◆第11話「燃えろドラゴン」◆ (監督:諸田敏 脚本:武藤将吾)
スタートから前回まで5人の監督を投入していた今作ですが、今回から2巡目。
冒頭のあらすじ漫才が復活し、
「ボトルの収納にまでケチ付けるんじゃないよ。そのへんうまい事やってるから」
だそうです!
前回、政府機関の屋上でピクピクしていて再逮捕あるいは即銃殺が懸念されていた龍我は無事に地下研究所に戻ってきており、路上に放置されていた戦兎も帰還。美空とジャーナリスト女を交えて、今後の対応を検討していた。
戦兎はブラッドスターク=葛城巧、という可能性を一同に語り、スタークの顔変換能力を説明。この流れで見ると、前回のスタークのわざとらしすぎる能力披露は、戦兎への意図的なミスディレクションでしょうか。…………面白半分、という可能性も高いですが。
疑惑を裏付ける証拠として、戦兎は葛城のデータの中に、スタークの扱う銃、トランスチームガンのPVを発見していた。ノリノリで銃と変身機能を説明する葛城、さらっと「ブラッドスターク、声も自由自在に変えられる」と出鱈目放題な機能を紹介しており、檜山修之の声になる仮面・田中理恵の声になるスイッチの系譜で、金尾哲夫の声になる銃、というドリームアイテムが登場しました。
個人的に金尾哲夫さんというと『∀ガンダム』のミハイル大佐なのですが、今作のスタークといい、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のエゴの吹き替えといい、最近は胡散臭いおっさん枠でのご活躍が目立ち、嬉しい限りです。
ファウストに対抗する為のフルボトルは現在二つ……屋上で万丈に返却したドラゴンボトル一つが最後の切り札、となるのかと思ったら、ヒゲコウモリはロックボトルを取り忘れていたという、これは都合が良すぎて、だいぶガックリ(^^;
色々な事情で、全くビルドに変身できない、という形には出来なかったのでしょうが、ここは思い切って欲しかった所です。
その頃、ヒゲ首相代行にクラスチェンジした氷室幻徳は、さっそく三者会談で、両国首相を煽りにいく無駄にふんぞりかえったポーズで髭を撫でていた。パンドラボックスの奪還を約束しながらも緊張状態に油を注ぐ会談が終了した所で、入ってくるスターク。
「なにしに来た。消えろ」
「首領代理にもなると冷たいねぇ。これまで仲良く、二人三脚でやってきたじゃねぇか。どうして俺に、パンドラボックスの在処を隠すんだよ?」
「おまえがもっと忠誠を誓えば、教えてやるよ」
全く悪びれないスタークだが、ヒゲ代行の高圧的な言葉には反発を示すと、警備兵をざっくり抹殺。
「ファウストは、おまえのものじゃない」
ミストマッチな2人の共同生活に不穏な影が差す一方、戦兎は現状の打開策として、ミニドラゴンとシンクロする事で、龍我がドラゴンボトルを使って仮面ライダーに変身する、という可能性を示唆。
「けど、おまえにその資格があるかどうか」
何やら悩ましげな戦兎とやる気満々の万丈は、スマッシュ目撃情報のあった倉庫に向かうが、それは残りのボトルを奪おうとするローグの罠であった。
「さっそく変身ちゃーんす」
「じゃねえだろ。今のおまえじゃ無理だ」
血気盛んに変身しようとする万丈を止めた戦兎はキードラゴンに変身し、レッツら混ぜ混ぜの時に凄く右足でリズムを刻んでいるのですが、ロックだから?! ロックだからなの?!
