『ガンダムAGE』第1話、視聴。
残念ながら、面白くありませんでした。
私個人はもはや「ガンダム」というタイトルに対するこだわりはないので、純然たるロボットアニメとして見た評価ですが、非常に残念な出来。むしろ、「ガンダム」として見たらもっと評価が低くなりそうなので、視点としては優しいと思う。こういったブランドシリーズものでは、「○○(ブランドタイトル名)って付けなければ普通に見られるのに」という評価軸がありますが、この作品の場合は、「○○ってついてなければもう何の意味もない」レベル。
とにかく演出が酷すぎます。
見て、あまりにも悶々としたので、以下、自分がすっきりする為に書きました。
第1話感想というよりは演出論よりですので、そういった話に興味のある方だけご覧下さい。
最初に述べておきますが、以下に触れている部分の多くには「2話以降で描かれるかもしれない」という要素があります。しかしそれは、「2話以降を見たいと思わせる」事で初めて成立するわけであり、そのレベルに達していない作品においては、評価されるべきではない、という前提でご理解下さい。
さて、物語の基本構造としては、〔親から凄いロボットの設計図を託される→開発→謎の敵に立ち向かう〕という、極めて古典的なロボットアニメを志向していると思われる今作(「父親」ではなく「母親」から託される所だけ、ひねった)、主要な視聴者層を小学校低学年程度(? 少なくともコロコロコミックスのCMが入った)とするならば、視聴者の代替わりの関係で、古い/新しい、は評価点にはしないものとします。
誰にとっても、初めてのロボットアニメ、であるならば、それは新鮮な内容なのです。
問題は、この構造が面白く描けていたかというと、全く面白く描けていなかった所。主人公はロボットの開発の為に軍組織?と協力体制にあるような描写はされるわけですが、まずこの軍組織?の描写が全く無い為、ロボット開発のリアリティが無い。この軍組織?は何をしているのか、どうして主人公はこの軍組織?と関わっている(関われている)のか、必要な要素に説明も想像の余地もない。
これなら、主人公が裏山の秘密基地で独力でロボットを開発している方が、まだ説得力があります。
先程から、わざと「軍組織?」という表記をしていますが、本来ならわかりやすく呈示されるべきこの組織の姿が、本編通して全く見えてきません。軍隊なのか企業なのかどこかの物好きが作った秘密組織なのか、世界の中の位置づけがわからない。
で、何故そんな事になるのかというと、そもそも彼等の生活空間に対する説明もなければ描写もない。
遠景のスペースコロニーの映像は何度か入って、この中で暮らしてますよ、というのは何となくは受け入れられますが、スペースコロニーとは何か? なぜスペースコロニーで生活しているのか? の説明が一切ない。
百歩譲って、その辺りの説明は後で明かされる、という事にしましょう。
ならばその場合は、スペースコロニーという空間での生活描写、を入れなければなりません。
今作は、外からスペースコロニーは映しているけど、中の表現が無い。例えば今作からスペースコロニーの遠景映像を全て除くと、主人公達が宇宙のどこかで暮らしているという感覚がほぼ一切なくなります。付け加えると、巨大ロボット以外の、ちょっとした未来描写、というのもほとんど無い。そういったものが、実は凄く重要なのです。
それらひっくるめて、スペースコロニーという生活空間の描写が全く無い為に、後半における敵の襲撃の衝撃が非常に薄い。生活空間に外敵が侵入して日常が崩壊するからこそ、そこにスペクタクルが生じるのに、それを視聴者任せにしている為に、劇的な要素が生じない。
要するに、演出、というものが全くわかっていない。
主人公を個別にイベントに放り込んでいるだけで、その前に描写の蓄積があるからこそ、イベントに意味が生まれる、という部分の認識が欠けている。
良し悪しとは別にキャラクターデザインの問題というのもあって、個人的には、主人公が小学生なのか中学生なのか高校生なのかの判断が(級友との比較含めて)全くつかないのですが、これも作中で明確にしてくれないので(もしかしたら学校の所で何か言っていたかもしれませんが、少なくとも印象には残らなかった)、主人公が作品の中でどのぐらい異質なのかがわからない。
先生の説教とクラスメイトの失笑で、学校でちょっと浮いている、というのはわかるのですが、ここで主人公の異質さがはっきりしない事で、後半でガンダムに乗り込むのが、凄く珍しい事なのか、たまに有る事なのか、年齢的にはどうなのか、という辺りがピンと来ない。古典的なスーパーロボット世界においては別にそれほど異常時でもないわけで、ではこの世界ではどうなのか? というのを制作者がどう置きたいのか、というのが伝わってこない(とにかく全体的にそういう部分ばかりなのですが)。
例えばここで、主人公が軍に関わっているのはこの世界でも異質、という表現をしたいのならば、ヒロインがいつも横にくっついていてはいけないわけです。
ヒロインは軍関係者の血縁らしいですし、そもそも主人公が軍組織と繋がりを持ったのがヒロインのコネという可能性もありますが、ここでヒロインが常に横に居て軍の基地とかにも普通に入っている為に、主人公の異質さが出ない。出ないからガンダムに乗り込むインパクトもない。そもそも制作側が、そこにインパクトを持たせたいのかすら、よくわからなくなってくる(多分、持たせたかったとは思うのですけど)。
もう一つ書くと、主人公がガンダムに乗り込む部分にインパクトを持たせたかったのなら、途中で出てきてガンダム乗らずにさくっとやられて怪我する先輩MS乗りみたいな人は、もっとわかりやすく老け顔にしないといけない。あのぐらいの若い顔のキャラデザだと、主人公と大して年代が変わらないような……となってしまう。問題は、設定、ではなくてどう見えるか、なのです。
今作の場合、敵メカに人が乗っているか乗っていないか、を描写していない為に、ますますこの点が重要だったのですが、全体の出来を見る限りでは、やはりここも何も考えてないのでしょうが。
なぜ最初の『ガンダム』でザクのパイロットがおっさんだったのか?
