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14年後の月に吠える〜『∀ガンダム』全話再見2

◆第2話「成人式」◆
〔脚本:千葉克彦 絵コンテ:斧谷稔 演出:森邦宏 作画監督佐久間信一


月の不穏な動向に、ミリシャの軍事パレードを早めるグエン。グエンは2年ほど前より、北アメリア大陸のサンベルト地帯に入植を望むムーンレィスと交渉し、その技術の一端を受け取ってもいたが、“月に住む宇宙人”に関しては半信半疑で考えていた。だが、それは現実にやってくる。巨大な人型機動兵器と複葉機が交戦し、結果、大出力のビーム砲がノックスを、ビシニティをなぎ払う。戦闘の余波はビシニティの成人式を中断させ、その時、ホワイトドールの像の下から、遺跡と化していたMSが目を覚ます……!

「何やってるの。ホワイトドールが見ているわ。貴方が宵越しの祭を男らしく終えられるかどうか」
ソシエ・ハイム

盛りだくさんの第2話。
構成としては、1話で敢えて行わなかった富野総監督の得意技で展開し、ムーンレィス襲来で切り裂かれる日常、そして主役MSの登場までが、グエンの動きとビシニティの成人式を交差させながら描かれます。
グエンが既にムーンレィスと交渉し、その存在を全面的に認めないまでも部分的な技術供与を受けていた事。その上で入植を受け入れる気などまるでない事など、なかなか食わせ物である事も描かれます。まあそもそも地方領主の跡継ぎ息子なだけでそんなに大きな権限も無いのに、如何にも地域の代表者みたいな顔をして交渉相手の席に座っているのでしょうが(笑)
地上に降りてきた時点でロランがハイム鉱山について知っているなど、ムーンレィス側にもある程度の地球上の情報はあるようですが、この辺り、互いに互いを侮っている節が見え、お互いの顔が見えない事による擦れ違いが描かれているのは面白い所。
グエンにボストニア城の一室に招かれたキエルがムーンレィスに提供された通信機を見て、
「これが、電線を使わずに通信のできる機械……?」
というのは、互いの技術文明の差を端的に示し、『∀』らしい名台詞。
またその上で、華やかなボストニア城とビシニティの成人式のシーンを何度か切り替える事で、社交パーティと土俗のお祭りを対比させながら緊張感を高め、クライマックスに繋げます。
ここに至るまでの流れで、成人したらミリシャの飛行機部隊に入りたいソシエ、大学の勉強より実社会に出る事に興味津々なキエル、そんな二人の娘にちょっと困る古風な母親と、何とかなるさと鷹揚に構えている父、とハイム家の人々の姿も鮮やかに盛り込まれています。こういった地味ながら的確な人物描写の積み重ねは、実に見事。
富野演出はどうしても刺激的な部分のみで語られがちですが、一つ一つの台詞や仕草、位置関係などで「ああ、こういう人物なんだな」と手際よく見せて行き、多数の登場人物を物語の中に落とし込む手法というのは、やはり抜きん出ています。本来、こういう技術的な面こそが、手本として受け継がれないといけないと思うわけなのですが。
放映当時、今作について「菅野よう子の音楽に助けられている」という評価をチラホラ見ましたが、全く違って、「菅野よう子の音楽に食われていない演出」こそ、今作の骨組みなのです。
菅野よう子のBGMなんて、油断していると作品を頭ごと食べてしまうような種であって、決して作品を助けるような類いではありません。
印象的な叩きつけるようなコーラスで始まる音楽に乗せて、巨大なMSが飛来してそれに複葉機が立ち向かっていくという絵をぶつけるのは、絵と音楽の殴り合いなのです。
イデオン』第1話もそうですが、富野演出は、音楽と殴り合いを始めると非常に冴えます。
ノックスにムーンレィスの襲来が迫る頃、ビシニティではソシエとロランが成人式の真っ最中。
ロランにとってこの成人式は、ビシニティにおいて一人前と認められるというだけではなく、土地の共同体に帰属する事で、“地球の人間になる”という事を意味しており、その喜びの大きさが冒頭からテンションの高さで現れています。
しかしそれは、ムーンレィスの襲来と、その余波で、中断されてしまう。
混乱の中、ホワイトドールの遺跡の下から姿を現す白いMS――ガンダム
祭を終えられなかった少年はMSに乗り込み、自動制御で放たれたビームライフルの閃光が夜空を切り裂く……。
ここで何より重要なのは、成人式が中断している事。
ビシニティの成人の儀式はずばり、
ホワイトドール(忘れ去られたガンダム)の前で大人になる事
です。
しかしロランは大人になり損ねる。
なり損ねてモビルスーツに乗ってしまう。
ガンダムは目覚め、戦いが始まる。
成人式の中断に際し、ノックスの炎上を目撃して儀式が騒然とする中、儀式に使うヒルがロランの手にした箱からぼろぼろこぼれ落ちるカットが入るのは、非常に印象的。
つまりメタな視点を含めて見た時まず今作は、
大人になり損ねた少年の戦いの物語
であり、その辿り着く所は
祭を閉じて大人になろう
というものです。
∀ガンダム』は、祭を終えて、呪いを解き、社会へ帰属する為の物語なのです。
と見ると、得意技中の得意技といえる展開を2話に持ってきて、敢えて緩やかでロボットアニメ的とは言いがたい1話がなぜ置かれたのかを考えた時、独特の世界観をゆっくりと見せるという目的もあったでしょうが、もう一つ、見えてくる事があります。
それは、今作における極めて重要な要素を強調する事。
1話Aパートの最後に「宵越しの祭」の歌とともに印象に置かれ、2話のサブタイトルにまでなったもの。
すなわち、「成人式」
今作はそこをスタートとし、そしてゴールとして進みます。
細かい所では、成人式にブリキの金魚の玩具を持ち込んで、ソシエに「やだやだ」と言われるロランが「今夜で最後だから」と返すのは、ブリキの金魚の表す意味を示しており、面白い所。
なお金魚はこの後、金隠しとして大活躍。
金魚だからさ。



「野蛮人がっ! ふざけるんじゃない!!」
(ポゥ・エイジ)