◆第28話「天才がタンクでやってくる」◆ (監督:田崎竜太 脚本:武藤将吾)
ビルドのボルテックベラボーキックにより場外送りにされ敗北寸前と見みられたローグだったが、内海によりインプットされたラビラビのデータを受け取る事で全ての攻撃を先読みして反撃開始。エージェント紗羽は自分が西都サイドにデータを提供した事を美空と万丈に明かすが、実は既に戦兎にも難波チルドレンである事を告白していた――。
戦兎達の信用を得る為に一度はスマッシュにまでなった紗羽だったが、戦兎達との日々を過ごす内に、本当に欲しかった家族のぬくもりとかに気付いたそうです。
つまるところ紗羽も、他者に与えられたアイデンティティを脱して自分自身の意味を見出す、というテーマ性を与えられていた事になり、どうやらこれが『ビルド』主要メンバーの通しテーマとなってきそうですが、その割には劇的さに欠ける雑な見せ方で残念。
そんな紗羽だが、鍋島の家族を救うためにやむなくデータを流した事を打ち明け、会長もどんどんケチな悪役になっていくというか……どうしてそれわざわざ、会長自ら電話しますか(^^;
様々なひみつ道具を開発し、戦争を影で操る武器証人という、如何にもな悪の秘密結社となっている難波重工ですが、顔を曝している会長が自ら応援席に来たり雑務をこなしてしまう事で、正体不明の首領(本人かどうかもわからない)や幹部クラスが戦闘員に命令を下す古典的悪の秘密結社描写よりも、リアリティにおいてむしろ後退しているというのは考えさせれる部分です。
つまるところショッカー(だったりスペクターだったりギャラクターだったり)的な悪の秘密結社そのものが寓意的存在であり、それを私企業の形でまんま描いてしまうと、失った寓意性の穴を埋める為には相応のドラマやリアリティを持ち込まなくてはいけなくなるのですが、そこに手が回っていないというのが、今作2クール目全般の難点。
「俺は全てにおいて、未熟だった」
正義を超えるデータの力で一方的にビルドを攻撃しながら、内政後回しにして軍備増強しようぜ、とパパに献策するも撥ね付けられた過去を思い返すヒゲ。
「俺は野心だけを頼りに生きてきた。だが、一人じゃ何もできないクズだった」
自分の弱さを認めて一皮剥けた男の独白のようで、その実態は失われた絆を求めて魂の荒野を流離うラブ・チェイサーという、今回も、葛城への愛が重い。
「……だから俺は。――自尊心の高い己を、虚栄心の強い己を」
――変・身
「全てかなぐり捨てて生まれ変わった。今度こそ俺は、この国を動かせる力を自分自身の手で掴み取ってみせる」
前回の舞台風スポットライト演出のアレンジで、ビルドと戦うローグの背後に回想シーンと入り交じりながら幻徳の姿が浮かんで語るのは、『仮面ライダー555』のオルフェノク半裸を思い出す演出。特に核となる「変身」の所で階段に映像が重なるのは『555』第8話を思い出しましたが、これは同話を演出した田崎監督が狙ってやったか?
「おまえの言う愛と平和など幻にすぎない。理想で、国は作れない事を、俺の強さをもって教えてやる」
ローグはビルドにワニ挟みキックを炸裂させ、ヒゲ元長官が求めているのは“力による支配”ではなく、“理想論の無力さを証明する事”であり、その根幹は、国を守る為に父親に自分の正しさを証明したい、というものである歪み方は面白いところです。
一方、先に紗羽から頼まれて密かに動いていた猿渡が鍋島一家の救出に成功し、
「帰ったらみーたんの握手券くれよ」
と、この猿渡は格好良かったです。
そして紗羽、全身全霊を込めたOKサインにより(タイミング的にこちらが先だったのか(笑))、どうやらこれまで時間稼ぎの為に黙って殴られていたらしいビルドは、もう一つの新フォーム、タンタンモードを発動。
……て、夜の山で焚き火を囲んでいる勢いで、「俺って最高でしょ?! セクシーでしょ?! ワイルドでしょーーーー?!」と自分語りしていたヒゲ元長官の立場はーーーーーーーー?!
ヒーロー側が敢えて守りに徹しながら後に逆転、という状況は古今に数ありますが、ビルド、なんという鬼畜の所業。
「勝利の法則は――決まった」
ラビラビのうさ耳に対して履帯をマフラー風味でなびかせるタンタンは、キャタピラシールドでローグの攻撃を受け止めると至近距離からタンク砲で吹っ飛ばし、渾身の自分語り → 改心の必殺技、から僅か一分で、2話続けて新フォームの踏み台にされるヒゲ、それでこそヒゲです、最高です!!
