◆第37話「恐怖の大宇宙ハイウェイ計画」◆ (監督:田崎竜太 脚本:浦沢義雄)
連戦連勝に浮かれ、スポーツ新聞の特集記事に喜んだり、赤と桃に変身した状態でペガサスカーで買い出しに行くなど、なんだか緩み気味のカーレンジャーに、冬眠を終えて一皮剥けたダップはちょっとおかんむり。
「なんだか、とんでもない事が起きそうな気がするんダップ」
「カーレンジャーは、“なんだかんだ”いって、今日までずーっとボーゾックに勝ってきたじゃない」
「これからも、“なんだかんだ”いって、ボーゾックに勝っていくでございます」
メンバー間の雰囲気が良いカーレンジャーなので、相手の言葉をからかってもギャグになっていますが、下手な戦隊でやると、戦争ですね……!
ダップの回想にチュースポの見出しが重なり、
「ボーゾックボロ負け記録更新!!」
「宇宙一弱い暴走族」
「総長ガイナモの作戦全部大はずれ!」
これまでの敗北を噛みしめるボーゾックの戦績、1勝34敗2引き分け。
なお1勝は今は亡き(いい加減、あれでリタイアと認めざるを得ないようです……)リッチリッチハイカー教授がブレーキングであげたものであり、ボーゾックはまさに暗黒時代。
「あーあ……ボーゾックやめて真面目になっちゃおうか?」
「そうだなぁ……土星でおでん屋でもするか」
「暴走族が落ち込んでどうする」
弱気になって就職を考え始める上層部だったが、その時、暗く重い声が響き渡る。
「暴走魂を失った暴走族に、勝利は訪れない」
声の主は、宇宙に浮かび上がる爆竹ローブの巨大な金色頭。その正体は――
「余は全宇宙に君臨する、悪の支配者、暴走皇帝エグゾス」
シグナルマン事件の影で暗躍していた存在がその姿を現し、「暴走皇帝」という通り名は凄く格好いいのですが、とても頭が悪そうです(笑) 自称っぽいのがまた。
「宇宙暴走族ボーゾックよ、悪の自信を取り戻せ。誇りある、暴走魂を忘れてはならぬ」
割といきなり出てきたエグゾス(CV:小林修)ですが、やたら渋い声で、しごく真面目に、どこかズレた台詞を次々と繰り出してくるのが面白い(笑)
「お前達が負け続けた事は無意味ではない。ヒーローも人の子。勝ち続ければ必ず油断し、いい気になるもの。そこを一気に叩けば」
悪の組織は基本ヒーローに負け続けざるを得ない、という物語の構造上の必然を逆手に取る発想でエグゾスはボーゾックへとエールを送り、じゃーーーん、と『ツァラトゥストラかく語りき』ばりの壮大な音楽が鳴り響いた所で、宇宙の彼方から飛んでくる……
巨大な幼・年・誌(笑)
「全宇宙の悪者に、余が毎月一回配っている、『宇宙ランド』の12月号と、その付録の組み立て式ロボットだ。そのロボットで、カーレンジャーを倒すがよい」
浦沢ぁぁぁぁぁ!! というか、高寺ぁぁぁぁぁ!!
なんとなく浦沢先生というよりは、高寺さんが好みそうなネタな気がするんですが(笑)
関連書籍も含めて切っても切り離せない関係にある幼年誌ブランドを悪に巻き込み、かくしてグラッチによって組み立てられる、付録ロボ、ノリシロン−12。
両腕に付いたそこはかとなくサイバトロンぽいマークと、胸に輝く12の文字が大鉄人ぽいのが気になります(笑)
ノリシロン−12はグラッチが使い忘れた部品を一つ残したまま、ゼルモダをパイロットに地球へ向けて発進し、それを見つめる暴走皇帝。
(宇宙暴走族ボーゾックを使って、私の夢を完成させるのだ。どんなにスピード違反しても捕まることのない、交通事故も起こし放題の、恐怖の大宇宙ハイウェイ。それを完成させる為には、邪魔なチーキュを、ボーゾックに爆破させるのが、一番)
「恐怖の大宇宙ハイウェイ計画」ってサブタイトル時点では割と格好いい名称だと思ったのですが、内容は割とセコいというか男の子の夢いっぱいというか、やはりこの宇宙で一番恐ろしいのは、ロマンで生きている悪だなと改めて(笑)
そしてハイウェイ建設の為に地上げならぬ地球を爆破というのは、今作は『銀河ヒッチハイク・ガイド』(というSF小説がある)だったの……?!
