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『ビーファイターカブト』感想29

◆第41話「ルール無用頂上決戦」◆ (監督:東條昭平 脚本:浅香晶)
どうしてビーファイターカブトは、第41話にして最強兵器の自己修復待ちのヒーローチームになってしまったのか……。
最近帰りの遅いゆいを心配して急に兄貴風を吹かす甲平は、ゆいが黙ってアルバイトしている事を知り「非行のはじまりだ!」と騒ぎだすが、それはアカデミアの皆にクリスマスプレゼントを用意する為であった。だがプレゼントの中に自分宛のものが見つからなかった事で、ショックを受けて拗ねた甲平は甲平のブランコで一人黄昏れ、物凄く情緒不安定なのですが、これはまた、冬になって昆虫魂の供給が減少しているのか……。
放置気味だった兄妹愛要素を拾ってきたのはわかるのですが、なにぶん放置気味だったのにあまりにやり方がストレートすぎて、甲平の言行がすべからく唐突。どうして浅香さんは、二速とか三速抜きに、いきなりトップギアから始めてしまうのか(^^;
「どうした、元気がないな」
そこに現れた兄者は、俺も弟には苦労しているんだ……と長兄の悩みを甲平としみじみ語り合う、わけもなく、その弟に貰った呪いの腕輪を用いて、甲平にチェーンデスマッチを挑む。
「もはやマザーの時代ではない」
いつまで経っても目覚めないマザーに代わり、カブトンを倒す事でメルザードの新たな支配者となる、とライジャは剣を振るい、救援に駆けつけるクワガーとテントウだが、呪いの腕輪の効力によりお邪魔虫の乱入は阻止されてしまう。ところがそこにデズルから追加の腕輪を貰ったサソリが参戦し、三つ巴のチェーンデスマッチがスタート。
知能と策略に長けたと自己申告するデズルは漁夫の利を狙い、ようやくカブトンと一騎打ちで力を見せるサソリですが、あまりにも遅すぎます。
戦闘の合間には、実は甲平には手編みのセーターを準備中だったゆいの姿が挟まれるのですが、率直に今になって兄妹愛ネタをやるなら、個人的にはゆい×健吾のラブコメが見たかったです。なにぶん最近、健吾があまりにも不憫すぎるので……3人パーティなのに、良識人の参謀役ポジションが、ここまで没個性化するとは、夢にも思いませんでした。やはり、空手の道を突き進み、筋肉推しで行くべきだったのでは。
(俺には、俺には可愛い妹が……俺は負けない!)
苦戦するカブトンは1ミリの前振りもない心の叫びで奮起し、前回(「たった一人の為に戦う力が、地球や、平和の為に戦う力を、超える事だってあるわ!」)の今回で考えると、
地球や、平和の為に戦う力  シスコン魂
「俺たちの、ビーファイターの戦いは違う! 信ずる者の笑顔を、自由を守る為に戦うんだ!」
その上で、“信ずる者の笑顔を、自由を守る為に戦う”とは何か、という背景を描いてきてこそ言葉に中身が宿るわけなのですが、とにかくそういったテーゼの積み重ねが薄いので、40話過ぎにも関わらず、その場の勢いでそれらしい事を言わせているだけになってしまっているのが、本当に残念。
カブトンはシスコン魂で呪いの腕輪を破壊し、呪縛の解けたクワガーとテントウが現場復帰。インプットライフルで兄者とサソリを吹っ飛ばすが、そこに姿を見せるクワガタイタン――そしてその巨体からは、マザーメルザードの声が響く。
「どけ、愚かな子供達よ」
眠りから醒めて早々、「俺にとって全ては邪魔者。兄者も、デスコーピオンも、今はマザーでさえも」と口を滑らせたデズルをお仕置きし、自らクワガタ神を操って降臨したマザーに、とりあえずネオビートマシンを繰り出してみるビーファイター
「みんな、頑張ってくれ」
これといって対策を検討するわけでなく、超兵器の自己修復をひたすら待つだけの小山内博士は、個人的な好き嫌いを抜きにしてもビックリするほど役に立たない置き去りぶり。某機動刑事だったら最終回直前にコスモアカデミアごと始末されそう。
この後、クワガタ神の強大さを現す為に、ミニチュアのネオビートマシンが果敢に挑むも紙細工のように吹き飛ばされる、というのは対比もハッキリして面白かったのですが、やるならタイタン初登場の時にやるネタで、何もかも遅すぎます。
「俺たちは諦めないぞ! 俺たちは逃げない! 負けないぞ!!」
ネオビートマシンから叩き出されるもカブトンが不屈の闘志で吠えると、自己修復を完了してアストラルセイバーが目覚め、今回のエピソードの軸であった兄妹愛テーマと何の関係もないのが、凄く浅香脚本です。
