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ものかきと映画:第5回『ドラゴン危機一発』

(個人的なベスト10映画を紹介するという企画意図は今回より変更します。それも含みつつ、その時々の気分とネタで(^^; 70年代香港映画は、良くも悪くも凄すぎた!)
ドラゴン危機一発 (1971年) ※日本公開は1974年

  • 監督:Lo Wei 羅維
  • 製作:Raymond Chow 鄒文懐
  • 脚本:Lo Wei 羅維
  • 音楽:Wang Fu Ling ワン・フリン
  • 出演:Bruce Lee 李小龍/James Tien 田俊/Maria Yi マリア・イー 他


洪水の為に農作物に大被害を受けたチェン・チャオ・ワン(ブルース・リー)は、従兄弟のシュー・シェン(ジェームス・ティエン)を頼り、タイの製氷工場で働く事に。母から贈られた翡翠のロケットに誓い、絶対に喧嘩をしないと心に決めた彼は、小父と共にシューの家へ。
無事に製氷工場で働き口を見つけた彼であったが、何とその製氷工場では、氷の中に麻薬を隠す、密売ルートの一端を担っていた。その事に気付いてしまった為に、殺されてしまう工場の仲間。不審に思い社長の元を訪れたシューまで密かに殺されてしまい、行方不明の扱いに。
それが元で工場では乱闘が起こり、巻き込まれたチェンは社長の部下に大切なロケットを割られてしまう。怒りのチェンの拳が炸裂! 果たしてチェンは、工場に秘められた黒い陰謀を見破る事が出来るのか?!
截拳道の始祖、ブルース・リー出世作! 当時の香港映画で記録的な興行収入を挙げたヒット作品……なんですが……(※今回、完全にストーリーに沿ってネタばれしてますので御注意下さい)
冒頭、小父とともに船でどこかへやってくる主人公チェン。字幕見逃した記憶が無いのですが、とりあえずそこがどこなのかさっぱりわかりません。これを書くにあたって幾つか調べたら、上に書いた通りにタイ、という事みたいなのですが。まあ、どこでも良いといえばどこでも良いのですけど、香港では無さそうだし道行く人々は東南アジア系の顔しているしと、しばらく混乱。……もしかしたら、深夜のTV放送の都合で冒頭とか一部カットされていたのかもしれませんが(^^;
さて、船を下りた2人は、とりあえず道端の氷屋で氷水を頼みます。そこにやってくるちんぴら4人。氷屋をやっている美女に絡むのですが、母のロケットに誓った主人公は小父にもなだめられ、立ち上がりません。そこへやってきた肉まん売りの少年。男達は肉まんを食べるのですが、お金を払いません。「代金をくれよ」と言った少年がちんぴらにはたかれても、未だ立ち上がらないリー。
“喧嘩をしない”という誓いを強調したかったのでしょうが、見ている方はストレスの溜まる展開。
どうするんだろう、と思っていると、如何にも正義漢という青年(シュー)が登場。ちんぴら達と格闘を開始。
強いのか弱いのかよくわかりません
まあ、4対1なんで強いのでしょうが、敵も味方も妙にへっぴり腰。これが当時の(演出・殺陣の)レベルなのか、ブルース・リーを引き立てる為なのかはわからないのですが、今ひとつ盛り上がりにかけます。その癖、パンチやキックの効果音だけはやたらに派手。
なんとなく殴り殴られを繰り返している内に、逃げ出すちんぴら達。
余裕がある闘いをしていたとも思えないのに、追いかける青年。
そこで小父が、「あれは従兄弟のシューだ」と気付き、更に追いかけるリー達。場所を変えて、ちんぴらとシューの戦いが繰り広げられるのですが、相変わらず微妙。果ては、叔父さんが「シューじゃないか!」と声をかけた途端に、全てを忘れたかのように笑顔で振り返るシュー
今度は逃げていくちんぴら達を追いかけもしません。
肉まん代は?
その後、訪れたシューの家で工場で働く仲間(家族)を紹介されたり、ヒロインであるシューの妹さんとの出会いなどがあり、無事に製氷工場で働く事に。
製氷工場にはなんか悪巧みがあるぞ、というのがわかりやすく明示されたり、叔父さんが「他人の事に首を突っ込んで、喧嘩は絶対にするんじゃないぞ」と強調して帰国したりするんですが、その夜、シューの知り合いがいかさま博打に金をつぎ込んでいるのを止めに入った件で博打の胴元グループと喧嘩になり、結局、喧嘩してしまいます
相変わらず強いのか弱いのかわからないシューが何度叩いても倒れなかったちんぴらも、リーのパンチでは一撃!
