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青崎有吾2冊

◇『体育館の殺人』


 放課後の旧体育館の舞台上で、何者かに刺殺された放送部部長が発見される。死体が発見された時、現場に居合わせた複数の人物の存在により、体育館は一種の“密室”と化していた。警察の捜査により、犯行が可能だった唯一の人物として卓球部の部長に嫌疑がかかり、卓球部員・袴田柚乃は、部長を救う為に1人の人物に助けを求める。それは、中間考査で全教科満点という離れ業を成し遂げた天才にして、学校内に住み込んでいると噂されるアニメオタクの駄目人間・裏染天馬であった――。
とあるアンソロジーに収録されていた短編がそこそこ面白くて、同作者のデビュー作に挑戦。
タイトルは如何にもな古典風味、内容はエラリー・クイーン風という、直球勝負の学園本格ミステリ
作者は当時、ミステリ研究会所属の現役大学生という事で、率直なところ、その年齢でデビュー作だから許せるという若書きの文章なのですが、現場に残されたある不可思議な遺留品から推理を展開してロジカルに犯人に辿り着く、という構造の清々しさ、一つのスタイルの徹底がなかなか楽しく読めました。
私はあまり、ガジェットの為のガジェット、トリックの為のトリック、物語である事よりも本格ミステリである事が優先される小説、というのは好きではないのですが、今作に関しては変な欲を出さずに、とにかくストレートにこれはパズラーです、という造りが気持ち良かったです。
極端に言うと、300ページ強の推理クイズで、キャラクターに余計なドラマを語らせない分、クイズとして成立している、といったような作品。


◇『水族館の殺人』

 夏休み、校内新聞の取材で市内の水族館に向かった風ヶ丘高校新聞部の3人は、そこで殺人事件に遭遇する。何者かが飼育員を殺害し、その死体をサメの水槽に落としたのだ! 監視カメラの映像から容疑者は11人の職員に絞られたが、死亡推定時刻には全員のアリバイが成立する事が判明。刑事の兄から連絡を受けた柚乃は、成り行きで天馬と共に事件の起きた水族館へ向かう事に……。
シリーズ第2弾。残念ながら、第1作に比べて、全てが悪い方向へ(^^;
路線は前作と同じく、クライマックスでロジカルに解答を導く事を中心にしたパズラーであり、そういった作品において、探偵役が警察の捜査に加わる経緯にツッコむのは野暮なのかもしれませんが、それにしても、捜査開始してから数時間で、全容疑者のアリバイが成立して困ったから外部の高校生を呼んでしまう刑事は酷すぎます。
せめて駄目刑事ならまだ良かったのですが、第1作時点で、少なくとも探偵役と出会うまではそれなりにまともな刑事だったような形で書かれているのに、この後も、警察として当然やるべき事を全くやらずにひたすら探偵役の踏み台となる展開が続き、壮絶な設定ミスというか作者の物語構築能力に疑問を抱くレベルに。
肝心の謎の方も、前作に比べて複雑化を狙ったのかもしれませんが、謎の中心点が散漫になってしまい、犯人を突き止める際の快感が薄れてしまいました。
それから、前作でヒロインの影が薄かったので補強しようとしたのでしょうが、サービスシーンが凄く露骨に。それが悪い事とは言いませんし、下品になる一歩手前で止めていますが、あまりにストレートすぎて、小説としてはもう少し洗練されてほしい部分。
2巻600ページかけて、探偵役が正直まるで魅力的になってこないのも、少々厳しい。2010年代に変人探偵を成立させる為に重度のアニメオタクという設定にしたのでしょうが、それが探偵役の設定としてしか用いられず、物語にほとんど絡まない(まずヒロイン初め、大抵の登場人物がアニメの話題をスルーする)ので、ちっとも広がりません。劇中で探偵が口にするアニメやマンガのネタが9割わからなくても問題なく読めてしまうというのは、小説として長所なのか短所なのか、考えさせられる所です。
凄く見事に、物語や人物の肉付けが上手くないままトリックとロジックを弄ぶ方向に入っており、個人的には残念。
同シリーズで、短編集と長編3作目が出ているようなのですが、とりあえず保留。