戦兎の変身中、後ろで座り込んでいた万丈はふてくされているのかと思いきや、ボトル無しでも生身でガーディアンに立ち向かっていくのは、良い所なのか危ない所なのか。
ローグと拮抗した戦いを魅せるビルドだったが、突如、ボトルが暴走して強制変身解除。コートが焼け焦げた表現が効果的で、ボトルを回収しようと迫り来るローグを前にに絶体絶命のその時――
「俺に内緒で、ボトルの回収とは精が出るねぇ」
「スターク――」
「スタークぅ!!」
「空気を読んだらどうだ? 俺はお前等の助っ人に来てやったんだぞ」
スタークぅ!!(笑)
怒れる龍我に向けてビシビシと指を突きつけ、もはや身内の揉め事やゲームメイカーとしての深謀遠慮の体裁すら取らず、堂々と「助けに来たぜ」宣言するスタークさん、「ここは俺に任せて先に行け!」「俺に本気を出させるとはな」に続き、次々と、心のフルボトルに闇の力が蓄積されていきます。
後は、「あばよ。俺、本当はおまえの事――」とかやったら、満足して出家するのではないか。
真意が窺えない為、物語としては都合良く状況を引っかき回すズルいキャラになってしまっている感の強いスタークですが、『仮面ライダーストロンガー』に登場した、スマートなデザインと重厚な声とは裏腹に、その場のノリで出鱈目な言行を繰り返して周囲に迷惑をかけながら圧倒的な自己肯定力により脳内で全てを都合の良いように改竄してしまう真性サイコパスのトリックスター、大幹部ゼネラル・シャドウを彷彿とさせ、個人的には同じフォルダに入れる事で大らかな気持ちで見ています(笑) くしくも、同作で大幹部タイタンおじさんを演じていた浜田晃さんが難波会長として出演しているのも、奇縁を感じて後押し。
「城茂、ちょいとおまえを利用したまでの事よ。シャドウは負けたのではない」(さんざん命乞いをした後に結果的にライバル幹部の妨害が成功してよっしゃラッキーな時に)
……ゼネラル・シャドウよりは、計算して生きていると信じたい。
「ふざけんな! 俺に濡れ衣を着せやがって。おまえをぶっ倒して、そのツラ拝んでやらぁ! 来い!!」
龍我が格好良く左手を高々と掲げると飛んでくるミニドラゴンだが、ボトルを差し込もうとすると拒絶反応を起こし、変身に失敗。
「最悪だ……」
「早く連れて行け」
スタークは呆れた様子で2人をしっしと追い払い、画面手前でぼやく戦兎とベストマッチ。追いかけようとするローグにパイプ椅子を投げつける嫌がらせの後、ひょいっと扉をくぐって退散する仕草が、実にイラッと来ていい感じです(笑)
ヒゲ所長、煽るのは大好きだけど、煽られるのは大嫌いそうですし!
アジトに逃げ戻った戦兎は、龍我の強い想いが閾値を超えないとミニドラゴンとシンクロできない事を説明。
「要するに、誰かを守りたいって気持ちが大事ってこと」
一方、盗聴器の在処を探っていたジャーナリスト女は美空に問い詰められ、逃げるように外へ。9−10話における裏の繋がりの示し方、今回アバンにおける、視聴者視点では大きく立場が変わっているけれど、本人にとっては“いつも通り”なので、ごく普通に場に混ざっているという見せ方が好みだったので、結局あっさり馬脚を現してしまったのは非常に残念。
そして今回ようやく、ジャーナリスト女の名前が立て続けに呼ばれて、覚える事が出来ました。名前は「紗羽(さわ)」。
間の悪さが重なって美空は紗羽を追求しきる事が出来ず、刻まれそうになって窓辺で黄昏れる龍我に、勝手なモノローグをつけて煽る戦兎。
「おまえなんでライダーになりたいの?」
「……は?」
「スタークの正体暴く為か?」
「…………悪いかよ」
「おまえには無理だ。なれねぇよ」
地下へ引っ込もうとする龍我に、戦兎は悪し様な言葉をぶつける。
「彼女との思い出に浸りながら、ボトルを振ってんのが関の山だ」
「ふざけんなよ! なんでそんなこと――」
「力を手に入れるってのは、それ相応の覚悟が必要なんだよ! 半端な気持ちでなろうなんて思うな!」
