◆第36話「エボルトは星を狩る」◆ (監督:田崎竜太 脚本:武藤将吾)
見所は、西都首相のスピーチ撮影用のドローンを操縦する内海。
出番のない歯車兄弟と、どちらがマシなのか大変悩ましいところです。
前回ラストでパンドラボックスが開かれた事により冒頭ナレーションなどOPが一部変更され、不機嫌な顔でぴょんぴょんしているヒゲの追加に期待したのですが、居なかった。
「エボルトリガー。パンドラボックスの、真の力だ」
万丈と融合したエボルはパンドラタワーを完成させ、全てのフルボトルを空にして開いたボックスの力が凝縮されたエボルトリガーを手にするが、起動に失敗。そこに例の如くびゅいーんと現れたベルナージュが戦兎とボックスを拾って撤収し、ひとまず状況を検討する仮面ライダー達。
「結局、パンドラボックスのエネルギーとはなんだったんだ。……パンドラタワーは何を意味する」
「破滅の塔……。我々の星はあの塔が出来て滅びた。塔の上空に出来た奇妙な空間に、あらゆる物が吸い込まれていった」
結局、戦兎は全くパンドラボックスのエネルギーについて真っ当に考察する事もなければ解答に辿り着く事もなかったので、火星の王女様が全て解説してくれました!
「なあ……そもそもエボルトってなにもんなんだ?」
「この星ではまだ確認されていない惑星の生命体だ。エボルトは、我々の星をたった一体で滅ぼした」
最後に残ったベルナージュは、捨て身の戦いでエボルドライバーを壊して肉体と魂を分離させるも、エボルトは自らのエネルギーをパンドラボックスに閉じ込めて復活の時を待っていたのだった。
「このパンドラボックスがエボルトのものだったのか……」
「エボルトを完全体にしてはならない」
ベルナージュは火星パワーでボトルの中身を再充填し、それによる消耗でふらついている姿(肉体は美空)を一切気遣う事なく、ダッシュでボトルの再生を確認する戦兎、本日も順調に人でなしレベルを上昇させる(笑)
倫理より好奇心、という戦兎のマッドぶりは序盤から強調されているとはいえるのですが、「いっそ突き抜けたマッドキャラ」「口だけでなく行動でも細かい配慮を見せるヒーロー」「ヒーローの美学にひたすら酔ったナルシスト」のどれかで一点突破してくれれば、個人的な好感度はもっと上がった気がしてなりません。
恐らく、葛城巧と桐生戦兎の関係をどう設定するのか、という点の揺らぎがあったのでしょうが、多面性を描くというよりも、どれもこれも中途半端になってしまった結果、「自分のマッドぶりに対して表面上のレトリックで自己弁護を繰り返しながらも、自責の念に振り回され続けているヒーロー」になっているのが、中盤以降の桐生戦兎というキャラクターにどうもノれない所です。
究極的には、「自責の念」を延々と引きずっているというのは、ヒーローの動機付けとしてはあまり面白くならない気がして、もっと早い内に“その先”へ踏み出す姿を描いた方が良かったのではないかな、と。
10年前にパンドラボックスが完全に解放されなかったのは、「その星にまつわるエレメントをボトルに吸収する事で開かれる」ボックスの為に、石動惣一の記憶からエボルトが精製していた60本のボトルの一部を、たまたま保管庫に迷い込んだ美空に憑依したベルナージュが消滅させていた為だったと判明。
だが妨害工作の途中で力尽きたベルナージュは長い眠りについてしまい、美空の意識不明の真相、美空がボトルを浄化できる理由(実は「復元」であった)、北と西のボトルはなぜ充填されていたのか、の謎がまとめて解明され、ハッキリしたのは美空、完全に巻き込まれた被害者。
……そしてベストマッチとはつまり、マスター的に相性のいい組み合わせ、だった?
その頃、「なぜ勝手にパンドラボックスを開けた?!」と内海が激昂し、難波会長の姿がまた西都首相になっている……と思ったら、エボルトは平然と、西都首相官邸のソファにふんぞり返っていた(笑)
「全ては、難波重工の為に」
エボルトのこの、力を取り戻しても色々相変わらずな所は素敵です(笑)
戦兎は父・忍の遺したデータを元にパンドラボックスを加工し、ライダーシステムの限界を超える装備を作成。本来なら心ならずもエボルトへ協力していた父の遺したデータが息子に逆転の鍵を与える、というのは父と子のドラマとして盛り上げも掘り下げも出来そうなのに、この期に及んで葛城巧人格の所在が曖昧な事もあって、例の如くの新アイテム開発ともども非常に大味になっていて、大変残念。
一方猿渡が、戦兎達の元を去ろうとしたヒゲを呼び止め、ケジメとして戦いを挑む、という展開は良かったです。
「場数は俺の方が踏んでるぅ! 力の差はもうねぇ筈だぁ!!」
ハードスマッシュ要員として背景で戦うのが板に付いてきたグリスだが、根性見せてローグキックを受け止め、投げ飛ばすという力技を披露。
「俺は、故郷を想う気持ちでハザードレベルを上げる! 今のおまえはどうだ? それがあんのか?」
……相変わらずハザードレベルを上げる事に躊躇の無い猿渡ですが、猿渡もヒゲも、ハザードレベル5.0まで到達すると、エボルトと融合できるのでしょうか、バロムクロスできるのでしょうか、数値化された友情で、コプーは正義!
