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『宇宙戦隊キュウレンジャー』感想・第21話

◆Space.21「さらばスコルピオ!アルゴ船、復活の時!」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:毛利亘宏)
 今作のサブタイトルは長さもあまり気にせず、洒落っ気よりもストレートなわかりやすさ優先なのですが、まさにサブタイトル通り、前半と後半が別の話。
 「兄貴は強い! だけど一人だ。俺には仲間が居る!」
 赤・空・橙は3連続必殺技でサソリ仮面様を追い詰めていき、仲間の力で強大な悪を打ち破る構図なのですが、肝心の「仲間」部分に物語としての積み重ねが薄い為、単純に数と腕力で上回っているだけにしか見えない冒頭から困った展開。
 そこに物語を乗せてどう見せるかこそが肝心なのですが、いっそサソリと子熊だけの方がドラマ性が成立していて、獅子レッドの存在が邪魔、というのがなんともはや。
 「俺が負ける……そんな事が、許される筈がない。うぅおおおおおおおお!!」
 サソリ仮面様は赤い仮面を砕く闇のオーラを全開にして怒濤の反撃を見せると、必殺サソリ仮面キックで3人をまとめて変身解除に追い込むが、そこに飛んでくる斧。
 「待たせたな」
 右腕にドリルが付く事も、角が4本に増える事もなく、チャンプ復活。
 「吾輩とおまえの過去に、決着つけるぞ」
 「……ああ。――行くぞ、相棒」
 「はははははは、初めて相棒って言いやがったな」
 チャンプのアントン博士への想い、それを踏まえてのスティンガーを放っておけない気持ち(それはチャンプにとって、自分がただの戦闘メカではない証明でもある)はそれなりに積み重ねられているのでここはさすがに格好良く決まり、4人並んで再変身するのですが……なんだこの、ラッキーの物凄いおまけ感。
 ラッキーとサソリ仮面様の間に全く因縁がないので、対幹部クライマックスだというのに、レッドが場違いという凄まじい構図に(まあ実はチャンプの仇討ちへの協力を果たす事にはなっているのですが、本人がすっかり覚えていないみたいですし……)。
 ここまでスティンガー(&関連キャラであるチャンプと小太郎)推しにするなら、いっそ思い切ってラッキーを外して、ラッキーはラッキーで別の場所で必然性のある戦いを与えておけば大人数戦隊の意味も出て良かったと思うのですが、人数は既存シリーズの倍近いのに新しい文法の模索が足りない、という今作の短所が山場で浮き彫りになってしまいました。
 4人は怒濤の連続攻撃でサソリ仮面様を追い詰めるが、アンタレスの毒が回って膝をつくオレンジ。間一髪のその時、またも黒の斧がオレンジを助け、斧を手にしたサソリはチャンプの仇も一緒に取る形で、必殺の一撃でサソリ仮面様を切り裂く!
 ……サソリ仮面様、開始8分で大爆発(笑)
 変身が解け、よろめきながらも爆発に背を向けるヒーロー立ちを決めるスティンガーだったが、
 「兄貴ーーー!!」
 爆発が収まるや否や、半泣きでサソリ仮面様に駆け寄ってしまい、えええええええええええええ。
 スティンガーがそこを切り捨てられないのはまあわかるにしても、チャンプの気持ちも多少は考えたらどうか。親ともいえる人物の仇に対して、最後スティンガーの好きにさせるチャンプの器だけがドンドン大きくなっていき、作品の殻を突き破る勢い。
 「強くなったな……」
 瀕死のサソリ仮面様は弟を称賛し、更にえええええええええええええ。
 やけにさっぱりとしたサソリ兄は、いわゆる憑き物が落ちたのでしょうが、後述するように憑き物が落ちる段取りを踏んでいないので、物凄く素っ頓狂な事に。
 「守るものを手に入れたから、強くなれた。昔の兄貴みたいに」
 ……そもそも、スティンガーの、守るもの、とはいったい。
 前回今回と繰り返している台詞から考えると「仲間」という事になり、作り手の中では前回の「迷惑かけたくなかった」発言で、スティンガーの中に仲間を想う気持ちが芽生えている、というつもりだったのかと思われますが、なにぶんチャンプと小太郎以外とほとんど絡んでいないので、それがスコルピオを超える強さの秘訣、と言われても非常に納得しかねます(^^;
