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『たんぽぽ娘』(ロバート・F・ヤング)

「ジョナサンと宇宙クジラ」などで知られる、ヤングの日本オリジナル短編集。
短編集のアベレージとしては『ジョナサンと宇宙クジラ』(これは個人的に非常に好きな短編集)の方が高かったですが、それなりに面白かったです。ヤング作品はアイデアの切れで勝負するというタイプでもないので、中身とフィーリングが合うかどうかが、大きいなぁ。
特にお気に入りは、3つ。
「第一次火星ミッション」
少年の日、友人達と手作りのロケットで“火星旅行”をした記憶を持つ主人公は、長じて本物の宇宙飛行士となり、人類初の火星への着陸を果たす。そこで彼が目にした物は――……バロウズの《火星シリーズ》へのオマージュであり、アプローチは違いますが、エドモンド・ハミルトンの「プロ」を思い起こさせるような、叙情的な一種のメタSF。
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」
時間旅行中、航時エネルギーのガス欠で補給ステーションのある時間に緊急着時した主人公。ステーションを探し歩く内に奇妙な風景に遭遇する事になり……SFお伽噺とでもいった読後感の良い小品。
「ジャンヌの弓」
改革者オライアダン率いる銀河連邦政府艦隊は、惑星シェルブルーへ侵攻するが、そこで見た事もない気象兵器を扱う少女ジャンヌによってその行軍を食い止められる。ジャンヌは何者か、彼女扱う弓矢にはどんな秘密が隠されているのか。政府は搦め手から少女の身柄を確保するべく、一人の青年士官をシェルブルーへと送り込む……。
ジャンヌ・ダルクの物語を下敷きに、これまたSFお伽噺とでもいった内容で、色々と単語で眩惑しているものの、シンプルな筋が気持ち良く面白かったです。
表題作の「たんぽぽ娘」は既読だったのですが、改めて読むと、オーソドックスなタイムトラベルロマンスとして確かに水準以上の出来だな、と。
ちなみにヤングで一番好きなのは、『ジョナサンと宇宙クジラ』所収の、「リトル・ドッグ・ゴーン」。アルコールで全てを失った役者が流れ着いた宇宙の辺境で不思議な特性を持った生物と出会い再起の道を辿るが……と、優しいタッチのロマンスを軸にSFらしさもしっかりあって、名品。