いやまあこれを待っていたわけですが、なんとなく釈然としません(笑)
翌日から、製氷工場で働きだしたリー。ここでトラブル発生。リーが間違って割ってしまった氷の中から、怪しげな包みが出てきます。その包みを手に取った工場の仲間2人は終業後に工場長に呼ばれ、それが麻薬であり見てしまった以上(いや、気付いてないと思うんですが)仲間にならないかと誘われるのですが、誘いを断ります。
案の定、外に出た途端に頭を斧でかちわられて死亡。更にその後、氷を切断する為の機械で体を切断されたり惨い展開なのですが、これが実は序の口であった等とは、この時に誰が気付きましょうか(^^;
ちなみに悪党の人間関係としては、
社長(麻薬密売・街の有力者)→社長の息子(ドラ息子)→工場長(社長の忠実な部下)→現場監督(工場長の腰巾着)
という風になっておりまして、工場長は一見すると人の好さそうなおじさん、となっております。社長の息子がヒロインに迫っていたりとかもあるんですが、大筋とはそれ程関係がなく(^^;
翌日になって、2人の仲間が急に居なくなった事を知る労働者達。リーダー格のシューは工場長に話を聞くのですが「社長の家に行った」と言われ、社長宅を訪問する事を決意します。……なんかよくわかりませんが、社長、評判悪いです。どういうわけかいきなり怪しい人扱い。
そして社長宅を訪れたシューともう一人ですが、無惨にも返り討ちに合い、手斧が背中に刺さったり、ナイフが腹に刺さったりして絶命。
どうやら社長の方針は、
誤魔化すより殺っちまえ
である模様。
工場ではシューまでもが帰ってこないという事で、ストライキ勃発。そこへやってきた社長の部下達との乱闘で母のロケットを壊され、ついにブルース・リー爆発!
これはもう、「いよ、待ってました!」て感じでありまして、アクションシーンはさすがに見せてくれます。この喧嘩での活躍で一躍仲間の信望を勝ち得たリーは、現場監督を任される事に。みんなで大喜びし、家に帰っても大喜びなのですが、お陰でシューの事をすっかり忘れてしまいます(笑) 妹さんに怒られ、落ち込むシュー一家。
一方、リーのあまりの強さに驚いた工場長は、それを社長に報告すると共にリーを抱き込む事に。
古今東西、男を抱き込む手段としたら、酒と女でうっはうっはしかありません。まあ普通は、ヒーローはそういうのを突っぱねる所なのですが、この映画の凄い所は、主人公が見事に陥落する所
酒を飲んでしまうリー。
酔っぱらってしまうリー。
女の子に抱きつこうとしてしまうリー。
とどめに、一晩を明かしてしまうリー
一方そのころ、仲間達はさもしい食事をしながらリーの帰りを待っているなどというシーンが挟まれたりして、これはまさに、ドラゴン危機一髪。
とどめに、翌朝ホテル(娼館?)から出てくるという決定的なシーンをヒロインに目撃されてしまいます。
目を逸らし、そそくさと走り去るリー(笑)
工場に出勤したものの、警察に行かなかったリーに仲間達の態度は当然冷たく、反省したリーは今度こそ社長宅を訪れる事に。工場長から連絡を受けた社長は、訪問したリーに何故かシェパードをけしかけます。昨夜からの抱き込み路線はどこへいったのか?(^^; 途中でシェパードにはストップ命令を出すのですが、完全に無駄アクションという感じ。
社長から「シュー達が見つかるまで警察に捜索させる」と言われ帰宅したリーですが、家で仲間に嫌味を言われ(何故か、ヒロインはここで今朝の出来事を忘れたようにリーをフォロー)、寂しくなったのかふらふらと(そう見えた)昨夜の娼館に。
そしてその娼婦から、いきなり全ての裏を聞いてしまいます
製氷工場が麻薬密売に使われている事、それを知った者が口封じとして始末されている事……全てを知った主人公は、夜の製氷工場に。……いやしかし、さすがにこの展開はどうにかならなかったのか(^^; ちなみにこの娼婦は、リーが立ち去った後、社長の息子(実はナイフ投げの達人だった!)に殺されてしまいます。
どうやら社長は、関係者全員の口封じを決意した模様。
製氷工場の氷室で、隠された麻薬、そして氷漬けになったシュー達のバラバラ死体を発見するリー。死体の始末の仕方に突っ込むのはまあこの際無しにしておくとして、激怒するリーの前に現れる、社長の息子とその部下達。
一方、仲間達の家も社長の部下達に襲撃され、ヒロインが拉致されてしまいます。
製氷工場でのバトルは、この映画の実質的なクライマックスでしょうか。多対一で展開する激しいバトルはさすがに熱い。そして何より恐ろしいのは、何故かアイスピックを握っているリー。
アイスピックと武闘家
危険です、危険すぎます。案の定もう、色々と凄い事に。
