◆第33話「最終兵器エボル」◆ (監督:諸田敏 脚本:武藤将吾)
冒頭が新規ナレーションになってからの戦兎の「国内で戦争が勃発した」という言い回しが気になって仕方がないのですが、東都・西都・北都は別の国家だし、「国内で」を通すなら「内乱」だし、メタな部分まで戦兎が変な言葉遊びを弄している感で、いったいどうして。
クローズマグマの大活躍により、ひとまずパンドラボックスを守った戦兎達だが東都首相が誘拐されてしまい、毎度お馴染みマスターからの電話により、首相とエボルドライバーの交換を要求される事に。
エボルドライバー――それはビルドドライバーの原型であり、葛城巧がどこかに隠してしまった、究極のドライバー。
戦兎達は葛城忍の研究データの中にエボルドライバーの設計図を発見し、火星を滅ぼしたエボルトが、10年前、火星に降り立った宇宙飛行士・石動惣一の体を乗っ取っていた、という事実を再確認。
今作が部分部分でやたら駆け足になるのはどうも脚本の癖のようですが、マスターの正体という物語の核心に関わる真相が、ひどく荒っぽく明かされてしまったのは残念。
恐らく、ホラーサスペンスにおける“古ぼけた日記”のイメージなのでしょうが、その真相の鍵となる記録の入手に主人公が関わっていないのもマイナスですし、紗羽の存在理由を出したいのはわかりますが、隠している意味が無くなったのでオープンにします、という見せ方はあまりに粗雑で、視聴者の大半が推測済みの要素であるからこそ敢えて、物語としてはもっと劇的に見せて欲しかった部分。
「もうすぐ、おまえの体ともおさらばだ。長かったなぁ。お陰で、俺の考えも随分変わったよ」
SF作家フィリップ・Kディックの諸作を思い起こす存在であったエボルトは宿主である石動惣一に語りかけ……あれ、この人、もしかして、地球に来てから約10年、ずっと、竹藪の中から万丈の成長を見守っていたの?!
「いいぞ、いいぞばんじょぉぉぉっ、闇の力が高まってきたじゃないか。フフフ、そろそろ、お父さん、万丈の為に可愛い彼女を用意してあげよーかなーーー。(待て、美空はやらんぞ!)勿論、美空はやらんぞ! 年上の白衣美人もいい……王道の薄幸系文学少女もいい……或いは怪我をして落ち込んでいるスポーツ少女とかも好みかばんじょぉぉぉぉぉ」
その頃、難波チルドレンの宿命なのか急速に小物ウィルスが発症、症状が深刻化する内海が、取引成立後にパパを殺そうとしているのを知ったヒゲは、密かにパパを逃がそうとする。
「あんたのやり方じゃ国は一つにできない。だから俺はファウストを作って、この国を一つにしようとした。国境などない、誰もが笑って暮らせる国にする為に」
「……幻徳」
「だが欲望が俺を歪めた。もう後戻りはできない。だからあんたには……」
実はヒゲはネビュラガスを浴びて仮面ライダーになる事に成功した時点でパンドラ光線の影響を脱しており、父親を統一国家の首相とするべく、汚れ役になろうとしていた……という事だそうですが、もともとかなり曖昧な「パンドラ光線を浴びたら闘争本能が肥大化する!」から唐突に「仮面ライダーになると光線の影響が消える!」というのが飛躍しすぎですし、結局、パンドラ光線の影響が抜けたら幻徳はいい人でしたというのは、ここまで描かれてきた幻徳の情念や屈折の大半が投げ捨てられてしまって非常に残念。
勿論、あくまで傾向の強化と見れば、もともと幻徳が父に対して抱いていた劣等感やもどかしさが、手段を選ばない独善性となって発現したとは見えますが、そこに至った屈託を抱えながらなり乗り越えたりしながら何を「選ぶ」のかが見たいのに、「仮面ライダーになった時点で片付きました」と安易な抜け道を用意してしまったのは、がっかり。
まあそこに、幻徳が仮面ライダーに「変身」する意味を乗せたとはいえますが、変身以前の幻徳は、光線の影響を脱する為に仮面ライダーになろうとしていたわけではないので、手段と目的と結果が食い違いすぎて劇的になってくれません。
スタークに回り込まれたヒゲは父の救出に失敗し、翌日……分解してボトル浄化装置の動力源に使われていたエボルドライバーを手にした戦兎と龍我は、人質交換の取引現場へ。スタークに取引の主導権を握られているかに思われた2人だったが、背後から強襲したローグが首相を助け出し、戦兎達に合流。なんとヒゲは、内海から手に入れた自爆スイッチを密かに戦兎へ横流しする事で、自爆装置の信号書き換えに成功していたのだった。
戦兎の《天才》スキルの活かし方としては悪くないのはともかく、その為に小物を通り越してアホの子になっていく内海、いくら落ちぶれた用心棒まがいとはいえ誰もヒゲの動向を監視していない西都陣営、とザルの穴から水がこぼれるどころか麺素通しの『ビルド』スタイルですが、死んだと思った男が生きていた、までやっておきながら、内海のキャラクターの一貫性の無さは目を覆うレベル。
本物の内海は現在研究室で忙しく働いていて、前回と今回登場した内海は、スタークが顔を変えたその辺りのモブ難波社員Aとかなのでは。
首相にエボルドライバーを託して外へ逃がそうとする戦兎達だが、スタークも伏兵を忍ばせており、背後の通路を塞がれてしまう。
「そう巧くはいきません」
スタークは楽しげに指をくるくると回し、ドライバーを手にスマッシュに囲まれる首相……あ、これ、首相がエボルドライバーで変身する展開だ……!