 スコルピオ撃破における物語上の課題に対して、「守るものを忘れた強さ」を「守るものを得た強さ」が上回ると答えているのですが、肝心の“守るもの”がしっかり描けていない為、スティンガー一人だけが主張しているように見えてしまい、課題に対して適切な回答が与えられていないので、スコルピオの憑き物が落ちたような反応が非常に不自然な事になってしまっています。
 更に言えば、ここでスティンガーが提示するべきだった回答は〔守るものの為に強くなった→それを忘れて歪んでしまった〕スコルピオに対し、〔守るものを手に入れた〕以上の〔それを忘れて歪まない自分の証明〕だったと思うのですが、話がその前段階で止まってしまっているのも不足に拍車を掛ける所。
 ここでこの回答が丁寧に示されないと、スコルピオの憑き物は落ちないのです。
 勿論、数を頼りの喧嘩に負けた事で憑き物が落ちたという解釈も成り立ちますが、そうすると、弟残して一族皆殺し、その他数々の裏稼業に関わって成り上がってきたスコルピオの野心は、喧嘩に負けたぐらいで消え去ってしまうものという事になり、たたでさえ厚みのないスコルピオのキャラクターが、ますます虚ろに。
 どちらに転んでも地獄絵図なのですが、更なる地獄に向けて少しこの点を突き詰めますと、前回の台詞からスティンガーは、“スコルピオにとっての守るものだった自分が弱かったからスコルピオが歪んでしまった”と考えているようなのですが、とするとスティンガーにとっては、守るものは弱いものであってはいけない、という事になります。
 何故なら、弱いものを守るための強さは歪んでしまうからです。
 この考え方は単独で暴走している時のものではあるのですが、その後スティンガーにとって唯一具体的に守る対象といえた小太郎が「俺は弱くなんかない。守るものだってある。助けてくれる仲間だって居る。地球人だって戦える! おまえなんかよりよっぽど強い!」と守られるだけの弱い存在である事を自ら否定している事から、物語としてはそれを肯定する流れと判断できます。
 とすると、「俺には仲間が居る!」「守るものを手に入れたから、強くなれた。昔の兄貴みたいに」という言葉から引き出されるスティンガーの守るものとは、同じ強さを持つ仲間、という事になり、それが物語においてスコルピオを打破する回答といえます。
 つまり、「強い仲間が居るから歪まない」。
 これは一見すると、互いを認め合う絆とも取れるのですが……実に奇妙な事に、弱者を切り捨てて得た強さを打ち破るのは、強いもの同士の連帯感であり、どちらもそこに弱者が存在しない、という事になってしまっています。
 では弱者はどうすればいいのか、という時に、“弱者に強さを与えていく道”が提示されていれば良かったのですが、あろう事か前回、「弱者は家帰って寝てろ。後は強い者がやりたいようにやる」と切り捨ててしまった事で、第13話で提示した今作におけるヒーロー像が早くもすっかり迷子になるという、致命傷。
 致命と見せかけて後で骨を断ちにくる意図的な狙いならまだ良いのですが……前回切り捨てた地球人達の反応が今回全く出てこなかったので、非常に不安。
 少なくとも小太郎は、弱者の立場から自らの意志で抗う力を得た人間であり(元来ラッキーもその筈だったのですが……)、歪んでしまったラッキーと信念を貫く小太郎の衝突まで拡大すれば離れ業ですけど、このままだと小太郎も強者の論理に飲み込まれそう。
 つまり今作におけるヒーローとはどこに居るのか、という話になるのですが、「自ら立ち上がり抗う意志を持たない状況に流されるだけの愚民どもは一生豚小屋で強いものに従え」と言うのが今作のヒーローという事でいいのか。それはそれで描き方次第だとは思いますが、これで終盤、何事も無かったかのように「よっしゃラッキー!」を希望の象徴に宇宙の皆が幕府の圧政に対して立ち上がるなどされたら茶番も良い所なので、覇道へ向かうなら向かうで、覚悟を決めて向かってほしい所です。
 「俺は守るべきものを捨て、強さに魅入られた……スティンガー、とどめをさしてくれ」
 ここでバラードが流れ出し、作り手の思い入れが果てしなく上滑りしながら情感たっぷりに舞い踊るTVの前と向こうの激しい温度差の中、苦しみもがくスティンガーから、アンタレスの致死毒を自らの体に移したサソリ仮面様はスコルピオの姿へ戻る。
 「死ぬのは俺だけでいい……」
 「おまえは生きて……誰かを守り続けろ。仲間と一緒にな」
 「いい仲間を持ったな」
