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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』感想(ネタバレあり)

教えてくれ。イカレちまってるのは、俺なのか――それとも世界なのか。


 石油と水を巡る争いが世界的な核戦争へと発展し、放射能に汚染された荒野がどこまでも広がる近未来――過去のトラウマから幻聴と幻覚に苛まれる男マックスは、狂気と現実の境目を行き来しながらも「生き続ける」という強い意志で荒廃した世界を彷徨い続けていたが、水源に築いた砦を中心に作り出した、自らの王国に君臨するイモータン・ジョーの配下に捕まってしまう。
 砦の虜囚となり、ジョーの忠実な兵隊であるウォー・ボーイズの為の輸血袋にされたマックスは、裏切り者を追う為にジョー自ら率いて出撃した部隊の車にくくりつけられ、この追跡行に巻き込まれる事に……。
荒廃した世界、抑圧される人々、バイオレンスな雰囲気、と苦手そうな要素が目立って手を出していなかったのですが、思い切って見てみたところ……いや面白かった! 物凄く良く出来たアクション映画でした。
爽快なエンタメ
時間配分の巧さ
クライマックスへ向けた綺麗な上昇曲線
を兼ね備えており、溢れるサービス精神が映画として高い完成度でまとまっている、素晴らしい1本。
基本、1台のトレーラーを巡るチェイスストーリーなのですが、カーアクション+肉弾戦、でここまで色々と出来るのか、という豊富なアイデアと次々と繰り出される映像の迫力で飽きさせません。またその、カーアクション+肉弾戦を成立させる為の、宗教的熱狂に支配され、ヴァルハラの約束により死を恐れない狂戦士集団、ウォー・ボーイズという設定が世界観と噛み合って非常に巧み。
死兵の集団の描き方が説得力をともなって面白く、生きる為に走り続ける主人公達とも鮮やかな対比になっています。
アクションでは、バイク軍団と、棒軍団がお気に入り。あと公開当時にかなり話題になっていましたが、ギターはインパクト絶大。
流血要素も多少はありますが、基本、衝突とか爆発の方に力が入っており、痛そうなシーンはだいたいスピーディにすっ飛んでいくので、流血苦手な人でもそれほど辛くはないと思います。
また、私『マッドマックス』シリーズを1つも見た事無いのですが、それでも問題なく楽しめる作りでした。日本人は、『北斗の拳』に多大な影響を与えた映画のシリーズ作品、という点だけ抑えておけばすんなり入れるのではないかと。
あと、文明が崩壊して人間性が後退した世界を、猥雑さや品性の下劣さではなく、地続きでありながらどこか歯車のズレた違和感を示す徹底したディテールへのこだわりで表現しており、世界観の割に全体が下品ではない、というのは高ポイント。特典映像で監督が、「荒廃した世界だからといって人間はスクラップ置き場に暮らすわけではない」というようなコメントをしていましたが、“この世界なりの美”への意識が作品として貫かれているのかな、と。
狂人の集団ともいえるウォー・ボーイズも、あくまで彼らにとっての崇高な志のもとにその命を燃やしており、どこか魂の奥底で気高くあろうとする人々の物語なのかな、と思えます。
次々と畳みかける迫力のアクション、物語のテンポの良さ、それらを支える世界観と道具の数々、と非常に完成度が高く、映画って面白い! もっと映画を見たいなぁと思わせてくれる、そんな作品でした。
以下、もう少し、内容に触れた感想をちょこちょこ。



冒頭、世界観の説明が超ざっくり行われた時はやや不安になったのですが、そこから、2つ頭のトカゲと、それを踏みつけてむしゃむしゃ食べる主人公、で掴みはバッチリ。モノローグで格好つけていたのに割とあっさり捕まってしまった主人公が、轡はめられて輸血袋として車のフロントにくくりつけられている、というのは強烈な絵でした。
轡、ずっと外れなかったらどうしようかと思っていたのですが、外れて良かった(笑)
派手なアクション盛り沢山の今作ですが、凄く良く出来ていて感心したのは、それらを刈り込んでの、物語の時間配分。
全体が概ね30分×4、という構成になっていて、
1〔プロローグ〜砂嵐突破〕
2〔谷を抜けての逃亡〜ドタバタの中で心を通わせていくも一人リタイア〕
3〔故郷に辿り着く〜Uターンの決意〕
4〔逆襲のカチコミ〜エピローグ〕
と、次々と刺激を与えてくるのを基本としながらも、2時間を綺麗に分割してその構造を守る事で物語に自然な緩急が生じており、1つの局面をダラダラと引っ張り過ぎないで、非常に見やすい映画になっていると思います。映画は“時間の芸術”とも言われますが、この綺麗な構成から生み出されるテンポが、非常に気持ちが良かったです。
そして、最初は十把一絡げだったジョーの女達が、旅を進めていく中で個性が見えてきて、視聴者にも「人」として見えてくる、というのがまた上手い。
同時に、マックスを輸血袋して使っていたボーイズの一人がしぶとく生き延びた末に旅の同行者となり、死と再生の狂気から抜け出して生きる事に前向きになっていく、というのもお見事。
ニュークスはあまりに狂気全開だったので、あそこまでおいしい事になるとはさすがに思いも寄りませんでした。そして、吹き替えが中村悠一だった事を知ってビックリ。割と中村悠一は好きな声なのですが、全然わかりませんでした。確かに後半、気がつけば喋り方までやたらに男前になってる……?! と思ったけど。
前半、凄く勇壮な音楽で暗殺に向かったら、いきなり失敗する所が好きです(笑)
上でも触れましたが、一番好きなアクションは、谷のバイク軍団。崖を走り降りてきたバイクが、タンカーの下に滑り込むシーンは興奮しました。ジャンプからの手榴弾投擲も格好良かったですし、爆走カーチェイスから小回りの利くバイクとの空中戦、という変化の付け方も上手く、アクションの工夫に脱帽です。
アクション以外で一番好きなシーンは、最後のマックスによる輸血。ずっと付けっぱなしだった輸血管が伏線として綺麗に収まったのも良かったですし、それが二人の関係性の象徴になったのも良かったです。あと私、『伝説巨神イデオン』の輸血シーンが凄く好きでして、これが世界と未来に対する希望なんだ、とちょっと重ねて見てしまった所もあったり。
余す事なく時間を使い切り、プロローグからエピローグまで疾走感を保ちながら、盛り上がりが上昇曲線を描いてクライマックスへ到達する、と構成も構造も美しい作品で、大満足でした。