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『仮面ライダービルド』感想・第21話

◆第21話「ハザードは止まらない」◆ (監督:上堀内佳寿也 脚本:武藤将吾
しばらく間が空いてしまったので、まずはここまでのあらすじを捏造しながら振り返りたいと思います(え)
――奇跡の返り咲きを果たした氷室幻徳首相代行に、誰が一番セクシーか決めようじゃないか! と売られた喧嘩を買った北都首相が、パンドラボックスと20本のフルボトルを我が物にせんと、東都へと宣戦布告。東都の平和を守る為、正義の絆で結束した桐生戦兎・万丈龍我・氷室幻徳の3人は、北都政府とも繋がっていたブラッドスタークの暗躍により生み出された仮面ライダーグリスとハードスマッシュに立ち向かうが、幻徳が悪の組織ファウストを用いてネットアイドルみーたんファースト写真集(握手会参加券付き)を買い占め、プレミア価格で転売していた事が発覚してしまう。
「おまえにみーたんのファンである資格はない」
「話を聞いてくれ。これは東都の為なんだ! 予算をやりくしなければ東都は」
「いい加減にしろ! …………今すぐファンクラブから出て行け。もう親子でもなんでもない」
「いいだろう。なら好きにさせてもらう」
ファンクラブ会長から追放宣告を受けた幻徳はパンドラボックスを強奪しようとするがビルドに阻まれて失踪。そうとは知らない龍我は、戦兎の笑顔を取り戻す為、みーたんファースト写真集(定価3600円)を手に入れようとファウストの息のかかったネットオークションに参加し、猿渡の為に写真集を入手しようとする3馬鹿と激しく値を競り合っていた。
「……筋肉馬鹿が。……泣かせる事しやがって」
龍我の真意を知った戦兎は、既に15万円を越えた不毛な争いを止めるべく、マスターから渡された禁断のアイテム・ハザードトリガーに指をかける。しかし……
「黒幕が居たんだよ……ファウストを使って、写真集のプレミア価格を吊り上げたのは、スタークだ」
版元の難波重工と手を組んだスタークは、プレミア化が白熱した所で緊急大増刷を発表、更にセカンド写真集には撮影会参加券をつけようとしていた! 最低だ、最低すぎるぞスターク、さあどうなる第21話?!
あ、本物のあらすじ劇場には、北都首相が乱入しました。それからOPがようやくマイナーチェンジし、背後に送電線?と龍を置いたクローズチャージ、蒼空を背にしたスプラッシュ、の両方とも格好いいカット。特にクローズチャージの、敢えてライダーを画面右端に置いて龍が大きく後方に浮かぶ、という構図は素敵。
骨の髄まで洗脳が重篤な戦兎は、またもマスターの誘導にほいほいと乗っかってしまい、戦闘が長くなると理性を失い、目に映るもの全てを破壊しようとするという、ライダーシステムの拡張アイテム・ハザードトリガーの使用により、漆黒のビルドへと変身。3馬鹿スマッシュを軽々と一蹴すると、クローズチャージの前に立ちふさがる。
「北都へは行かせない」
「俺が戦争を終わらせるんだぁ! 俺の、邪魔する奴は! 誰であろうと! 容赦しねぇ! おら!」
戦兎の為という根本の目的を見失ったクローズがビルドに連続パンチを浴びせるというのは、クローズ(龍我)の本末転倒と暴走が良い具合に表現されました。
「目を覚ませ!」
そして、クローズにヤクザキックをぶちこんだビルドもハザードトリガーの副作用に襲われ、クローズチャージの射撃で天井の照明が砕け、揺れ動く残った一つに照らされる姿で、その変貌と理性の消失(と僅かに残る揺らぐ人間性?)を示したカットは秀逸。