……まあ、今作に関しては、作品全体がこうなので、浅香さんだけが特別悪いわけではない(むしろ前半のアイデアストーリーでは健闘していた)のですが、特に一貫性の無いアイデアストーリー→それまでの積み重ねのないテーゼがいきなり振りかざされる→と思ったら更に別のテーゼで問題が解決する、とくしくも今作の歩みを凝縮したような展開になってしまいました。
「決着はこの次だ!」
復活したカブテリオスとしばらく殴り合ったクワガタイタンはなんとなく撤退。家に戻った甲平は、ゆいがセーターを準備していてくれた事を知り、博士のナレーションが「甲平とゆい、兄と妹の、熱くて深い絆は、悪の策略を見事跳ね返した」と“そういう話だった”事にするのですが、実際の劇中ではゆいがセーターを編んでいる事とは一切関係なく、これといって何のきっかけもなく甲平が妹への愛を叫び出すだけなので、個々の要素が連動しない・物語の積み重ねも特に無い・ゆえにクライマックスが劇的に機能しないと掛け算が崩壊している見本のようなエピソードとなり、そしてそれが『ビーファイターカブト』そのものを体現しているというのが辛い。


◆第42話「カブトの月世界旅行」◆ (監督:石田秀範 脚本:宮下隼一)
深い眠りに入って闇の意志の亡霊の声を聞いた、と主張するマザーメルザードは
「第二の闇の意志となり、君臨せよ」
と言われたので
「これよりメルザードは闇の意志の軍団となる。役立たずに用はない!」
と、ジャンル変更を宣言し、とりあえずの露払いとしてライジャとデズルの親衛隊を焼却。絶滅兄弟と虫けら兄弟は改めて忠誠を誓ってマザーの指揮下で出撃し、6人並んで、物凄い十把一絡げ感。あまりに間抜けな絵になると判断したのか、さすがにミオーラとドードは一緒に並べませんでしたが、敵サイドのあまりの魅力の薄さとそれを加速するセット販売にクラクラしてきます。
「地獄の罠よ、今こそ口を開けよ!」
5年前の昆虫メダル到来の影響で発生していた第三の磁場のエネルギーをマザーが利用し、次元の裂け目に吸い込まれてしまうクワガタタンクとテントウジェット。
「なんとかならないのか、ビット! もう駄目だ!」
「助けて、博士! 博士!」
このヒーローチームはどうしてこんなに、人任せの集団になってしまったのでしょうか……。
2台のネオビートマシンは月面に投擲され、マザーから挑発された甲平は二人を助ける為に、超重甲すると次元の裂け目へとダイブ。
「カブト……頼んだぞ」
懸命に救出作戦を練るような事もなく、ただただカブトに基地から声をかけるだけの小山内博士は、小山内応援団長に肩書きを変えた方がいいのでは。
ここまで物語に影響を及ぼさない「博士」ポジションというのは東映ヒーロー史上でも希少な気がするのですが、今の地位まで上り詰めたのは、上層部の弱みでも握っているのか、はたまた拓也との太いコネクションがあるのか。
次元の裂け目を超えて月面に辿り着いたカブトンの前にはマザー操るクワガタ神が迫り、カブトンはカブト神を召喚。
月面の巨神対決はシチュエーションのアイデアとしては面白かったのですが、突然マザーが操っているクワガタ神も、カブトンが気軽に召喚しすぎたカブト神も、一次退場の影響もあって既に安いメッキの玩具のようになってしまっている為、物語としては特に面白くならず。
カブテリオスvsクワガタイタン、という戦いそのものにドラマ性を与えなくてはいけないのですが、クワガタ神が元々は光の陣営だった事を掘り下げるわけでもなく、クワガタの中身が誰だろうとカブトンの反応も変わらず、ただ表向き派手にドンパチしているだけなので、見た目以上の盛り上がりが生じず、空虚。
「番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。月でビーファイターが! カブテリオスが戦っています!」
そして突然の、月面バトル生中継。
ビーファイターは公認ヒーローなのでニュースになってもおかしくはないのです、クワガーとテントウが隔絶された死の世界のように反応していた月面の戦闘がいきなりお茶の間に接続されるのは不自然極まりなく、この世界は既に、新帝国ビートルによって征服済みなのでは。
しかし激闘の末、タイタニックサンダーの直撃を受けて倒れるカブテリオス
「これまでか……!」
カブトンは敗北をあっさり受け入れ、ここ最近の昆虫戦士達の「諦める/諦めない」が、某バイクロボが救援に「来る/来ない」ばりにダイス目次第で一定しないのですが、やはり冬なので昆虫魂の供給が不足しているのか。
前作主人公もこの時期に越冬不可能な体質になりかけていましたが、つまり昆虫魂もシスコン魂もあまりに揺らぎやすく、唯一絶対である筋肉さえ鍛えていれば雑事に心乱される事なく空も飛べる筈である事こそが、此の世でたった一つの真理。
讃えよマッスル! ジーク・マッスル!!