「まさか、こんな強さが」
「理想を掲げて、何が悪い! ラブ&ピースが、この現実でどれだけ弱く脆い言葉かなんてわかってる。――それでも謳うんだ。愛と平和は、俺がもたらすものじゃない。一人一人がその想いを胸に生きていける世界を作る。その為に俺は戦う!」
ヒゲの語る“理想が無力だと認める世界”ではなく、それでも“理想を胸に生きていける世界”を作る、とアンチテーゼを突きつけ、戦兎のヒーロー宣言として台詞そのものは格好良いのですが、戦兎が4話ぐらい前からこれといった劇的なきっかけ無しに言い出した「ラブ&ピース」に28話分の物語が乗っていない為に説得力が弱いという、典型的な残念展開。
スタッフ的には特にこの1クールの紆余曲折を経て、戦兎が折に触れ語ってきた“理想のヒーロー”の信念が集約・言語化されたのが「ラブ&ピース」という意図なのかもですが、個人的にはこの1クール、同じ積み木を組んでは崩し組んでは崩しを繰り返しているようにしか見えなかったので、とうとう作品の背骨を一本貫く巨大な塔が建ちました! と見せられても凄く困惑。
…………もしかして、劇場版で持ち込まれた要素だったりするのでしょうか、「ラブ&ピース」。そこから仕掛けていたとすれば、構成としてはなんとなく納得はできるのですが。
どうにも“描きたいヒーロー”と“描いてきた物語”がズレているというか、“描きたい物語”と“描いてきたヒーロー”がズレているというか、「科学という権威」に依存していた節がある戦兎が、科学を悪用する世界に対して科学の正義を突きつける、というのならまだわかるのですが、「愛と平和をそれでも謳う」というのがどこから出てきたのか、1クール目と2クール目のテーゼが空中分解して右足と左足が逆を向いている感じ。
どちらかというと戦兎さん、科学の力で全人類から闘争本能を奪えば戦争は起こらない!的な人という認識だったのですが、戦兎自身の「科学という神に対する疑念(或いは依存症からの回復)」という、極めて大事なピースが抜け落ちたまま話が進んでしまっている気がします。
ヤバそうな飛び道具ごった煮キャノンをなんとかダイヤモンドシールドで防ぐローグだったが、自己啓発日記を朗読されながらの連続攻撃に耐え抜いた反動で鬼畜モードのビルドは、続けてフルバトンをセット。自らタンクに変形するとローグの周囲をグルグルと回りながら砲撃でいたぶり、弱った所にトドメの一撃を撃ち込んで大勝利。
ヒゲ元司令はまたもや、屈辱の階段落ちを披露するのだった!
かくして3vs3の代表戦は東都の勝利で決着し、傷だらけで帰還した猿渡は万丈との友好度が上がり、紗羽は難波会長へ訣別を宣言。西都首相は敗北のショックで壁に向かって話しかけ始め、やってきたヒゲパパは倒れ伏す幻徳の横を無言で通り過ぎると戦兎の勝利をねぎらう。
無情な態度からもはや完全に幻徳と縁を切ったのかと思われた首相だったが……振り返ると倒れたままの息子へと手を伸ばす。
「もういいだろう。帰ってこい東都に」
この期に及んで家出扱い。
……パパ首相、父親としてはまず息子に声をかけるべきであったし、東都首相としてはヒゲを拘束するべきであったし、絶妙に最悪の手順を踏んでいて、息子を前にすると判断力が狂いまくりなのですが(今作この辺りの作りがザルなので、狙ってやっていない可能性もあるのが若干怖いですが)、ヒゲ元長官の歪むべくして歪んだのかと思わされる環境には一抹の悲哀も漂います。
立ち上がってパパと向き合うも、無言で手を離すと俯き加減で立ち去るヒゲも、坊ちゃん気質が抜けない所を絶妙に見せつけて面白いのですが、息子への適当すぎる扱いの数々を見ていると氷室首相、支持率98%で当選とかしていそうで、真のディストピアは東都なのでは。
氷室一族による東都政府の私物化が懸念されるのはさておき、美空は紗羽を一発ひっぱたいてけじめをつけ、戦争の終わりを噛みしめる5人だが、猿渡の「鍋島の家族は安全な場所に移した」の凄まじい説得力の無さよ。……まあエージェントが手配済みなのかもしれませんが、国家規模の悪を敵に回すという状況をHDリマスター化しようとしている一方で、それに対する各種リアクション8bitのままなのが、今作の重ねて困ったところです。そしてそれを問答無用で飛び越えていく寓話性を、自分たちで破壊してしまったというのが、割と始末に負えません。
一方、失意と激昂のあまり難波会長にも罵声を浴びせる西都首相だったが、会長は「代表戦の約束とか反故にしちゃえばいーじゃん」と言い出し……予想通りの展開ではあるのですが、そもそも戦争の決着をいきなり殴り合いで付けよう、という代表戦そのものに無茶があっただけに(しかも毎回どういうわけか、戦況有利な方が不利な条件を受け入れる)、代表戦そのものを茶番にしてしまえ、と劇中人物に言わせてしまう事で、その欺瞞がメタ的に強調されてしまうというのは大変よろしくなかったと思います。
いやいや馬鹿馬鹿しく見えても一応これ国際条約やねん、と会長の提案を突っぱねた西都首相は見限られ、招き入れられたスタークによってさくっと暗殺されると、スタークの特殊能力により、難波会長が西都首相へと成り代わる。
「ははははははは、難波重工が、本気の戦争を教えてやる」
そして難波重工西都研究所で起動する量産型ロボ軍団……でつづき、いやもう次々と侵略相手が代わるこの展開さすがにうんざりなのですが、と思っていたら次回、スタークがスキップしながら急展開?!
とりあえず、難波会長が西都首相になってしまうと難波重工が大変困った事になると思うのですが、そんな重要事項にスターク噛ませて大丈夫なのか?!(絶対、大丈夫じゃない)
そして、悪玉サイドで鍵を握る怜悧な頭脳派ポジションだった筈が、今回ただの背景で驚いている人に転落してしまった内海に、捲土重来の日は来るのか?!
とりあえず、新展開で空気が変わってくれる事に期待。