「邪魔をするな。今の俺に、善悪の識別回路は無い。ターゲットの抹殺あるのみ。体はそのようにしか反応しない。動かない。邪魔をするな」
MX−A1に戻ったジャンパーソン、じゃなかった、理性を失ったダークビルドが、クローズに左腕で連続パンチを浴びせながら、右手でハンドルを回して必殺技を発動させるというアクションは、見た目のスピード感と迫力に加え、かつてない戦闘方法がこれまでと全く違う別格の存在である事を見せてインパクト大。
クローズを蹴りの一撃で戦闘不能に追い込んだビルドA1は、赤黄のハードスマッシュもあっという間に撃破。そして背後から切りかかってきた青ハザードを押さえ込むと、駆けつけた猿渡の目の前でフィニッシュキックを決め、完全破壊する。生身の赤羽と黄羽を始末しようとした所で龍我がヒロインムーヴを発動して足を止め、グリスのディスチャージアタックによりなんとか変身解除。
だが青羽はスタークの言った通りに強化改造の影響でそのまま消滅し、単勝1.1倍で並んで賭の成立しなかった3馬鹿のリタイア第1号に。予告に加えて提供あおりで誰かが消滅するの確定、意図的でしょうが如何にもな予兆はなくビルドA1の試運転であっさり消滅した青でしたが、猿渡にドッグタグを託した後、最後に青い粒子が川の上を流れていく、というのは綺麗な映像でした。
「俺がやったのか?!」
正気に戻った戦兎の絶望、猿渡組の慟哭をアップからロングのカットに切り替え、フェードアウトから東都の遠景に場面転換、北都の侵攻状況を伝えるニュースに避難所の映像をかぶせ、職員をカメラで追いかけて切迫感を出しながら激動の東都政府へ、というのは映画のようなシーン構成でしたが、新戦隊に回った中澤監督と入れ替わる形で、劇場版からTV本編に帰還した上堀内監督が気合いの入った好演出を連発。
「ビルドが一線を退いてわずか一週間で……この有様か」
青羽を失った怒りも手伝ってか、東都を荒らし回る猿渡組は次々とフルボトルを回収し、真っ当な倫理観と視野を持った氷室パパが首相復帰した結果、勘当されたヒゲ住所不定無職の危惧した状況に陥ってしまうというのはなんとも皮肉な追い詰め方。そして戦兎は、地下室の片隅に抜け殻となって転がっていた。
「俺が自分の力を制御できていれば……あいつを傷つけずに済んだ……」
後悔に苛まれる龍我は、猿渡一味が襲撃した基地を守ろうと、単身クローズチャージとなって立ち向かう。
「東都の街は、俺が守る! 俺が! 俺がぁ! 俺がぁぁぁ!!」
決意とは裏腹にまたもスクラッシュドライバーに飲み込まれそうになる龍我だが、それが戦兎による青羽殺害の遠因となった事を思い返し、暴走の寸前に戦意を失うと、赤黄の攻撃で変身解除。放置して立ち去ろうとする猿渡に思わず謝ってしまって蹴り飛ばされ、この間にずっと、背後でピクリとも動かないガーディアン(?)が転がっている、という映像が痛烈。
「半端な覚悟で戦場に戻ってくんじゃねぇ」
龍我の謝罪を青羽への侮辱と受け止めた猿渡は、兵士として生き、兵士として死ぬ覚悟を持って東都に侵攻してきているのですが(だから猿渡は、青羽を殺して自失状態の戦兎に対して、リンチを行おうとした赤羽と黄羽を止めている)、龍我は結局のところ戦場で兵士になれない姿が明確にされ、最近の龍我はひたすら他キャラのだしにされていてちょっと気の毒(^^;
ここ数話、同じ所をグルグル回っている龍我、兵士になれない自覚を胸に、ヒーローとしての道をなんとか見つけだしてほしいのですが、当たるかと思われたスポットライトが戦兎に向かってしまったので、まだしばらくは我慢か……?