戦兎は突っかかってきた龍我の胸ぐらを逆に掴んで突き放し、強い力を安易に用いてはいけない、というのは戦兎の信じる“科学者の理念”とも繋がるのですが、“ヒーロー”になるからには“理想のヒーロー”であるべし、という自分が演じている理想を基準値として他者に押しつける戦兎の面倒くささも滲み出ています。
前回は龍我を「信じる」と口にした戦兎ですが、今回の諸々を見ると、感情では龍我を信じているけれど、理屈では龍我を信じていない、というのが浮かび上がっており、戦兎の中の情と理の分断が窺えます……自分の存在があやふやだからこそ、最後の判定を「科学」に委ねているのかもしれませんが。
翌日――戦兎がさりげなく伝えた香澄の墓参りに向かった龍我は、そこで自分に宛てられた手紙を発見。一方、怪我をおして新装備を作っていた戦兎の元に、紗羽からのメールが。ところがそれに添付されていたのは、スマッシュにされる紗羽の姿と、ローグからの挑発だった。
「罠だよ?! 残りのボトル奪うため紗羽さんを!」
「それでも行くしかねぇだろ」
ジャー子周りが一気の急展開ですが、これなら美空の話から紗羽のスパイ疑惑をより深めて、それでも助けにいくのかどうか、というのを上積みした方が良かったような。戦兎が「助けに行く」のは良い意味でわかりきった事なので、グルかもしれない紗羽の危機を「信じられるか」を乗せると、アクセントになった上でエピソードテーマとも繋がった気がします。
紗羽の変身したウツボカズラスマッシュに立ち向かうビルドだが、キードラゴンの拒絶反応によりまたも強制変身解除。…………香澄さんに嫌われているのでは、という気がしてきました。
高みの見物としゃれ込んでいたローグにボトルを奪われそうになる戦兎だが、駆けつけた龍我にすんでの所でパス。二つのボトルを手にした龍我の胸の中にあるのは、香澄からの手紙――……
「この手紙を読んでいるという事は、恐らく、私はこの世に居ないのでしょう」
えええ。
…………病弱な香澄が、自分の死後の龍我の為に遺したと思われる手紙なのですが、とりあえずまず、どのタイミングで書かれた手紙なのかさっぱりわからなくて困ります。龍我が格闘技界を追放された後のようですが、そもそもその設定、第2話以降に触れられた記憶が無いので、そんな事あったっけレベルですし(香澄の治療費を稼ぐ為に八百長したのでしたっけか……まるで覚えていないので100%当てずっぽうですが)。
その上で凄くタチが悪いのは、全く具体的には描写していないけど闘病中の香澄は死を覚悟するほど病状が悪かったので、スマッシュ化による死亡は遅かれ早かれのものでした、と第2話で描いてしまった悲劇の為の悲劇について、虚空に向けて言い訳している事。
「私には一つだけ望んでいる事があります。それは、あなたが早く私の事を忘れて、いつものように、負ける気がしねぇっ! て前を向いて歩いてくれる事」
香澄は物語にとって“都合のいい女”ではなく、自分の死後の万丈の事を何よりも考えていた“いい女”であるというつもりだったのかもしれませんが、出だしからして文例集を見ながら書かかれたような手紙の内容に小倉香澄という人物の個性がまるで感じられず、むしろ“都合のいい女”に逆戻り。
前回、死んだ香澄が間接的に龍我と戦兎を救う事でその存在が物語の背景に組み込まれて昇華されるくだりは悪くなかったのに、ここで再び香澄を悲劇のテンプレートに戻してしまったのは、余計だったと思います。……なんというか、物語として殺した筈の香澄がしぶとく甦ってきたので、更に念入りにトドメを刺した、みたいな。
「あなたのその拳で、多くの人の力になってあげて下さい。遠くから見守ってるね、龍我」
香澄の祈りを受け取った龍我は、戦兎がローグに奪われたドライバーを不意打ちで奪い返すと、今度こそミニドラゴンとシンクロ。変形したドラゴンにボトルを装填して、ベルトへ装着する。
「変身!!」
ファイティングポーズでの変身から誕生した龍のライダー、仮面ライダークローズは、ドラゴンキックでウツボカズラスマッシュを一撃瞬殺。
