◆Task.24「初音の鼓」◆ (監督:坂本太郎 脚本:小林靖子)
割と久々に見た気もしますが、ある意味で東映ヒーロー作品の名物?ともいえる大事なお宝パス合戦の末、プレシャスをガジャ様に奪われてしまうボウケンジャーだが、手に入れたプレシャスのエネルギーがあまりに弱い事から、ガジャ様はそれを返品して撤収。
クエスターにロボを強奪されて以来の登場となったガジャ様、今回の出番は、ここだけ(泣)
例のスケッチレベルのプレシャスはないのか、という発言から、どうやら一発大物狙いをもくろんでいるようですが、当面の敵がボウケンジャーなのか、裏切り者のクエスターなのかは窺えず、次の動きが楽しみなところです。
返品されたプレシャスは、源義経が静御前に贈ったと伝えられる、初音の鼓。
「ネガティブも狙わない宝なら、元の神社に戻しても問題ないだろう」
基地で確認したところハザードレベルが3だった事から、チーフの指示でさくらと蒼太が返却へと向かう事に。
建前上は危険なプレシャスではないから保護の必要はない……なのですが、本音では、我々の役に立ちそうなプレシャスではないからどうでもいいに聞こえるのが、大変困ったところです。
すれ違いで入ってきた真墨は、ミュージアムのガイド当番をすっかり忘れていた菜月の事をチーフにぼやく。
「まるで母親だな」
「別に。あいつはずっと俺と一緒で、冒険しかしてこなかったからな。それ以外の事が、全然駄目なんだよ」
その菜月は、鼓を叩いてみた際に目にした気がする、謎の少年と接触。
「もう時間がないんだ。早くしないと」
宝を見つける事ができるか? と聞かれ、宝探しのプロフェッショナルであると請け負った菜月は、必死な様子の少年の為に宝を見つける事を約束。どうせビー玉か何かだろう、と相手にしない事を勧める真墨の言葉を撥ね付けナップザックに装備を詰めていき、チーフはそのやり取りをニヤニヤしながら見学。
結局、真墨と喧嘩になった菜月は飛び出していき、慌ててそれを止めようとした真墨を、割と強引に抑えるチーフ。
「あいつは電車だって乗れないのに!!」
「俺が行こう。おまえはそろそろ、子離れしないとな」
自己肯定力を身につけたチーフは、身内への攻撃力が30%アップだ!
少年の言葉通り、宝があるという北野町へ辿り着き三本松を探す菜月は、タチの悪そうなナンパ男達の言葉にほいほい従って車に乗り込んでしまうが、そこへ顔を出したのは、二の腕にはそれなりに自信のある保護者B。……結局、保護者です(笑)
「やぁ、悪いね〜。送ってくれるんだ」
これが真墨だったらいきなり殴打、蒼太だったら個人情報を根こそぎ特定されてその筋に拡散、さくらさんだったら吊されていたと思うので、ある意味、チーフで良かったのか。なお映士だと、「おお! 俺様も一緒に乗せてくれるのか」とそのままドライブを楽しんでしまい、「これは俺様の気持ちだ!」と次々と生のセロリを取り出し、3時間後に男達が泣いて謝る。
「おまえな、知らない人間に簡単についていくな。全員が真墨みたいなわけじゃないぞ」
チーフの真墨評が適切すぎて残酷ですが、これを聞いたら、基地で焦れている保護者Aは、泣きながら家出して3日ぐらい帰ってこなさそう。
今回、やたらと真墨の頭部を狙ってボールが飛んでくるのですが、真墨ぐらいはもう少しわかりやすく台詞にしてもいいかも、という判断があったのか。
「それぐらい菜月だってわかってる。でも、来てくれてありがとう。一緒に探してくれるの?」
「いや、一緒じゃない」
「え?」
「これはお前が決めて始めたことだ。俺はおまえの指示に従う。このミッションに限って、チーフはおまえだ」
チーフの事なので、てっきり「どちらが先にお宝を見つけるか勝負だ! アタック!」とか言い出すのかと思ったら、これは面白いボール。また、魂は子供のチーフでさえも、菜月を前にすると保護者となってしまい、大人の役割を象徴的に演じる事になる、というのは興味深い部分です。そして同時に、「菜月の保護者」である事が、真墨が大人の役割を演じて社会と接続する為の、大きな要因になっている――逆にいえばだからこそ、真墨はいずれ菜月なしでも社会に接続できるようにならなくてはならない――という構造まで引きずり出しているのが、実に上手い。
「菜月が? ……よーし、宝探しの旅に、しゅぱーつ!」
謎の少年が物陰から見つめる中、楽しげな挿入歌をバックに二人は出発し……
・地図を見て歩きながら通行人にぶつかって不満げになる菜月を慌てて謝らせるチーフ
・「人にぶつかったら謝る」事を学習した菜月が電柱にも謝る姿を見て、神妙な顔で首をひねるチーフ(ここの表情が最高でした)
・観光バスをタクシーのように停めようとする菜月をお姫様だっこで回収するチーフ
の、明石パパ大奮闘の図は大変面白かったです。