と拳を握ったのですが、てっきり今回休みかと思っていたグリス(前回、誰にも顧みられる事なく、ずっとスーパー歯車ンと戦っていました!)が駆けつけ、首相は外へ。
「君たちに出来て、私に出来ない筈がない! 東都国民よ、私に力を! へんんんしぃぃぃん!!」
「首相?!」
「馬鹿な!」
「親父……!」
「(ずごごごごごご)……天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。国を守れと我を呼ぶ。――我こそは王、仮面ライダートウト」
狭い倉庫の中でビルド、クローズM、ローグ、グリス、の4ライダーと、スターク率いる西都の戦闘部隊が大乱戦となり、まあこの間にごく普通に倉庫の外に車を止めていた美空達が捕まるよね……と思ったら、スターク、親バカを発動して無視。今回もクローズマグマに殴り倒されたスタークはコブラ変身で首相を追いかけ、フェニックスで追いかけたローグと直接激突。
散々玩具にしてくれた恨みを込めたローグ会心のワニバサミキックの直撃を受けたスタークは変身が解け、呻く父の姿にドライバー抱えたまま思わずふらふら近づいてしまった美空、を、ドラム缶の影にずっと潜んでいた内海が人質に取る!
…………えーと内海、君ずっと、首相逃走用に倉庫の外で待機していた美空と紗羽を無視して、あるかないかのチャンスに賭けて、そこでうずくまっていたのか(笑) ……ま、まあ、劇中で見せている身体能力を考えると、内海よりもエージェントSの方が強そうではあるのですが、もう単純に、外部の監視要員として残っていたら(あ……ヤバい、俺、あいつに見つかったら、シめられる)と思って必死に隠れていたのか内海。最初見たときは愕然としたけど、書いている内に段々、これが真実な気がしてきたぞ内海!
「遂に……遂に戻ってきたぁぁぁぁぁ!!」
内海が美空から奪い取ったエボルドライバーを手にしたマスターは、コブラとライダーシステムをエボリューションして、究極のドライバーでレッツら混ぜ混ぜ。宇宙コマとか六分儀とか星座表とか、宇宙や天文関係のモチーフを体中に散りばめた、仮面ライダーエボル・フェイズ1が、遂に誕生してしまう。
エボルは高速移動からの連続攻撃で完膚なきまでにローグを屠り、そのずば抜けた力を見せつけると、トドメの絆イコール超銀河フィニッシュを放つが、その直撃を受けたのは息子をかばった東都首相。
「げんとく…………罪を償って……この国をもう一度、立て直すんだ。……おまえなら出来る」
「親父……」
「頼んだぞ、莫迦息子」
正直、東都首相が息子に罪を償わせる意識があった事にホッとしたところで、つづく。
作中随一の人格者ポジションだった筈が、描写意図は変わらない筈なのに『ビルド』ザルに飲み込まれて為政者というより東都を代表するゆるキャラになりつつあった首相が、遂にリタイア。1クールぐらい前のリタイアだったらまだ、惜しい人を亡くしました……という気分になれたかもしれませんが、そう口にするには第30話があまりに大惨事。
氷室父子の持っているドラマ性は割と好きだったのに、幻徳が抜け道からワープしてしまったのも残念でしたし、色々、物足りず。
エボルドライバーの、ジングルが《歓喜の歌》アレンジなのと、ドライバー発動音声が「エボリューション」という言葉遊びは好きです。あと、無駄な笑い声。