「俺たちの仲間になれ」
グリスは膝をついたローグにロボットキックを直撃させて戦いに勝利し、変身を解いた猿渡のアップからカメラを横に動かすとその背後に3馬鹿の墓、というのは好演出。
「これからも赤羽を殺ったことは許せねぇだろう。……けどな…………あいつらが言うんだ。そんなことにこだわって、カシラちっちぇなぁ、って。……今すぐじゃなくてもいい。俺たちは待ってる」
猿渡が小なりとはいえ人を率いてきた人物として器の大きさを見せ、失ったものを理由に過去に囚われるのではなく、失ったものを理由に前に進む事を決める姿が、もしかしたら幻徳の呪いを解くのかもしれない、というのは格好良かったです。
その一方で、戦兎と美空のメロドラマは(何度目だ……)という感想が先に立ってしまい、実際にカウントするとそんなでもないかもですが、もはや戦兎のヒーロー性を担保する為に美空が泣きの芝居をするという安易な手法になってしまっており、今作の女性キャラクターの扱い方がどうにも気に入らない、というのが正直。
ブラッド万丈とスマッシュ部隊が街を襲撃し、立ちはだかるビルドとグリス。フルバトン砲に詰めたボトルによって弾丸の効果が変わるというギミックを用い、「もうフェイズ1を攻略したか……」と如何にも知略で戦っています! みたいに急に見せてくるのですが、これ自体は悪い事ではないものの、本来これを推し進めていくべきだった2クール目のハザードトリガーがとことん残念。
ここまで、物語が進めば進むほど、本当にあれは致命的だった……となるギミックも、なかなか珍しい気がしてきます(笑)
「人間の欲には際限が無い……そして愚かだ」
「そんな事はない! 不毛な争いは、俺たちが終わらせる」
結局、力勝負でフェイズ2に押し負けたビルドは新アイテムを握りしめるが、美空の言葉が脳裏をよぎる。
――なんでもっと自分を大事にしてくれないの?
(……ごめんな。……みんなを守る事が、平和を取り戻す事が――俺にとって何より大事なんだ)
パンドラブロックをベルトにセットしてレッツらまぜまぜする事により、これまで以上の力を得たブーストタンタンはパンチ一発でエボルドラゴンを叩き伏せる力を発揮。
「ハザードレベル6ぅ……! 遂に、人間の限界を超えたか」
師匠、感無量。
「いいぞ戦兎……おまえも、愚かな人間の、一人だったというわけだ」
そして師匠は、エボルトリガーの力を使用可能なボディを入手する為、究極の仮面ライダーを作り出させるのが、プロジェクトビルドの真の目的であったと明かす。
「もう遅い……全ては計画通りだ」
ここ最近、10年機会を窺って暖めていた台詞が次々と言えて、師匠は本当に嬉しいです!
「エボルトの拳がビルドの中に!」
そこに駆けつけたグリスが見たままを説明したらかえってよくわからない台詞となり、この緊迫した状況で面白い事に(笑)
「人間の限界を超えたビルドをいただいて、俺は、完全体になる」
究極にして最悪の仮面ライダーになるべく万丈と分離するエボルだが……
「……へへっ、この時を待っていたよ」
不敵に笑うビルドはハンドルを思い切りよくグルグル回し続け、ブロックの力を引き出す事で急速にハザードレベルを上昇させていく!
「馬鹿な……どんどん上がっていく?!」
師匠、「全ては計画通り」からの鮮やかなフラグ進行にそこはかとなく満足そうで、愛弟子の成長に感動した!
敢えてエボルトの思惑に乗っかったビルドは諸共に自爆を宣言し、雑に新装備を作る→まんまとスタークに利用されました、というパターンから戦兎が脱皮する、というのは良かったのですが、そのきっかけが父さんのデータにおまえの計画は全部書いてあったぴょん、というのが別の意味で雑極まりなく、それなら父の遺したデータの存在をもっと重視して描けば、この反撃により劇的に繋がったのに、どうしてそこでレンジでチンしてしまうのか。しかも分数足りてないのにまあいいかと出してしまうのか。
「これで終わりだ、エボルトぉ!!」
「人間如きが俺を欺くだと?! ふざけるなぁぁぁ!!」
パンドラブロックが限界に達すると爆発が起こり、その場に残って地面に倒れたのは、白髪になった戦兎。正気に戻って目を覚ました万丈(今、どういう状態なんだ……?)は戦兎を揺り起こすが……
「せっかくの計画が台無しだぁ」
さらりと起きてサムズアップした戦兎の声は、金尾哲夫に変わっていた!(笑)
これで3人目の憑依、役柄でいうとブラッドスターク、エボルトも加わって5役目となり、なんという金尾哲夫フィスティバル。
色々と不満は多い今作ですが、金尾哲夫さんをひたすら使い倒してくれている事に関しては、大変高く評価します(笑)
ブラッド戦兎は、戦兎の体内からEラビットボトルを取り出す(精製する?)と、それを用いてフェーズ3:エボルラビットへと変身する! でつづく。
フルボトル周りはそれなりに綺麗に繋がったと思いますし、プロジェクトビルド――すなわち「仮面ライダー」とは何か、という意味づけも物語の中にしっかり取り込んできたのですが、怒濤の種明かしを今作における二大超越キャラであるエボルトとベルナージュが全て担当してしまうのに加えて、「だから戦争編の意味があったんです!」とそこはかとなくメタな言い訳が混じっているようにも感じてしまい、衝撃というより、漫然と離れたところから紙芝居を見ているような気持ちになってしまったのは正直。
もう少し主体的に、戦兎が謎解きに加わっていればまた印象が変わったと思うのですが、「創造」を掲げる作品の主人公が「想像」に欠ける、というのは一体どういう皮肉なのか。