という程度の事は、ちゃんと考えてほしい。
この“対比物の不在”というのは凄く目を引いて、日常と非日常、おっさんと少年、MSと人間、宇宙とコロニーの中、未来と過去、色々なものが欠けている。
あまり引き合いに出したくないのですが、富野由悠季はロボットアニメの演出の基本として、「そこに人を置け」と言っているわけです。つまり、ロボットと同じ空間に人が立つからこそ、ロボットが大きく見える。これは何も大小の比較に関わらずフィクション全体に言える事で、強調したいものがあるなら、比べるものを置かなくてはいけない。
今作ではせいぜい、ガンダムの前に味方の雑魚MSがやられるぐらいはさすがに描きましたが、あそこも本当は、雑魚MS出すのなら、前半の内に出しておいた方が良い。前半で、工業用ロボットみたいなのに爺さんがガンダムの腕つけて試験しているというシーンがありましたが、あれに尺使うぐらいだったら、普通にMSが動いている、という描写を背景でもいいから、デザインがよく見えるように入れておくべき。
そうすると後半の戦闘シーンでMSvsMS型、という絵にスムーズに入れるし、ガンダムの前振りになる。
あそこで工業用ロボットみたいな物しか出さない事で、MSの日常性とか実用性のレベルがわからないまま、「MS鍛冶」とか「救世主ガンダム」とかいう単語が浮いて出てしまって、という事はガンダムは唯一無二のスーパーロボットなのか、と思っていると、そうでもない、という、がっくり感。
要するに、絵作りとか話運びが古典スーパーロボットものによっているのに、変にガンダム的な肉付けをしているのですが、その肉付けが下手な上に、何をしてガンダムたらしめるか、という部分が凄く表層的。
ここで一つ脱線しておくと、今でこそ「リアルロボット」という言葉が強烈すぎて、ガンダム=リアルロボット、という印象が支配的ですが(ゲームの影響もある)、元来、初代『ガンダム』における、ガンダムというロボットそのものは、非常にスーパーロボット的、というのは忘れてはならない所。何しろ、雑魚敵の基本攻撃(ザクマシンガン)が通用しない・戦艦の主砲並の大火力・なんだかんだ言うけど一機で戦局をひっくり返す・父の作ったロボット、なのです。初期のガンダムはむしろ超合金Z的であり、実は受けて返すロボットでした。
では何をして『ガンダム』は『ガンダム』となったのか、という話は『ガンダム』そのものの検証になってしまうのでしませんが、要するにスーパーロボットと『ガンダム』は併存しえないか、というと、本質はそこではないよね、という話。
その点、駄目なオマージュをやりまくった今作ですが、敵メカのマシンガンみたいなのを弾いた、というネタだけは評価したい。その後の、「武器はないのか?」は、アホか、で済ますとして。
もしかしたら製作サイドは、最終的には、1話はオマージュ、と言ってすりぬけるつもりなのかもしれませんが、下手なオマージュほど価値の無いものはないし、オマージュを言い訳に使うのは元作品への冒涜、という事は覚悟しておいてほしい。
結論として、この物語構造なら、主人公は母から受け取った設計図を元に裏山の秘密基地で独力でガンダムを作っており、謎の敵の襲撃時に発進、軍のMSが勝てなかった敵を、「ガンダムびーーーーむ!」で破壊する、で全然良かった(個人的にはそっちの方が見たかった)と思うのですが、それをやらなかった理由が「ガンダムだから」以外に見えてこないし、そこで旧シリーズに乗っかる意義もわからない。
旧シリーズ乗っかって<ガンダム>やりたいのなら、話の構造はもっと変えなければならなかったと思う。
新しい事やりたいなら、新しい事をやれば良かった(ガンダムビームは極端としても)。
で、最後に、主な視聴者層と意識している小学校低学年の目を引くなら、それなりの要素を仕込まないといけないわけですが、1話にそういう気配が全く無かったのも疑問。ラストのアクションもインパクト弱いですし、とにかく、何を、どこを視聴者に見せたいのか、さっぱりわからない。
それが、ロボットアニメとして残念な出来、という最大の理由。
ロボットアニメというのは1話で、新しくドキドキするロボットが出てきた、と思わせなければ駄目なのではないでしょうか。
せめて発進シークエンスぐらいやれば良かったのに。
もしかすると、制作サイドはこの1話で充分に“突き抜けた”と思っているのかもしれませんが、世に突き抜けたロボットアニメは幾らでもあるし、<ガンダム>一つとっても、『G』と『∀』が存在するわけで、なんとも中途半端。
物語の方は、古典パターンに則って、基本的な事を一くさりやっただけで脚本どうこうという段階ですらなく(上手い人が書けばもっと色々あるでしょうが)どう転がるかもわからないので置いておくとして、とにかく致命的なのは演出。それも、場面場面の絵造りという部分ではなく、総体の思想としての演出が酷いので、これが改善されないと、どうしようもない。
<ガンダム>というタイトルがついている為に、ネットでは「不評である」事そのものがネタとして消費されている感はありますが、出来が悪いものは出来が悪い、と受け止められるべき。
とりあえずどう転がすかの確認の為に、2話までは見る予定。