わせるのか(この世界で沖縄がどうなっているのかはわかりませんし、現在でも非常にデリケートな問題でありますが)。沖縄国際海洋博覧会には金城哲夫が構成・演出などで関わっていたり、公開は1974年ですが、『ゴジラ対メカゴジラ』の舞台が沖縄である事など(この博覧会を念頭に置いた企画)も、物語の集約点としてはかなり在りそうに思えます。
後半戦初登場となったマスター・ウルティマが爾朗について「将来的なエネルギー問題をめぐる世界戦略において、鍵を握る存在とだけ言っておこう」と発言しているのも、新しいエンジンシステム、と絡みそうでかなり意味深。
今作においてある種の勢力が“人工の神”を造ろうとしていると考えた場合、では「何をもって神とするのか」という問題があったのですが、今回の米軍の目的意識と思想背景を踏まえると、「エネルギー問題を解消する(制する)存在」というは、新たな神の要件を満たしそうというか、実に直截でいっそ清々しい。
超人とは、「人間の中から新しく生まれた進化の形であり人類を未来へと導く存在」というステイツ超人観は『幼年期の終わり』(アーサー・C・クラーク)を思わせますが、これは虚淵さんのSF趣味が反映された所でしょうか。今回のサブタイトルはそのまんま、作者のベトナム戦争での従軍経験をベースにした戦争SF『終わりなき戦い』(ジョー・ホールドマン/※1974年発刊)からでしょうし。
ちなみに人工島の完成予定となっている1975年2月には、日本における有名なUFO・宇宙人目撃事件である「甲府事件」というのが発生しているそうなのですが、これは組み込まれるのかどうなのか。
ゲスト脚本回ではあるものの、終盤という事もあってかなり全体の伏線を拾ったり要素を繋げてあり、色々とぎゅうぎゅう詰め。超人伝奇世界へのアメリカ視点の融合の仕方が、面白かったです。
次回、チェンジ・ゲッ○ー! そして、集う超人達――という感じの予告ですが、しれっと新宿擾乱に混ざっていた元IQの人がまた出てくるとは。