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『仮面ライダーオーズ』感想11

◆第17話「剣道少女とおでんと分離ヤミー」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子
「ほら、俺、海外長かったから、漢字に弱くてさ」
「おい、おまえなんなんだ」
「俺? 俺は伊達明。で、これ」
バースの正体である見た目ガテン系の男――その名は、伊達明。映司とアンクは、飄々としてつかみ所がなく、自分のペースを貫く伊達に振り回される事に。
「あの、すいません。お互いの為にも、ここは普通に説明してもらえますか」
先日の比奈拉致事件で後藤さんに素直に質問する時もでしたが、映司の正攻法はときどき変に面白い。回りくどい事をして話をややこしくしない、というのがある種のメタギャグの一面を持っているといえますが。
その頃、ヤクザグリーンは女子トイレに侵入していた。
進化するなら、現代の! ルールも! 覚えよう!
剣道少女の強くなりたいという欲望から生まれたヤミーは剣道関係者を次々と襲ってカブトムシに成長。タトバの打撃が通用しない重装甲に対してオーズはタゴバを発動し、おもむろに1回轢いてみる。
轢いてからタゴバ発動ではなく、タゴバ発動してから轢く、というのが順序間違っている気がするのですが、これでめでたく、映司もヒーローとしての階段を一歩上りました!
この世界では、バイクで怪人を轢いてこそ一人前です。
「もっと……強く、強くぅ……」
「違う……私が心の底で思ってたのは、本当は……」
ゴリラパンチで有利に戦いを進めるオーズだったが、なんと、カブトヤミーの中からもう一体のヤミーが出現。
「壊す。全部滅茶苦茶に」
アンクも初めて見る予想外の事態でカブトとクワガタに囲まれてピンチになるオーズだが、そこへ伊達明が、主人公のお株を奪うヒーロー登場。
「変身」
伊達がセルメダルをベルトに投入してレバーを回すと、飛び出した複数のカプセルがアーマーを展開して、バース誕生。
なるほど、デザインそのものがガシャポンカプセルをモチーフにしているのか。よくそれで、ここまで格好良いデザインに仕上げたなぁ……。そう思って見ると、頭部が昔のSFぽさというか、脳が半分見えているサイボーグ怪物みたいになっていますが(笑)
「さあ、お仕事開始だ」
「セルメダルでだと……」
バースはカプセルぽきゅっでドリルアームを装着し、ドリルによる攻撃でダメージを与えると共に、そのままセルメダルを強奪するというバースアームの能力が判明。大雑把にメダル銃を乱射し、オーズとのダブル攻撃でカブトムシを撃破するが、クワガタには逃げられてしまう。
すかさず、メダルだメダルだーと、地べたに這いつくばってセルメダルをかき集めようとするアンクだが、バースはクレーンアームを装着すると散らばったメダルを全て回収。
オーズやグリードが主にコアメダルにこだわるのに対し、セルメダルを力とし、セルメダル回収に特化したライダーとして、バースは特徴付け。メダルをエネルギー的に利用とする鴻上の方向性とも繋がっています。
1億円を稼ぐ為に、全てのセルメダルをいただく、と豪語する伊達は映司とアンクに実質的な宣戦布告。それを物陰から、後藤さんが見ていた。
回想シーンで前回ドクター相手に格好良く啖呵を切った事が描かれた後藤、それ以外の出番がランニングと覗き見だけという安定して悲惨な扱いですが、何よりリアクションを見る限り、謎のおっさんがバースを装着して実際に活動している件について報告が上がっていないようで、とうとう、連絡網からハブられているのか。これが、日本社会の陰湿なイジメの実態なのか! 着々と資料室送りの日が近づく後藤さんに、希望の光は?!
