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久々のミステリ熱

周期的に、偏ってミステリー小説が読みたい! という波が来るのですが、ここしばらく、その波が到来。海外の古典中心に手を出しておりました。
◇『オランダ靴の秘密』(エラリー・クイーン
◇『チャイナオレンジの秘密』(〃)
クイーンは、ドルリー・レーン4部作を読んだだけで国名シリーズを一つも読んでいなかったので、この機会に挑戦。“読者への挑戦”に象徴されるロジック重視の正攻法のパズラーで、一つの様式が完成されており、後世の作家に多大な影響を与えるわけだと、成る程納得。
『オランダ靴の秘密』は、病院の手術室で起きた富豪の殺人事件の謎で、筋立ては割と面白かったですし、解決にも文句は無いのですが、一つ、劇中で非常に大きな手がかりとされている要素に、探偵だけしか気がつかない、というのは如何にも無理があって、引っかかったところ。今作、探偵の知性を際立たせる為に不当に周囲の人間を愚かに描いているわけではないだけに(なにしろ現場責任者は探偵の父親なので)、どうも引っかかってしまいました。その謎が全ての鍵というわけではなく、複数の疑問点を解明していく事で唯一の犯人を導き出す方程式が完成する、という形式なので、あくまで謎の一つに過ぎないのですが、物語としてはそれをかなり劇的な解明として描いている為に、どうも違和感が残ってしまいました。
『チャイナオレンジの秘密』は、身につけた服装全てが裏返しの状態で殺されていた男の正体と、その犯人に迫る事件で、奇矯な状況設定がまず秀逸。話の出来も悪くなかったです。
これは単なる偶然の一致なのか、作家の癖なのかは何とも言えないのですが、両作とも難点としては、“読者への挑戦”のフェアプレイを前提としている為か、物語として犯人の隠し方が同じパターンになっている事。
私はミステリを読むに際して、自分で謎を解くというよりは、探偵の解決に驚くことを楽しむ、というタイプなので、ロジックを組み立てられるわけではないけれど、小説の書き方でだいたい犯人の目星がついてしまうのは、マイナスポイント。小説の形式としては、そこを含めて楽しむもの、であるのかもしれませんが。
◇『帽子から飛び出した死』(クレイトン・ロースン)
窓も扉も内側から閂のかかった堅固な密室で心霊学者が殺害される。その夜、被害者に呼ばれて死体の発見者となったのは、誰も彼もが奇術師や怪しげな霊媒ばかり。警察は密室の謎を解くアドバイザーとして、高名な奇術師マーリニに協力を求めるが……という奇術師だらけのミステリー。
読者を眩惑する為の衒学趣味がやや行きすぎで回りくどい部分がありましたが、なかなか面白かったです。特に、クライマックスでトリックが解き明かされてみると、そのヒントが極めてハッキリと読者に示されていた事に気付かされる、というのはお見事。
下手な本格ミステリは、謎解きの後で「ここにヒントがあった」と主張する箇所の文章がそもそも稚拙でわかりにくかったり、読者の目を逸らそうとしすぎていて不明瞭だったりの果てに、「書いてあるからいいんだ」という事自体が小説としての巧拙を問われずに作者のアリバイ作りに陥ってしまっている場合がありますが、今作はそのヒントの示し方に極めて説得力があり、何よりそこが素晴らしかったです。
だけに、謎解きにおいて一つだけ、それはその理由でいいのか、という部分があったのは残念でしたが、これは時代的なものもあるのか。
これは今作には全く関係ない話ですが、下記アンソロジーに幾つか、“狂気は遺伝性である”という要素が登場人物達の常識として語られる、というのは時代を感じたり。
◇『パリから来た紳士』(ジョン・ディクスン・カー
短編集。表題作はカー短編の傑作という事で期待したのですが、途中でオチがわかってしまい、あまり楽しめず。有名な古典作品なので、もしかしたら以前に筋に触れた文章を読んだ事があったのかも。収録作では、マーチ大佐の登場する2編が好みでした。
◇『天外消失』(アンソロジー
◇『51番目の密室』(アンソロジー
過去に出版された『世界ミステリ全集:37の短編』を底本に、合計26編を選りすぐったアンソロジー。如何にもな本格から、ハードボイルド系のクライムストーリー、スリラーにSFまで幅広く、全くピンと来ないものもありましたが、なかなか面白かったです。
収録作からベスト5(順不同)をあげると、「天外消失」(クレイトン・ロースン)「女か虎か」(フランク・R・ストックン)「魔の森の家」(カーター・ディクスン)「百万に一つの偶然」(ロイ・ヴィカーズ)「ジェミニィ・クリケット事件」(クリスチアナ・ブランド)。
上で「パリから来た紳士」はいまひとつだったと書きましたが、カー短編の最高傑作と言われているらしい「魔の森の家」は非常に面白かったです。「女か虎か」はたぶん読むの3回目ぐらいなのですが、内容知っていてもやはり面白い。白眉だったのは、「ジェミニィ・クリケット事件」。巻末の座談会で参加者3人ともがベスト5にあげていましたが、これは実に良く出来た作品でした。
クリスチアナ・ブランドを1つも読んだ事がなかったので、他の作品も読んでみたい。
そしていわゆるクライム・ストーリーの類は、何をどう楽しめばいいのか、全く受信アンテナが無い事が判明(^^;
◇『長い廊下のある家』(有栖川有栖
◇『怪しい店』(〃)
◇『菩提樹荘の殺人』(〃)
◇『高原のフーダニット』(〃)
◇『闇の喇叭』(〃)
日本人作家は、有栖川有栖をどさっと。
日本のいわゆる新本格の作家陣とはどうも波長が合わない事が多いのですが(定期的に試しては壁にぶつかってしばらく冷めるを飽きずに繰り返している)、有栖川有栖は数少ない例外で、割と面白く読める一人。何が好きなのか、と問われると難しいのですが、<火村シリーズ>が概ね好感触なので、火村−作家アリスのコンビ作品と馬が合うのかも。
まだ熱が続いているので、引き続き色々と手を出してみる予定。