「なんだ、この力は……?」
「つええだろ? 俺だけの力じゃねぇからなぁ! 今の俺は――負ける気がしねぇっ!」
クローズはドラゴン剣を召喚するとがしゃこんギミックでローグをぶった切り、完封負けしたローグは撤退。
登場当初からの噎せ返るような小物臭を、ローグが戦闘力的に強い、という価値で補っていたヒゲ所長ですが、ここで遂にローグがただのポンコツと化し、“分不相応な野心家の小物”という、“2クール目のモモタロス”ばりに世界の底辺近くへ没落。
まあ、得意の絶頂から転落した傲岸な悪役がゴミ捨て場を転がり泥水をすすりながら捲土重来をはかるというのは好みですし、野心家の小物が野心家の小物ゆえに破滅のスイッチを押してしまうような展開も面白そうですが、今作の展開の速さを考えると、初日の出を拝めるのか心配になってきました。
戦兎はスマッシュからネビュラガスを抜き取り、人間に戻った紗羽が自分が切り捨てれたらスパイである事を告白して、つづく。
『ゴースト』『エグゼイド』と投入の早かったセカンドライダーが『ドライブ』と同時期の登場に戻り、物語の開始当初から“仮面ライダー”であり“理想のヒーロー”の在り方をなぞっている桐生戦兎に対し、私怨を越えて不特定多数の誰かの為に“戦う理由”を掴み取った万丈龍我が新たに“仮面ライダー”になる、という姿を11話かけて構築した狙いは面白かったと思うのですが、その最後の一押しとなるキーアイテムが、いつどんな状況で書かれたのかさっぱりわからない亡き彼女からの個性皆無な手紙というのは物凄くがっくり。
テンプレートそのものは悪ではないのですが、テンプレートの用い方が酷すぎます。扱いでいうと、謎の地下室で発見した行方不明の父親からの映像メッセージ、と同カテゴリだと思うのですが、そこで躓いてしまった為に、クローズの変身にノりきれませんでした。キーアイテムの使い方(とそれにともなう香澄の処理)が引っかかるだけで、万丈の変化と決意そのものは、悪くなかったのですが。
そしてもう一つ、前々回あたりから浮上してきた問題が更に深刻の度合いを増しているように思うのですが、万丈の変身の資格を判定するのが、「けど、おまえにその資格があるかどうか」と呟く当の戦兎が作ったマシンであるという、戦兎の暗黒面。
大脳がうんたらかんたらという、要するに感情や人間関係によるバイアスの入る余地がない、科学的に判定できる人体の生理現象により基準を設けているようですが、その閾値が10か9か8かを設定しているのは戦兎でしょうし、そこに「龍我を正しく導く」という意図が含まれてるとするとひどく傲慢。
そしてその傲慢さを、科学という神に委ねる事で自身から引き離して捉えているというのが、戦兎の悪質なところ。
戦兎が人間の心を科学で判定しようとするのはもしかしたら己への自信の無さであり、また一面では、戦力になればそれでいいという考え方を排除した、力(科学)に対する自制心の戦兎的な現れではあるのですが、その基準を人間ではなく科学に預けている戦兎の姿勢はあまり物語として全肯定して欲しくはなく、どこかで破裂してほしい部分です。
で、これら諸々と合わせて、
〔正直、戦力的危機 → 変身できない龍我 → せっかく作った俺の発明品が宝の持ち腐れ → 香澄の事を持ち出して常になく過激に煽る → 謎のルートで入手して何故か隠し持っていた手紙(超不審)を墓に置いてくる → それを読んだ龍我、首尾良く変身〕
という成り行きをよくよく考えてみると、一つの疑問に辿り着くわけですが……
香澄の手紙は本物なのだろうか。
宛名書きの文字があまり女性の字っぽくないように見えたのに加え、あの個性の感じられない文面はつまり捏造文書なのではないか。
紗羽に関しては、しばらく獅子身中の虫として暗躍を引っ張ってくれるのを期待していたので期待外れの展開になりましたが、あまりにも要素の消費が激しすぎるので、体を張って一度スマッシュになり、改めて戦兎達を信用させた上で実はスパイを継続していた、とかやってくれたら凄いですが(笑)