最後に、社長の息子を殴り殺し(腹を殴った筈なのになんか変な所から血出てましたが)、帰宅するリー。この辺り、台詞がほとんど無いのですが、表情と動きだけ見ていると殴殺した事(だけ)にショックを受けているように見えます。アイスピックとかで散々殺したのに。
そしておもむろに、返り血のついた服を脱いで鞄に突っ込むと、上着を着て荷物を手に家を出ていこうとするリー。
逃げるのか
しかしそこで、玄関を濡らしていた鮮血に足を滑らせて転びます。小さな子供まで含む、仲間達の惨殺死体を発見するリー。なんだかもう、ヤクザ映画のクライマックスのような大虐殺の展開になってきております。社長もこんなに死体を出して、どうするつもりだったんだ。行方の知れないヒロインを心配し、怒りに震え、怪しいのは社長だけなんだからそのまま乗り込むかと思いきや、
朝になってしまいます
川辺で語られるモノローグ。
遂に復讐を決意し(というか自棄になったように見える)、荷物を川に投げ捨てたリーは、社長の屋敷へ。
何故かポテトチップスのような物を食べながら突入を慣行するんですが、ブルース・リーって人はそんな演出でも格好いいから凄い。そして社長の部下達を一蹴し、遂に社長と一対一に。
さてここで社長なんですが、上にイラスト書きましたが、怪しいメガネに怪しい髭、見た目にしてもここまでの演出による雰囲気にしても、どっからどう見ても強そうには見えません。時代劇で言うならば悪代官というよりは越後屋っぽいノリなわけで。「いやここで社長が強いのは面白いよな、でもあっさりやられても面白いか? というか、ここで社長強いのも問題じゃないか?」とか色々思っていたのですが、蓋を開けたら、マスタークラスでした。
何故か鳥かごを手に持ったままポージングしていた社長ですが、それを軽く投げると木の枝に見事にかかるという前振りの後に、戦闘開始。
今まで誰もがほぼ一撃でやられていた事を考えると、かなりの健闘をする社長。
一方その頃、小屋みたいな所に捕まっていたヒロインは社長に虐待されていた召使いの女の子に助けられ、屋敷を逃げ出します。
広大な中庭で激闘を繰り広げるブルース・リーと社長。
背景の道路を、物凄い普通に車が走っています
しかも割と頻繁に
戦いの方は、「どうせまた最後はあっさりナイフとかが刺さるんだろうなぁ」と思っていたら、その通りの展開に(笑) 更にとどめの一撃を浴びせ、倒れ伏す社長。これで終わりかと思いきや、既に絶命したとおおぼしき社長に対し猛然とマウントポジションを取り殴りまくるブルース・リー
まあ、溜まりに溜まった憎悪を吐き出した、という所なんですが、あまりにえぐい(^^;
そして精根尽き果てたという感じでそのまま脱力。ここで終わっちゃうのかなぁ……と思っていたら、どうやら逃げたヒロインが警察を呼んだらしく、パトカーがやってきます。
当然のように逮捕されるリー
抵抗しようとした所をヒロインに止められて大人しく捕まるのですが、大量殺人の現行犯逮捕です。いくら情状酌量の余地があるにしても、なんかもー、一生シャバには出て来られそうにありません。…………さっきの所で終わった方が、まだ良かった。
…………要するに、「母との誓いを守れないような人間は、後で罰を受けるのです」という映画か、そうなのか?! ……て事はさすがに無いとは思いますが、この映画から敢えてテーマを引き出すなら、それですよね(^^; 主人公がひたすらヒーローではない、という所がポイントといえばポイントなのかもしれませんが。なんか、そこまで難しく考える事がないような気もしつつ。個人的な感覚でいえば、時代劇だったりヤクザ映画だったりした挙げ句、最終的に実はマカロニウェスタンだったみたいな。この映画だけがこうなのか、当時の香港映画のノリがこうなのか、ちょっとわかりませんが(ブルース・リー自身は監督・脚本のロー・ウェイを酷評していたそうですが)。
切ないオチだったなぁ……。
ただ、やはりブルース・リーは格好良かったです。彼そのものが見せてくれる独特の世界めいたものは、好き。
色々な意味で、色々なものを堪能できた映画でありました。



ちなみにこの作品、原題は「唐山大兄」。英題は「THE BIG BOSS」。何か手違いがあってつけられたらしいアメリカでのタイトルは「Fists of Fury」(直訳:憤怒の拳……要するに『怒りの鉄拳』と取り違え?)。
そして邦題が「ドラゴン危機一発」。「危機一髪」だったのはやはりあのシーンしか考えられませんが(笑) なお、言葉としては「一髪」が正しいのですが、調べたところによるとマイク水野が雰囲気を出す為にわざと「一発」にした説があるそうです。
原題もたぶんそういう感じなのかと思うんですが(「大兄」がそれっぽい)、英題を考える限りでは、社長が強いというのはどうも折り込みずみだったみたいですね。邦題と社長の容姿だけだと、最後の戦闘始まるまではかなりドキドキでしたが(笑)