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初・三津田信三とか

◇『水魑の如き沈むもの』


 先輩民俗学者の紹介で、奈良の山村に伝わる雨乞いの儀を見学させてもらう事になった作家・刀城言耶だが、儀式の最中、湖上の船の中で男の死体が発見される。果たしてそれは、自殺なのか? 他殺なのか? 殺人だとしたら、男はどうやって衆人環視の中で殺されたのか? そして同様の状況で起きた過去の死は、時を超えた連続殺人事件なのか――?!
以前から気になっていたものの、ホラー(苦手)要素が強いという事で避けていた三津田信三作品を思い切って読んでみたのですが、いやこれが面白かった!
主人公の刀城言耶は作家であると共に民俗学に造詣が深く怪異譚の採集を趣味としており、水魑様を祀る4つの村、4つの神社の儀式に立ち会って事件に巻き込まれるのですが、言耶が関わる事件の謎に加え、別の人物の視点から描かれる、儀式の裏で蠢く闇、謎めいた一つ目蔵の秘密という、もう一つのサスペンス――。
因習に縛られた山村、というのは様々なジャンルでよくある状況設定ですが、水魑様、4つの神社、それにまつわる人間関係、などが民俗学を背景にしっかりと練り込まれており、仕掛けの為の仕掛けではなく、確かにそこに根付いた風習としての論理性を持つことにより、物語の中でしっかりとした説得力を持っています。
その上で今作の世界には確かに怪異が存在しており、怪異にまつわる謎と事件の真相と、二つの謎が交錯しながら展開していく、という構成が秀逸。
ホラー要素や陰鬱な描写に関しては、今作ではそこまで強烈ではなく、また思いの外、会話のやり取りなどが軽妙で読みやすかったです。
特に、言耶に同行する編集者の祖父江偲は、物語の清涼剤としてて機能しつつ、ただ探偵の博識を持ち上げるだけのビックリ役ではなく、言耶を立てながらも時にやり合いもする、というのが好印象。
満足度の高い一作でした。
……やはりホラーは苦手なので、他の作品に手を伸ばすかはわかりませんが(^^;
◇『鎮憎師』(石持浅海
鎮憎師

鎮憎師


 サークル時代の仲間の結婚式の夜、広島から上京して数年ぶりに再会した仲間の一人が、何者かによって殺害される。絞られた容疑者は、3次会に出席したサークルメンバーの誰か。被害者への愛情から、犯人への復讐を望むメンバーの存在を感じた赤垣真穂は、弁護士の叔父から、殺人事件が引き起こす憎しみの連鎖を止める者――鎮憎師を紹介される。
本格ミステリを長く書いてきた作家がやがて、「探偵とはなにか?」を考えるに至る、というのは古今に例があるようですが、探偵(役)を“事件の謎を解いて真犯人を指摘する存在”ではなく“関係者にとって納得がいく形に事件を収める存在”として扱うという、メタミステリ要素も持った変化球。
事件を解決に導く事よりも、事件が新たな事件を呼ばないように処理する役割、を持った探偵と、その存在が作用する事によって揺らめく物語、という軸のアイデアはなかなか面白かったのですが、そちらを重視するあまり、肝心の事件そのものがあまり面白くならなかったのは残念。
はからずも鎮憎師の存在がミステリのエンタメ性を削り取っているとも取れてそういう点でもメタ的なのですが、鎮憎師が存在する面白さと、エンタメとしてのミステリとしての面白さを、より高みで合一する事が出来そうな気もして、難しいけどこの先に何かありそうな、そんな一作でした。