 とにかく段取りが無いので、スコルピオが憑き物が落ちてスッキリした台詞を言う度に、半ばギャグになる大惨事。
 そしてこの兄弟の光景を、後ろで棒立ちの6人(うち4名、サソリ兄弟のドラマと全く関わりなし)、オリオン号で完全に外野の4人(回復したガルとラプター含め、今回のエピソード通して全くの役立たず)、が見つめているという実に締まらない構図。少なくともリュウ帝王組とオリオン号組に関しては、兄弟の愁嘆場に付き合っている間にモアイ基地対策を考えた方がいいと思うのですが。
 「しょせんはその程度か」
 仕方がないので、将軍様自ら、急かしに登場。
 「こいつが……ドン・アルマゲ!」
 と、ここでボスキャラとの顔合わせをするのですが、なにぶん将軍様が全身フードなので誰でもよく、顔合わせが成立していません(笑)
 将軍様はモアイ基地の起動をタコに指令し、急速に失われていく地球のプラネジウム。
 「自分が何してるか、わかってんのか!」
 ラッキーが怒りを見せる姿は、宇宙の支配者に向かって啖呵を切るという非常に重要な場面なのに、画面左端かつチャンプの後ろに一部隠れているって、どうしてそんな演出になった。
 ホログラムかと思われた将軍様は、スペース幕府パワーで巨大なアルマゲ重力光線を放つが、咄嗟に立ちはだかったスコルピオがそれを受け止めてメンバーをかばう。
 「最後に……おまえを守れて良かった」
 さんざん外道働きをアピールしていたので悪逆非道の野心家を最後まで貫いてくれる事を期待していたのですが、強引なコース変更で浄化されたスコルピオは、重力光線に飲み込まれて退場。
 悪役サイドが最後の最後でキュウレンジャーに味方するにしても、芯を貫いてそうするとの、芯を見失ってそうするのでは雲泥の差があるわけで、実に残念な散りざまとなりました。
 スコルピオが最後に残した言葉からモアイ基地の中枢を叩こうとするキュウレンジャーだが、宇宙ではオリオン号が幕府軍の攻撃を受けて身動きが取れず、何故かラッキーの指示で、司令と黄緑が助けに宇宙へ。
 そしてホ・トモ・竜骨の3つのキュータマが合体して雑にアルゴキュータマとなり、ラッキーがそれを起動すると、雑に現れるアルゴ船
 「ドン・アルマゲはこいつが地球に眠っているのを知っていたのか」
 というスティンガーの台詞まで、いつものようにキュータマが具現化したのだと思っていたのですが、地球に眠っていたなら眠っていたで、もっとそれらしく演出できなかったのか。そして地球とオリオン号が絶体絶命の状況で、懐中電灯で船内を探索し始めるという、物凄いテンポの悪さ。
 前半、サソリ兄弟に関しては個人の思い入れで見方が変わる部分が多かろうと思いますが、ここから先は純粋に、脚本・演出・構成の全てが酷く、前後編を急遽、1話のAパートとBパートに融合したような出来(だと思っても酷い)。
 一行は船内でコールドスリープカプセルを発見し、危機的状況そっちのけで笑顔を浮かべたラッキーと小太郎がそれを開放。中に入っていた毛むくじゃらの男が目を覚ますと、
 「伝説が始まる」
 と繰り返しながら剣を振り回し、どこかピントのズレた男とのやり取りが、どういうわけかコミカルに展開。
 ただでさえ、モアイ基地による地球の危機の煽り方が下手なので、緊張感も切迫感も不足しているのに、毛男が剣を振り回す度に、少ないそれが更に切り刻まれていきます。
 「そうだ、俺たちは究極の救世主! キュ」
 「なんてこった〜。究極かー。そりゃすげぇなぁ」
 同じコミカルでも、切羽詰まっている4人に対して毛男だけがズレた反応を返していくというならば状況を活用したユーモアも成立するのですが、4人まで一緒になってコケ芸を行ったりしてしまう為、ただただ全員が状況から乖離してしまい、どんどん笑いが場違いに。これまでの演出から考えるとこの辺りは杉原監督のセンスが最悪の形で出た部分かなと思うのですが、話の空気と笑いのバランスが演出サイドで取れていません。
 「おまえらが究極なら、俺様は伝説の救世主。地球生まれの、地球育ち、オオトリ・ツルギだ」
 4人に地球の危機を伝えられたツルギは、アルゴ船の力とはすなわち自分の復活であると告げ、伸び放題だった体毛と髪の毛を自ら燃やすと、半裸を披露。そして盾と剣のセットと鳳凰キュータマを取り出すと、スターチェンジにより、スペースバスター・ホウオウソルジャーへと変身する!