もはや根っからの極悪人ではなくヒーローとのロマンス要素もありという立ち位置にシフトしたゾンネットが、「チーキュを花火にしたい」と言い出したそもそもの元凶である、という事から目を逸らす為に巨悪の目的を設定している感じはありますが(^^;
地球に降り立ったノリシロンにサイレンダーがいち早く戦いを挑み、見た目の割に警戒に動くノリシロンはミドルキックも披露。口の中を光らせながら加速装置を発動してサイレンダーを倒したノリシロンの前に、ダップの心配をよそに調子に乗ったままのカーレンジャーがVRVロボで登場。
「熱くなってはいかん。相手を思いっきり油断させるのだ。いい気になったヒーローは弱いものだ」
エグゾス監督の指示を受けたゼルモダはVRVロボの攻撃をわざと受け、まんまと策にはまったカーレンジャーは勝利を確信。
「手応えなさすぎって感じ」
「そろそろ決めちゃうでございますか」
「よっしゃ! ビクトリーツイスター!」
……まあ確かに、VRVロボの入手後、ほぼ全ての敵をVツイスターで瞬殺しているので、力に溺れてしまうのはわからないでもありません。
「今だ!」
「加速装置!」
全宇宙の悪者に毎月一回『宇宙ランド』を配っているだけあり、割と小まめに飛んでくる監督の指示で、ノリシロンは華麗にツイスターを回避。敵が隠密能力で姿を消したと早合点したカーレンジャーはナビを発動して位置を見極めるが、振り向きざま安易に放ったVツイスターが盾にされたサイレンダーを直撃。狼狽した隙にノリシロン暴走斬りの直撃を浴びてしまう!
自分たちの慢心を思い知るもトドメの一撃を受けそうになるカーレンジャーだが、グラッチが割りピンを一つ使い忘れていた事で、絶体絶命の危機にノリシロンが故障。奮起の反撃によりなんとか撤退させる事に成功する。
「エグゾスに失敗を許す心は無い!」
グラッチは監督からお仕置きビームを浴び、嫌な上司が登場してボーゾックちょっと殺伐。某次元船団なら、一時的に友情パワーに目覚めた幹部達が一致団結して全力で排除しようとする展開です(笑)
地球では、ノリシロンの腕についていたサイバトロン、ではなく暴走皇帝のシンボルマークに気付いたダップが、悪の星座伝説の力を受け継ぐ者として、暴走皇帝エグゾスについて説明。
「調子に乗りやすいというカーレンジャーの弱点をついてきた、恐ろしい敵ダップ」
反省を見せる5人だが、パトロールをしてから帰還した青緑黄がついでにジュースを買ってきてダップ激怒。反省はするし行動でも示すけど張り詰めすぎず、5人はあくまでカーレンジャー、という姿で、つづく。
最終章へ向け、悪玉サイドがまさしくモデルチェンジしてきたのですが、星座伝説と繋げて宿命の敵という要素を強調するなど悪意の根源としてそれとなく責任を押しつけつつ、攻撃の緊張度を上げると共に正義のヒーローの慢心も描き、それを乗り越えながらも根幹で重苦しくなりすぎない(けれど使命感は強い)カーレンジャーを描くという、善悪両サイドをきちっと対応させて物凄く盛り沢山に詰め込んできた見事なエピソード。
途中で特大のギャグもぶち込み、田崎監督も巧くまとめましたが、“戦隊らしい圧縮”に慣れてきた浦沢先生がさすがの筆力。
次回――「狭い道では……通行の邪魔すんなぁ!」。