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『けものフレンズ』第3話の快感構造

あまりに話題なので『けものフレンズ』を配信で視聴したのですが、第3話が非常にわかりやすく面白かったので、自分メモ的に(なお、本編に関する考察要素を含む内容ではありません)。
詳しい説明は省きますが、主人公2人(かばん、サーバル)は、図書館を目指して旅の途中。
第3話では冒頭から(正確には第2話のラストから)、
大目標〔図書館へ到達する〕
為に
中目標〔ジャパリバスを動かす〕
為に
小目標1〔バッテリーを充電する〕
為に
小目標2〔山頂のカフェを目指す〕
と、やるべき事が明確に順序だてて提示。
これは言ってみればコンピューターRPGにおける“お使いクエスト”なのですが(今作全体の構造がそもそもRPG的ともいえます)、そのクエスト内容が非常に良く出来ており、その大きなポイントになっているのが、小目標2。かばんちゃんとサーバルは高山の麓に辿り着くもロープウェーが使用できず、そこで出会ったトキの助けを借り、かばんちゃんはトキに連れられ「飛行」して、サーバルは自力で「登攀」してそれぞれ山頂へ向かう事に。
今作ここまで、第1話(歩行+木登り)→第2話(歩行+跳躍)、と横方向に進行していたのですが、ここで登頂という縦方向への移動が盛り込まれます。そして、1−2話では、個体の能力差はあってもヒト種にも可能な移動方法が描かれていたのに対し、ヒト単体では不可能な移動方法である「飛行」が描かれる事により、物語の構造が横から縦に劇的に変化。
・「飛行」という移動方法そのものが有する(心理的)快感
・それによって表現可能な映像的面白さによる(視覚的)快感
によりギミックと劇構造の変化が密接に繋がり、そして、横方向の移動では中継地点に過ぎなかったものが、縦方向になる事で「山頂」という一時的なゴールが設定され、そこに到達する事による達成感が得られるという、極めて優れた状況設定。
同時に、主人公2人の行動を分ける事で、かばんちゃんがゲストとの交流要素を、サーバルが山登りによるアクション&サスペンス要素を、それぞれ分けて担当し、物語の緩急もそれによって発生可能にする、と実に良く出来ています。
道中、かばんちゃんはトキに歌についてアドバイス(無償の行為に対する恩返し1)。
そして山頂のカフェでバッテリーを充電(小目標2の達成による報酬としての小目標1の達成)。
そこで快く発電機を貸してくれたアルパカの為に、カフェの場所を案内する地上絵を作成(無償の行為に対する恩返し2)。
サーバルとも無事に合流し、かばんちゃんのアドバイスとアルパカの淹れた紅茶により、上達するトキの歌(トキの得る報酬1)。
トキはカフェのお客になると宣言(アルパカの得る報酬1)。
そこへ別種のトキがカフェの存在に気付いて現れる(トキの得る報酬2&アルパカの得る報酬2)。
トキ〔移動の手助け→かばんちゃんのアドバイス→歌の上達→→仲間との出会い〕
アルパカ〔太陽電池の提供→かばんちゃんの看板作成→来客→→更なる来客〕
という形で、ゲストキャラが善行の報酬を受け取ると同時に、かばんちゃんの行動によりその抱えている問題(の一部)が解決する事で、登場人物の因果関係が全てプラスに収まり調和の取れた、極めて気持ちの良いクライマックスが成立。
またここでは、どちらかというと受動的なキャラクターとして描かれてきたかばんちゃんが、サーバル不在の状況で自ら行動する事で、「主人公の能動的行動による問題の解決」という原則的な物語の快感も上乗せされています(先も考えると、第3話としてはこれはやりすぎったともいえるのですが)。
そして非常に優れているのが、それら全ての報酬として、かばんちゃんとサーバルがロープウェーで楽々(?)下山する事。
かばんちゃんが長い時間をかけて運ばれ、サーバルが苦労して苦労して登山する姿を描いた事により、スムーズな帰路が(受け手にとっても)物語の報酬として成立し、最後に2人がそれを得る事で、〔往路(苦難)→山頂(問題解決)→帰路(報酬)〕とエピソード全体の構造も筋道が通り、「こうざん」を登って下りてくる物語として、文字通りに着地。
個々の要素によって与えられる快感が、最終的にエピソード全体の構造のもたらす快感の中に包み込まれて完結する、という実に良く出来た物語。
これに更に、協力者であると同時に困難を抱えた存在としてトキとアルパカのキャラクター造形が加わるのですが、「仲間を求める」トキと「客を求める」アルパカは、ともに「孤独」を問題として抱えており、これは当然、自分が何者なのかを知る為に旅をするかばんちゃんに重ねられるといえます。同時にそれは人間の持つ身近な問題であり、物語の大目標(マクロ)と個人の問題(ミクロ)がしっかり連結された上で、三者はいずれも、他者への善意をきっかけに、問題の解決へ向けて一歩前進するという、共感とその解決法の置き所も絶妙。
如何にして受け手に快感をもたらすか、それを物語としてまとめるか、という点で非常に美しく完成していて、練り込まれたエピソードでした。