 ホウオウソルジャー(昔、ホウオウレンジャーが居ましたからね)は、仮面ライダーメテオ風の星の散った黒いボディに、背中は宇宙刑事風の赤いライン、インカムはデカレンジャーSWATモード風、と恐らく意図的に色々ブレンドしたと思われるデザイン。モチーフの鳳凰は台詞からも不死鳥のイメージを取り込みたいようで顔はほぼマジレッドなのですが、どこかで見たようなその盾&剣は、もしかしてウル……ううっ、頭が……。
 「刮目せよ。伝説が始まるぜ!」
 一気に不吉な暗雲が漂ってきた鳳凰ソルジャーは、テーマソングをバックに幕府の機動部隊と巨大戦艦をあっという間に単身撃破。こんな展開でなければもうちょっと楽しめたかもしれませんが、落差が激しすぎて悪い意味で呆然です。
 「なんてこった〜。俺様の活躍、伝説になっちまうぜ」
 中枢母艦を破壊された事で、地球上のモアイ基地は完全に停止し、そこに現れたタコが鳳凰に挑むも一騎打ちでざっくり両断。
 スコルピオ退場劇を半分に圧縮してまで、退場劇と全く関係なく登場した新戦士なのですが、機動部隊と巨大戦艦の撃破は確かに圧巻だったものの、オリオン号で暇な人達含めて皆がすげーすげーと感心しているのがただの雑兵を倒しているだけ、締めの相手がもはやヒエラルキー下層のタコ、とコース料理にたとえるなら〔コンビニのサラダ→ステーキ→100円の菓子パン〕みたいな並びで、どうしてそうなった。
 やたらめったら台詞で「ごいすー」「むっちゃくちゃつええな」「おまえ、すげぇな」と連呼されるのが、凄く空疎。
 あと今回のラッキー、ドラマの中心にまるで居ない事が作り手の方でも自覚あったのか、どうでもいい感嘆台詞を幾つか与えられているのですが、かえって存在が軽くなっており、大失敗。そういうのは小太郎とかに任せておけばいいと思うのです。
 「いいか、これからお前達は、伝説の目撃者になるんだ。また会おう」
 かくして伝説から甦り、地球の危機を救った男は、一方的に言い残すと、半裸のまま立ち去っていくのであった。
 おまわりさーーーん…………は、この宇宙には、居ない。
 謎の変質者の事はひとまずさておき、オリオン号ではチャンプ復活パーティが執り行われ、チャンプの前に飾られていたキャラクターぐるみは、スティンガー作であった事が判明。ここでスティンガーが、チャンプだけではなく、ガルとラプターの名前も特に出して謝ったのは今作にしてはとても良かったのですが、皆でそれを笑いにしてしまったのは残念。「もう気にしてない」とか言って乾杯した方が、感じ良くまとまったと思うのですが。
 「ホウオウソルジャー……オオトリ・ツルギ。伝説の救世主か。いったい彼に、どんな秘密が……」
 そしてどこかで上着を調達した男は、新たなキュータマを手にニヤリと笑うのであった。
 次回とりあえず、不遇めの二人が新キャラと絡むという事で少しバランスが取れてくれると良いですが、新ロボ登場回だから無理かな……(弱気)