その頃、戦争被害のこれ以上の拡大を防ぐ為、東都首相は北都首相にお互いの最大戦力による代表戦――すなわちライダーデスマッチを持ちかけるが、肝心の桐生戦兎は自らの罪に壊れかけていた。
「これ以上東都市民が傷つく姿は見たくない。我々に力を貸してほしい。……君の心情は察するが、これは東都の為なんだ。我々に協力してくれ」
「もう……たたかいたくないんです」
首相の懇願を断り(劇中随一の人格者として描かれてきた東都首相が、集団の為に個人を生け贄に捧げようと為政者としてのシビアさを見せているのがまた、なかなかのえぐみ)、ふらふらと喫茶店を出て行った戦兎は青羽殺害現場に震えながら花を供える。
怯えた様子で必死に手を合わせ、青羽の幻影を見ては嗚咽し、謝罪や後悔よりも、なにより殺人という罪、他者の命という自分には背負えないものを損ねてしまった事への恐怖が前面に描かれ、役者さんも大熱演でぐいぐい攻めてきます。
またこれが、序盤において龍我が殺人の冤罪を必死に晴らそうとしていた事と、他人を虫のように殺して利用するマスターとのそれぞれ比較にもなっており、とかくファンタジーとして処理しがちな(それ自体は作風次第で悪い事ではない)“人の死”に対するリアクションとして、かなり踏み込んだ切り口。
……ただまあ、これをやった事で、第2話以降の香澄の扱いはなんだったのか……という問題はまた浮上してしまうわけですが(^^;
「なんだよ先客かよ」
そこへやってきた猿渡は戦兎の横を通り過ぎると同じく花を供え、そんな猿渡のジャケットを掴みながら切々と訴える戦兎。
「殴ってくれ……俺は、とんでもない過ちを犯した。謝って許される事じゃない。だから……俺を、気が済むまで殴ってくれ」
ここで戦兎の懇願がバランスを欠いて見えるのも、戦兎が事実を受け止め切れていない事を窺わせますが、ハザードスマッシュ倒したら消滅しちゃうコブ、と先に伝えておいたマスター、ホント外道。
「おまえはなんにも悪くねぇ。……敵も味方も死なせねぇなんてただの戯れ言だ。俺は目の前で何人もの命が奪われるのを見てきた。それが戦争だ。あいつだって命をかける覚悟は出来てた。弱いから負けた。それだけだ。おまえのせいじゃねぇ」
悪いのは“個人”ではなく“世界”である、とスカイウォールの惨劇によって運命を狂わされた猿渡は嘯き、ここでようやく桐生戦兎が立ち向かうべきものが見えてきた気がします。
果たして桐生戦兎は、この世界の現実に立ち向かうヒーローになれるのか?
「けど……あいつが俺にとって大切な仲間だって事に変わりはねぇ。…………だから――俺は心火を燃やしてお前を倒す」
代表戦への出場を促して猿渡は立ち去り、しばらく後――戦兎は自ら電話をかけて呼び出したマスターと接触する。
「よぉ。代表戦、辞退したんだってぇ?」
「…………なにがおかしい」
「まだわかってないようだな。いいか? 消滅した青羽もおまえも、ネビュラガスを注入した時点でもう人間じゃないんだよ。だから、おまえは兵器を壊したに過ぎない。それに、戦争になった今遅かれ早かれ味わう事だ。それとも、本っ気で誰も傷つけないとでも思っていたのか? だとしたら、脳天気にもほどがある。おまえが代表戦に出ないのは勝手だ。けど、そうなった場合、誰が代わりに出ると思う? 万丈だ」
有利な状況にある北都(まあ補給の問題や西都の事を考えると早く片付くに越した事はないでしょうが)が、どうして一発逆転の可能性のあるライダーデスマッチを受けたのか疑問があったのですが、承諾するように仕向けたの、この人か。
「けど……今のあいつじゃグリスには勝てない。そうなれば、東都の連中はよってたかってクローズを責める」
冷酷な現実分析に瞳を潤ませて俯く戦兎に対し、真摯に心配そうな表情を向けるマスター。
「おまえが戦うしかないんだよ」
最低だ……
「おまえにもわかってる筈だ。だから何かを期待してここに来たんだろう!」
「…………うるせぇっ!!」
マスターは戦兎のパンチをかわすと逆に鳩尾にパンチを叩き込み、うつぶせに倒れた戦兎は地面の上でもがく。
「……どうすりゃいい…………どうすりゃいいんだよっ!!」
「おまえがグリスに勝てばいい」
最低だ……
「無理だ……無理だ……」
「また自分を見失うのが怖いか。……安心しろ。勝つ方法はある」
柱の影に“用意してきた鞄”を手に取るマスター。
「ビルドドライバーの最大の特徴は、ハザードレベルでは計れない強さを秘めている点だ」
その鞄の中に詰まっていたのは大量のフルボトルで、最低だ……
「貸してやるよ。代表戦までの一週間で、このボトルを完全に使いこなせるようになれ」
最低大行進から唐突に師匠気取りになったマスターは、なんとブラッドスタークへと蒸血。
「(わざわざ声も変えて)さて……俺と戦えばボトルの特性を活かした攻撃を探しながら、ハザードレベルも上げられる。レベルが上がれば、ハザードトリガーだって使いこなせるかもしれない」
ホント最低だ……!