あと、比奈が前回助けられたお礼として、映司にマフラー、アンクにはメダルホルダーをプレゼント。どうやらアンクは気に入ったようで、比奈とアンクの関係変化が少しずつ描かれているのは、良い所。


◆第18話「破壊と理由とウナギムチ」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子
オーズとバースの共闘を持ちかける映司だが、伊達はそれを拒否。
「そ、馬鹿馬鹿しいよな。こんなもん取り合うのはさ。でも逆に言うと、なーんも無いのに戦っちゃてる方が、俺的には不気味で危険だな」
伊達をストーキングしていた後藤は、けんか腰に突っかかるかと思ったら馬鹿丁寧に挨拶をするという、予想外の展開(笑) てっきり「俺の劇場版を帰せ!」とバースベルトを欲しがるのかと思ったのですが、社内の上下関係には忠実でした。……最近どちらかというと上司命令に逆らっていた気がするのですが、それでは底辺から抜け出せない事に気付いたのか。
「なんだか知らないけど、まだ日本にも残ってたんだな。純粋な若者」
そして無駄におっさんくさい伊達であった。
降りしきる雨の中、プライドを捨ててケーキを食べ続ける人生なんて俺には無理だーーーーーと、ストレスMAXな職場環境の悩みを青春ランニングにぶつける後藤は、どうやらそのまま一晩走り続けていたらしく、空腹と疲労で行き倒れ寸前の状態でクスクシエに転がり込む。
(あの世か……それもいい)
エジプトフェアの準備中だった知世子と比奈の姿に光を見た後藤はそのまま 天に召され 気を失い、どんどん駄目になっていきますが、駄目になってからの方が脚本も演出も描写が楽しそうです。
その頃、ヤミーを追う映司とアンクは直球勝負で少女の元に向かっていたが、そこへ伊達も登場。
「俺はこのお兄さん達みたいに、鈍感じゃないからさ」
なんか色々、根こそぎ否定されたぞ!
「フン、そういう事か。欲望の定番だな……」
伊達の言葉に、アンクも少女の欲望の源を把握し、超うろたえる映司。
「…………おい、わかったのか? …………なに?」
「おまえ、マジか」
映司の青春力は、グリード以下(多分、ガメルより低い)。……まあ、恋愛ごとに疎い自覚がある分、仮面ライダーとしてはマシかもしれませんがもしかして。
ここでしんみりしたいいシーン用の音楽が途切れてギャグに切り替わるテンポも面白く、伊達の参戦による会話の化学反応が、早速面白い方に転がりました。
そして映司、やっと気付く。
「あーっ、そっか! 恋愛だ!」
「デリカシーの無い奴は黙ってて。ね?」
少女の欲望の根源――それは、強くある事で憧れの先生の側に居たい、より内奥では、憧れの先生の結婚式を壊してしまいたいというものだった。
「いいんじゃない? 壊したければ壊せば」
「ちょっと伊達さん!」
「ただし――直接自分の手で」
そこへウヴァの放ったクズヤミーが足止めに出現し、すかさず少女を守りながら戦う事で、伊達のヒーローポイントを上積み。これが有ると無いとではこの後の台詞の説得力が違うので、大事な所です。
「梨恵ちゃん、俺もね、欲しいもんあるの。――1億円。もう、どっろどろの欲望まみれよ俺。でもね、一個決めてんだ。そいつを果たすのに他人の手は借りない。ただし後、もう一つ。絶対に自分を泣かせる事をしない」
「自分を……」
「そ。他の誰でもなく自分。それだけ言っとこうと思って」
いやこれは、伊達さん格好いいなぁ。
セルメダルを入手するだけなら教会の手前で待ち構えていればいいものを、これを伝える為にわざわざ少女に会いに来る、というのがまた実に格好いい。
放映当時、ネット上の反応として「伊達さん」という人が人気があるようだ、というのは本編を知らなくとも伝わってくるレベルだったのですが、これはまあ、人気出るわけです、納得。