筋肉不足で力尽きかけるカブトンだが、そこに届く、クワガー、テントウの「頑張れ」の叫び。
……扱いがゆいちゃんと同じで、現場の戦士の描写としては、流れる涙が止まりません。
「あと10分……頑張れカブト!」
人事は尽くさず天命だけ待つ応援団長。
ついでにニュース報道でお茶の間の人々から声援が届くのですが、“ビーファイターと一般市民との関わり”というのが今作においてさして積み重ねられていないので、その声援が力になると描かれても実に白々しく、悲しいほど劇的になりません。
特に後半戦に入って、イベント・イベント・イベントで転がしてきて、ゲストキャラを助けて問題を解消する、というような展開から遠ざかっていた事も裏目に出て、今作の構成上の問題点がまたも悪い形で噴出。
本当にこう、経験を積んだスタッフが揃っている筈なのに、悪い方向に崩れる時はどうしてこうまで悪い方向に雪崩を打ってしまうのか(^^;
「負けるもんか! 俺は、マザーメルザード、おまえみたいに一人じゃない。みんなと、仲間と一緒に戦ってるんだ!」
力を取り戻すカブトンと、子供達の助力を撥ね付けるマザーが対比されるのですが、そもそもメルザード側でカブトンと対比関係になるだけの積み重ねが存在しているのはライジャなので、ここも上滑り。カブトンがテーゼをぶつける相手が間違っています。
そこから特に映像的な盛り上げもハッタリもなく、カブテリオスの新技・グローリアスフレアが炸裂し、力を失って次元の彼方へ飛んでいってしまうクワガタタイタン。マザーは捨て台詞を残して撤退し、ビーファイターは次元の裂け目を通って地球への帰還に成功するのであった……。
最後、カブテリオスが間に合わない?! みたいな盛り上がりを付け足すのですが、出自とスペック考えると、月〜地球間とか軽々とひとっ飛びのような気がしてならず、何もかも噛み合いません。クワガタタイタンも適当にまた戻ってきそうな描写で誤魔化されるのですが、ひたすら雑な扱い。
最後は鳥羽家で謎のコスプレクリスマスパーティが開かれ、狩衣姿の甲平、ナポレオン風の健吾、カウボーイスタイルの蘭、貴婦人風のゆい、原始人の博士、とホント謎。
甲平には両親から、アメリカで集めたビーファイターに関するスクラップブックがプレゼントに届き、実は博士が甲平がカブトンである事を伝えていました、両親はずっと影からカブトンを応援して見守っていました、良かった良かった、と甲平が両親の態度に感じている寂しさを丸く収めて一応回収。
……するのですが、息子が命がけでヒーローやらされて高校も中退一歩手前まで追い詰められているのに帰国の素振りをまるで見せない両親、って博士はいったいどんな嘘で丸め込んだのか。
絶対、大嘘のレポートを送っている。
博士はプロトマシン作成秘話を頭脳のピークにして、作戦や開発関係では実質無能な代わりに皆を暖かく見守る人情家、という描写にそれとなく移行しているのですが、間違いなく自分に都合のいい話しかしていないので、どこに人情が存在しているのか電子顕微鏡が必要なレベル。
小山内博士の壊れぶりを見ていると、翌年の戦隊『電磁戦隊メガレンジャー』において、高校生戦士達の指導者となる久保田博士も序盤は色々危うかったのですが、途中から5人への罪悪感を背負っているという描写がしっかり入ってくるのは、小山内博士を踏まえた所はあったのかな、と思う所。色々な意味で、久保田博士を失敗すると小山内博士になるし、小山内博士が反省すると久保田博士になるというか。
個人的に『メガレンジャー』を偏愛しており、久保田博士と5人の距離感が凄く好きなので、私の小山内博士への視点が厳しいのは、無意識に比べている所があるのかもしれません。『メガレン』の場合、高校生を命がけの戦いに巻き込んだ博士達もまたロボの中で命がけ、という設定によるエクスキューズも巧かったですが(改めてここが、『メガレン』の肝)。
次回――ぽんこつトリオ結成の予感。