社会的経験値の低さ&幼少期の体験自体が存在しない事から、劇中で最も子供っぽい菜月をメインに据える事で、“菜月の冒険”と“子供の冒険”を重ねるという構造により、今作のメイン要素である「冒険」をダウンサイジングし、キャラクター的には菜月に振り回されるチーフの姿で面白みをプラス。その上で、真墨−菜月−チーフの関係性を通して、子供の成長と大人の立ち位置(と大人になりきれない男の子)という要素まで盛り込み、コミカルで軽めのエピソードと見せかけて、非常に濃い内容が詰め込まれています。
子供視点の重視は、夏休みの時期という意識もあってだと思うのですが、もう一つ今回、やたらと通行人が通行人として画面に入ってくる場面が多く、普通の街だって子供達にとっては冒険の舞台になる、というのを強調したと思われる演出が効いています。
荷物を持ってちょっぴり人助け(主にチーフが)などありつつ……元の場所に戻ってきてしまう二人。
「あーあ」
「今のは、リハーサルっ」
「了解、チーフ」
そんな二人を物陰から見つめ、
「お願い、急いで……」
謎の少年は、頼む人を間違えたかもしれない、と焦れていた(笑)
一方、神社に鼓を返却したさくらと蒼太だったが、何故か鼓がひとりでに空へと飛び上がり、チーフと真墨に慌てて連絡。応援に向かおうとするチーフに対して、少年の宝探しを続行したいと望む菜月だが……
「駄目だ。それは俺が決める事じゃない。ミッション続行するかどうかは、チーフであるおまえが決めろ。ミッションを途中で投げ出すな」
ここでチーフが菜月に「選択」をさせる事で、「変化/成長」を促すというのはかなり直截的で、前回の、歪んだ男達のねじくれた物語とは対照的な作り。
菜月の意志で二人は宝探しを続行する事になるが、菜月のミスでチーフは着ぐるみかぶって風船配りのアルバイトをする羽目となり途中リタイア。そこに通りすがった映士も貰い事故。
今回も重役出勤となった映士ですが、扱い的には常駐タイプの追加戦士ではない、という事になる様子。色、獣と人の間で揺れる、女子の太股に幻惑される、などの要素を考えると、映士/ボウケンシルバーには、今に繋がる00年代追加戦士のスタイルを決定づけた、麿/ガオシルバーへのセルフオマージュが含まれているとみて良さそうでしょうか。
一方、蒼太とさくらが追いかけている鼓は、何故かハザードレベルが100に上昇。飛び回る鼓が鳴ると突如としてゴードム兵が出現し、駆けつけた黒も加わっての戦闘に。一斉射撃で蹴散らすと煙のようにかき消えるゴードム兵だが、瞬く間に再出現。更にはトカゲ兵とDS妖怪まで加わり、緩めの展開から一転、集団戦での激しい立ち回りに。
映士の協力でチーフが風船を配り終えていた頃、菜月は三本松に辿り着くが、宝の目印である山は造成工事により崩されてしまっていた。
「この下なんだ……この、ずーっと下にあるんだ」
そこに現れた謎の少年は、地面の下を指さすと、菜月の目の前で溶けるように消えてしまう……。
「おい! 俺に子離れしろとか言っておいて、甘やかしすぎだろう! 任務を放棄させるなんて、どういう事だ?!」
次から次へと湧き出るネガティブ連合軍に翻弄されながらも鼓を追う青桃黒の元に赤銀がようやく参戦し、菜月に宝探しを続行させている事に怒る真墨、チーフよりもむしろチーム活動に真面目(笑) 第2話以降、真墨はこの点において基本的に一貫しているのですが、表向き斜に構えている真墨がメンバーの中では「繋がり」を最も大事にしていると同時に、その経歴から「形」がない「繋がり」を信じる事が出来ない、という面があるのかもしれません。一方で、「形」がなくても「繋がり」を信じられるのがチーフ、というか。
「あの……お取り込み中のところ、申し訳ありませんが、菜月さんが、ダイボウケンを発進させちゃいました!」
そこに飛び込む牧野からの通信。
「「「ええっ?!」」」
「「えっ?」」
少年のお宝を見つけだすべく、一人轟轟合体を敢行したイエローはダイボウケンで造成地を掘り返し、久々に天下無敵の土木ロボの本領発揮。
「菜月! なにバカなことしてんだ! おまえ一人で長時間の操縦は無理だ! 力が大きすぎる!」
そのまま進めるとトンデモ展開になってしまうのですが、劇中できちっとツッコんだ上で、制御に苦しむイエローの姿を通して、ただ単に力を無造作に振るっているのではなく、そのリスクを描写しているのが秀逸。
「菜月!」
「ブラック! 菜月が探しているのも、間違いなく宝なんだ」
パラレルエンジンのフィードバックダメージから変身も解けてしまった菜月を止めようと呼びかける黒を制する赤。
「馬鹿な!」
「菜月が言ったこと、結構ハッとさせられたよ」
――それだってあの子が大切に思ってるなら宝物だよ!