正直あざといレベルで、強い/普段は飄々としているが締める時は締める/なんだかんだ若者を導いたり助言を与えると、男(の子)の好きな“格好いいおっさん”像が凝縮されているわけですが、小林靖子的に言うと、メガシルバー/早川裕作(『電磁戦隊メガレンジャー』1997)の正当進化形といえるのか(『メガレン』の場合、久保田のおっさんが居るので早川のメンタルはもう少し主人公達寄りでしたが)。
早川が80年代ヒーローになりたいまま成長してしまった困った大人だったとすると、伊達さんは極端な話、《平成ライダー》の世界にやってきた《昭和ライダー》といった感じ(70年代ヒーローは案外、個人の復讐心などが原動力だったりする点も含めて)。
伊達の言葉を聞き、竹刀を手に走り出す少女。
「梨恵ちゃん!」
「行かせてやれって! 自分を助けに行ったんだ」
映司が誰かに手を伸ばすのは二度と後悔したくない映司のエゴで、映司はあくまで“助けてしまう”立場であり、「人間は欲望を制御できる」と言いつつも、制御自体は本人任せで良くも悪くも片付いた問題に関しては無責任(勿論、また欲望に負けたらまた手を伸ばすのが映司のヒーロー性)、というのが今作これまでの基本構造だったのですが、ここで伊達がヤミーの親に“自分を助けさせる(自分と戦わせる)”事で、欲望との向き合い方を示す、という形でそれをあっさりと乗り越えてしまいました。
『オーズ』を見ていてまとわりついていた微妙なもやもやの一部がスッキリしたのですが、これは微妙な路線修正なのか、それともここまでの16話は、“自分と戦う男”伊達明の為の布石だったのか。
なおクズヤミーは、全員、素手の蓄積ダメージで撃破しました(笑) レッ○・ファイト!
「こんな事、自分を許せなくなるだけ、ずっと!」
結婚式場へと走った少女は、クワガタの前に立って綺麗な面を一発決める事で自分の手で自分を救い、そこに駆けつける主人公、じゃなかった、無精髭のおっさん。
「危なかったな。ちゃんと自分を助けられた。後は任せときな、Baby」
伊達さんは、こういう局面でちょっとキザな台詞を外す所まで、あざとい(笑)
伊達はバースに変身し、遅れてやってくる映司。道場のシーンで、伊達に頭を下げた映司がヤミーの場所を聞くのではなく恋愛指南を頼む、という映司の優先順位としては変なギャグがあったのですが、それは実は伊達の虚を突いてタコ缶を忍ばせる為のトリックであったと、伊達さん大旋風に食われ気味だった主人公、ちょっぴり反撃。
ヤクザグリーンが乱入してバトルは2vs2となり、バースはキャタピラレッグを発動。オーズは青いメダルを初使用し、タカ! ウナギ! チーター! が初披露なのですが、サブタイトルにもなっているのにブレストキャノンの時間稼ぎ扱いで酷い(笑) まあ、両手から電気鞭って、凄く、ヒーローぽくないですが!
バースの多重チャージブレストキャノンが炸裂してクワガタは溶け、ヤクザは撤退。少女と映司達は、無事に終わった結婚式のチャペルの響きを聞くのであった……。
「伊達さん。やっぱり、協力して戦いませんか、俺たち」
「無理」
「……即答ですね」
「あんたは自分を泣かすタイプだから」
「え? ……そうですか?」
「まあ俺の勘だけど。そんじゃ!」
そして後藤さんの出番は、あの世に辿り着いて以降、無かった。
ありがとう後藤さん、さようなら後藤さん、バイク便の勇姿を僕たちは忘れない!
バース、というか伊達明大暴れ編でしたが、映司とアンクが結局のところ二人一組のセットとして描かれていたこれまでの物語から、明確なカウンターとしての伊達が登場した事で、ようやく映司のキャラクターに陰影が出てきました。
16話かけて作ってきた映司&アンクのカウンターである為、伊達のキャラクター強度が高いというのもありますが、これは非常に大きい。
そう見ると、前半の後藤のキャラクター的弱さは、映司&アンクが成立する前にそれを邪魔するわけにはいかなかった、というのが見えてくるわけですが、物語が次の段階に進んだので、後藤も次のステップに進める……のか?