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夏の似鳥鶏祭

先日読んだデビュー作『理由あって冬に出る』からフィーリングが合いそうな気配を感じた似鳥鶏の著作を片端から読んでみたのですが、うむ、これは、合う。
◇『戦力外捜査官 姫デカ・海月千波』
◇『神様の値段 戦力外捜査官2』


 警視庁捜査一課所属の設楽恭介は、ある日、本部庁舎で一人の少女と出会う。小柄で上品な少女は警察官僚の中でもトップレベルに位置する刑事部長を尋ねてきたと言って設楽を驚かせるが、更に驚くべき事に、設楽と同じ捜査2係に警部として配属される。まるで刑事らしからぬ高校生のような見た目に加え、運動能力皆無かつ極度の方向音痴であるキャリア・海月千波のお守り役を押しつけられる事になった設楽だが、連続放火事件の捜査中、不良に絡まれたり木から落ちたり海月が立て続けにトラブルを巻き起こし……。
天然ボケ風味だが頭脳明晰な美少女警部と、武闘派で生真面目な青年刑事のコンビによる、警察小説。
表紙イラストはかなり明るく可愛らしい路線、軽快な語り口で随所にコミカルなシーンを挟み、海月のキャラクター性を中心にコミック的な飛躍もありつつ、1巻では少年犯罪、2巻ではカルトとテロを扱っており、物語のテーマはかなり骨太。
正直、表紙と装丁詐欺なのではレベル(笑)
海月の、いっけん役に立たないが実は頭が非常に切れる、というのはお約束ですが、切れすぎて例え話が致命的にわかりくい、という表現はなかなか秀逸。また、戦力外である事をあまりにも過剰なドジや非常識を連発するという形で描かれると嫌だなというのがあったのですが、海月が巻き起こすトラブルには概ね然るべき理由が用意されており、海月自身も良い意味で上品なキャラクターとして描かれているのが、読み口がなめらかで良かったです。
この辺りが、この作者のセンスが肌に合う所だな、と。
普通の人達の格好良さが描き出される姿が物語のテーマとも繋がっていく、2巻目の終盤の展開が、特に良かったです。


◇『パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から』

 半年前に警察を退職して兄の経営する喫茶店でパティシエとして働き始めた元警部・惣司智だが、その能力を高く評価する県警本部は智を復職させようと秘書室の直ちゃんを店に送り込んでくる。連日めげずに粘り続ける直ちゃんと、それに困り果てる弟の姿を見かね、やんわりと間に入った店主であり兄の季だが、直ちゃんのペースに巻き込まれ、県警が手を焼く難事件の捜査に協力する羽目に……。
真面目で人が好い兄・季(みのる)が語り手、頭脳明晰だがやや気の弱い弟・智(さとる)が探偵役を務め、その二人が色々と底の知れない秘書室の直ちゃん(直井楓巡査)に振り回されながら事件に挑む、全4話からなる連作短編集。
刑事でも職業探偵でもなく、本職を持った市井の才人が事件を解決するタイプの物語のパターン(?)に則ってか、事件の謎解きに際してパティシエに絡めてお菓子を持ち出すのですが、正直その要素はあまり面白く転がらず。如何にもなタイトルと合わせて、企画段階で“そういうお話”を依頼されたのでやっています感が、どうも漂います(^^;
その為、作品の出来としてはそこまで良くなかったのですが、語り手であるお兄さんが、個人的ツボにクリティカルヒット(笑) 今作の惣司兄弟の関係性、個々の人格はもちろん違うものの、どこか『シアター!』(有川浩)の春川兄弟を思い起こさせるのですが、人当たりが良く弟のみならず周囲の人が困っていると気を回さずにはいられない兄・季が、兄キャラ好きとしては非常においしくいただきました。
ところで今作、上記の<戦力外捜査官>と関連しているような要素が見受けられるのですが、ある思いつきを別々の作品で使ってみたのか、それとも共通する世界観だったりするのか。


◇『午後からはワニ日和』
午後からはワニ日和 (文春文庫)

午後からはワニ日和 (文春文庫)


 「イリエワニ一頭を頂戴しました。 怪盗ソロモン」
 挑戦的な貼り紙の通り、閉園後の楓ヶ丘動物園の爬虫類館から、獰猛なクロコダイル1頭が盗まれているのが発見される。体長は1メートルを優に超え、決して人に慣れる事のないワニをどうやって盗み出したのか? 横流しして儲かるわけでもなく、その目的もわからない。首をひねっている内に再び怪事が発生し、飼育員の僕は、事件の謎を追う事に……。
動物園を舞台にした長編ミステリー。謎解き要素自体はエッセンスといった程度で、二転三転するサスペンスを軽快なテンポで読ませていく作品。本格的な謎解きが中心ではありませんが、物語構造は流儀に則っており、落とし方が非常に丁寧。途中のスペクタクルが必要あったのかとは思う所ですが、他の作品を見ても、作者の中のエンタメ感というか、サービス精神の発露なのか。


◇『さよならの次に来る<卒業式編>』
◇『さよならの次に来る<入学式編>』
さよならの次にくる <卒業式編> (創元推理文庫)

さよならの次にくる <卒業式編> (創元推理文庫)


 「壁男事件」を解決に導いた名探偵・伊神さんの卒業が近づく3学期、悪友・三野の計らいで、小学生時代の初恋の人・渡会千尋と再会するチャンスを得る葉山くん。ところがその渡会千尋が、吹奏楽部を騒がす中傷事件の犯人だと名乗り出て、窮地に。葉山くんは初恋の人の無実を証明しようと犯人探しに乗り出すが……。
 そして新年度、2年生になった葉山くんはある日の下校時、曲がり角で佐藤希という1年生とぶつかって知り合いに。入学以来ストーカーに悩まされているという希の相談に乗った葉山くんは、首を突っ込んできた演劇部の柳瀬さんの協力を得てストーカーを捕まえようとするのだが……。
『理由あって冬に出る』に続くシリーズ2作目で、これが非常に面白かったです。
前作はデビュー作という事もあってか、途中で立ち止まらずに前へ前へと突き進んでいく軽快なテンポが長所であった反面、そのテンポを維持する為に登場人物の厚みが削ぎ落とされてしまい、舞台を回すだけの存在めいていた所が欠点だったのですが、今作では絞った主要キャラに余剰の厚みを与えたのが非常に良い方向に転がりました。
ラブレターにまつわる謎、初恋の君の巻き込まれた中傷事件、新入生のストーカー被害……なとなど、1話完結形式のエピソードが一つの長編となって集約されるという形で、散りばめた伏線の回収も鮮やか。葉山くん(語り手)、伊神さん、柳瀬さん、というそれぞれのキャラクターも好感が持て、結末も非常に気持ち良くて大満足の一作。
シリーズこの後の作品も続けて読みたい。
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……こう並べると、要するに私は、苦労性の主人公が好きなんだなーと(笑)
あと、総じて、女性キャラを強く可愛く魅力的に描こうという事へのこだわりも、好感が持てます。
久々に、作家レベルの当たり。