「俺たち最近ハザードレベルの数字だけで、宝を判断しすぎてたんじゃないか?」
宝とは――誰しもが抱く大切なもの。たった一つ自分だけの宝を見つけようとしている冒険者にとっては、あらゆる誰かの宝は、決して軽んじていいものではない。冒頭の「ネガティブも狙わない宝なら、元の神社に戻しても問題ないだろう」という、ざっくりした扱いを伏線にして、宝とは何か、それと向き合うとは何か、という原点を、子供(らしいキャラ)の言葉で取り戻す、という一種のメタ構造。
また、組織の理屈でいえばハザードレベルを基準に判断するのが正しいのですが、今作においては組織の「正義」と個人の「本音」が別々である事こそが重視されるので、誰かの大切だと想う気持ちを守ろうとするのは、冒険者というヒーローにとって正しく、大きな穴になりがちな任務(使命)放棄による個人的行動を、実に『ボウケンジャー』らしい理屈で力強くねじ伏せてみせました。
“夏休みの冒険”をキーに置きつつ、子供視点という要素からボウケンジャーの本質を問う所まで広げてみせる、実に鮮やかな着地。
個人的にこの、エピソードのキーを転がして転がしてアクロバットな着地に繋げるという構成は、小林脚本に時折感じる、扇澤延男(※90年代メタルヒーローを牽引し、小林靖子が東映特撮の世界に飛び込むきっかけの一人となった脚本家)の面影を見るところです。実際にどれぐらいの影響があったのかはわかりませんが、キャラの縦軸を重視して、細かい要素を拾って肉付けしていく手法なども、90年代頃の東映特撮においては、扇澤さんの目立つ得意技だったりしますし。
「菜月が、絶対に、あの子に――」
生身の菜月が必死に操るダイボウケンにより、遂に山が切り崩された際に地中に埋もれてしまっていた石碑が発見され、その石碑そのものの化身であった少年は感謝を述べる。
そして、鼓の力によって木の葉から無限に発生し続けるコピー連合軍に苦戦中の仲間達の元に、地響きを立てながら、スキップでやってくるダイボウケン(笑)
「どうやら宝は、見つかったようだぜ」
「よーし、行くぞー!」
菜月操るダイボウケンは、そのまま敵集団に向けて連続パンチを繰り出し、巻き起こる土煙、弾け飛ぶ地面、火薬大判振る舞いで飛び回るボウケンジャーとネガティブ雑兵&妖怪の皆さん、という非常に楽しいもとい酷い絵図に(笑)
思い切りよくサービス満点の大爆発で、きっちりアクション的に満足させてくれたのも、今回の素晴らしかったところ。
「よーし、トドメは、アルティメットダイボウケンよー!」
テンションクライマックスの菜月は、まさかの一人アルティメットを発動。
「え?! アルティメットダイボウケンまで!」
「飛びます」
「ちょっと、何する気?!」
そして巻き起こるジェノサイド。
「菜月のばかやろーーーッ!」
噴き上がる業火の中、ボウケンジャー、本格的全滅の危機(2話ぶり4回目)
最後は操縦ミスから豪快に地面に倒れ込んだ究極ダイボウケンに押し潰され、コピー軍団は全滅。正体は源九郎狐であった石碑の少年が、その両親の宿っていた初音の鼓と再会した事で鼓が活動を収めて無限発生も停止され、実は繋がっていた二つの事件は、無事に解決するのであった。
「一人でよくやったな」
そして結局、最後はにこやかに誉めてしまう、保護者A(笑)
記憶喪失で拾われて可愛かったからトレジャーハンターになり真墨にさんざん甘やかされてきた菜月の、社会的常識は実際どの程度なのかという、これまで触れられていなかった部分を補強しつつ、子供の冒険の話に上手く繋げて更にはボウケンジャーの本質を問い直す、と濃厚な内容のエピソードで面白かったです。
実質的にネガティブが関わらずに、プレシャスそのものが起こした騒ぎにボウケンジャーが翻弄される、という変化球も今作の特性が活きましたし、敢えて言えば問題のきっかけは人間の開発によるものだった、という要素がさらっと放り込まれているのは、人類とプレシャスの関係、という点では今後に広げようのある要素でもあり。
ところで現時点での私の予想では、菜月の正体は“意志を持ったプレシャスそのもの”なのですが、そう考えると一人ダイボウケンはやり過ぎのギャグのようで、実は設定を踏まえたネタなのでは……と思ってみたり(アクセルスーツを通さない方がむしろパラレルエンジンの力を引き出せたりとか)。まあ全くの見当違いかもしれませんが、今後の展開をドキドキして待ちたいと思います。
次回――映士、ゴミ捨て場の洗礼を受ける。