「何をためらってる!」
崩れ落ちたままの戦兎にガッツを与えようとするスターク、とてつもなく楽しそう。
「おまえには守るものがあるんじゃないのか? 自分が信じた正義の為に戦うんじゃないのか? それとも全部嘘だったのかぁ!!」
怒濤のノリノリ。
「…………最悪だ。……こんなに痛くても、苦しくても…………戦うしかねぇのか」
スタークの見下ろす中、手を伸ばしてボトルを掴み取った戦兎は立ち上がり、自らの犯した罪を受け止めながら、明日の為に「変身!!」し、ベルト音声の「ready?」が戦兎の中で反響する、というのも格好いい演出。
戦兎はフェニックス掃除機となり、ここで続いても良かったかと思いましたが、冒頭の戦闘の暗いイメージを引きずるまま終わるのも良くないという判断だったか、ビルドとスタークが修行という名の本格的な戦闘をスタートし、ついでにニューフォームも披露。
「おいおい、掃除機はお飾りか?」
ノリノリのスターク師匠に煽られたビルドは迫り来る弾丸をクリーナーで吸い込みながら、フェニックス鞭で攻撃。
「ダメだダメだ。二つの特性を、活かせてねぇ!」
「うるせぇ!」
続けて発動したローズとヘリコプターが、ベストマッチ。
「どんだけ赤と緑が好きなんだよ!」
相変わらず謎な組み合わせのベストマッチですが、スターク配色な事に喜ぶ師匠に向けて、バラコプターアタックが会心の一撃
「やっぱりベストマッチは想像以上にいけるなぁ。まだまだ行くぞ、戦兎ぉ!!」
さあもう策謀そっちのけで、師匠ごっこが盛り上がって参りました!!
通常、ここまで“全てを影で操っています”という悪役は都合の良さに辟易して見ていて白けそうなものなのですが、多少の瑕疵やトンデモ能力を覆い尽くす勢いで、スターク/マスターの、エンジョイ悪役ライフが面白すぎます(笑)
いずれマスターが背後に抱えているあれやこれも描かれるのかとは思いますが、ひとまずそれは忘れてその時その時、全力で人生楽しそうな悪役、というのは見事な造形となりました。
特に今回はマスター役:前川泰之さん、ブラッドスターク(声)役:金尾哲夫さんの演技もノリにノってシンクロし、大変素晴らしかったです。まだまだ行くぞ、戦兎ぉ!!
そしてマスターコブラのものとでフルボトル百本組み手の厳しい修行をこなしたビルドは代表戦のリングに立ち、やたら押し出しの強い審判員の合図でビルドとグリスの直接対決が始まる! でつづく。
新展開に入ってここ数話、“戦争”という刺激的な題材の調理方法と火加減、これは本当に効果的な劇作になっているのかという疑問、現実に絡め取られていくヒーロー達という意図だろうとしても同じテーマを繰り返し続ける戦兎と龍我、など、スッキリしない状況が続いていた今作ですが、戦兎にキルマークを付けるというひとまずの目標達成、そして見えてくる戦兎が立ち向かうべきもの……と大きな転機に劇場版帰りの上堀内監督の演出が噛み合い、今回は面白かったです。正直、視聴を優先する為にざっくりめに書こうと思っていた感想が、まったく予定外に長くなりました(笑)
この期に及んでマスターに洗脳されすぎな戦兎、脱皮するのかと思ったらむしろサナギのまま硬直してしまった龍我、戦兎にキルマークを付けたらライダー対決に移行するなら“戦争”という要素は本当に必要だったのか、などの引っかかる部分は色々ありますが、後半はマスター劇場が面白すぎて、前回のヒゲ直滑降同様、細かい事はどうでもよくなりました(笑)
本当にまさか、ヒゲとマスターが、ここまで今作の両輪になるとは……。現在、すっかり補助輪状態の戦兎と龍我にもいずれ主軸の立場を取り返してほしいのですが、今回いっけん主人公再起のような話の構成なのに、むしろコールタール製の泥沼に完全にはまっていっているので、次回、どうなるライダーデュエル?!