◆第38話「マッドな世界」◆ (監督:山口恭平 脚本:武藤将吾)
解放された戦兎に甦る葛城巧の記憶、そして白黒の完全体と化す仮面ライダーエボル!
「完全体の俺に敵は居ない」
エボルは再び放たれたトリプルライダーキックを片手ではじき返し、ライダー達はローグのミスト退場で一時撤収……仲間にしていて良かったローグ!
悪役の瞬間退場スキルを、善玉サイドに一応鞍替えした後も保持しているというのは割と珍しい例の気もしますが、ヒゲが本当に改心したのか、地下室でしっかりと尋問を行った方がいいかもしれません。
おまえが本当に愛と平和に目覚めたならば、みーたんの生年月日、血液型、靴のサイズ、好きな食べ物、お気に入りのぬいぐるみの名前、この程度の初級編は即答出来る筈だろう?! どうなんだヒゲぇ!!
「これで俺は更なる進化を遂げる。――最終章の始まりだ」
ネットアイドルみーたんの全てをプロデュースした男はエボルトリガーをパンドラボックスに収め、生み出された黒いパネルにフルボトルを填めていくと、石動惣一に擬態して難波会長と接触。
本人は未だ意識不明状態というマスターですが、このまま眠りっぱなしは勿体なかったので、スターク状態のいやらしい演技で復活してくれたのは嬉しい。……ただまあ、憑依せずに擬態できるなら、エボルの何でもあり度はまた上がってしまいますが。
その頃、葛城巧はイケメンとなった自分の顔の変化を数式で解明しようとしていた
「心外だな。悪魔呼ばわりされるなんて」
……あれ、なんか、葛城の半端に芝居がかった台詞回しと仕草が戦兎(佐藤太郎)という外装を手に入れる事で、妙に格好いい桐生戦兎が爆誕してしまったぞ(笑)
(エボルトを倒す……じゃなきゃ何のためのライダーシステムだ)
葛城巧がライダーシステムを開発したのは、父の遺言により知ったエボルトを倒す力を生み出す為であり、その葛城の研究を軍事利用しようとしたのが、氷室幻徳と難波会長。戦争をもくろむ幻徳の思惑に気付きつつ、エボルトを倒すライダーシステム完成の為に敢えて“悪魔の科学者”の汚名をかぶった葛城は、ファウストの一員として手段を選ばない人体実験を繰り返していたのだった……。
葛城巧の人格が復活し、ライダーシステム完成の為に非道を働いていたのは全てエボルトを倒す為、それをヒゲが更に脱線させたのはパンドラ光線を浴びていた為、と要するにパンドラボックスが地球に持ち込まれた時点で地球の運命は詰み寸前であり、それを覆す為には仕方のない犠牲だったのだ、と追い詰められた末の葛城巧なりのヒロイズムが明らかになった上で、誰もそれを否定しないまま話が進んでいくのが大変不安なのですが、葛城にフられた後の幻徳の悲嘆の表情は素晴らしく面白かったです。
で、突き詰めると火星に探査機飛ばしたり、ボックス拾って帰ってきたのが悪い、という事になってしまうわけですが、そこを否定的に扱うのではなく、どう未来への希望に置き換えるのか、というのは期待したい部分。
難波会長を傀儡にしようとしたエボルはとうとうスポンサーと決裂。空間の構造を書き換えるという出鱈目な能力を発揮すると、仁王立ちのままで片手から放った衝撃波の一撃でハードスマッシュ軍団を木っ葉微塵に消し飛ばしてみせる。
「哀れな奴らだ。せっかく豊かな感情を持ち合わせた、人間に生まれたのに」
難波チルドレンとしての忠誠を貫く歯車兄弟も軽くあしらわれ、クローズ、ローグ、ライダーシステムに肉体がついていけないラビラビも参戦するが、毎度お馴染み歯車システムの都合により、五分刈り弟、真っ先に消滅。
「全ては、難波重工の為に!」
弟の想いを受け取ってパーフェクト化した歯車兄も当然のごとく叩きのめされ、割って入ったマグマに助けられるが、最後はそのマグマをカバーリングし、エボルの必殺キックで大爆発。
「おい! おい! なんで助けた?!」
「誰かの為に戦うのも……悪くない。弟にも……教えてあげよう……」
以前に卑怯な手段でクローズに勝利した歯車兄が、そんな自分でも守ろうとする万丈の姿に胸打たれて最後の最後に新しい生き方を見出す、という形で因縁を消化するのですが、今作のこの、キラキラしながら末期の台詞をねっとりと語って消滅する、というキャラの殺し方が本当に苦手。
「また……人の命が……。なんで、こんな簡単に……」
「これが、お前が作ったライダーシステムの末路だ。さて……そろそろ締めに入ろうか」
難波会長の部屋へワープしたエボルは、必死に命乞いする難波会長に迫り、その体を抱きしめる。
「命乞いか……人間てのは、どこまでも醜いな。最高だよ。俺は、おまえのような人間が、大好きだ」
からのハグ抹殺で、難波会長、とうとうリタイア。浜田晃さんの重厚な演技が物語に奥行きを与えつつ、結局、今作の例に漏れず中盤以降ずっと道化だったのは残念でしたが、最後にキラキラしなくて良かったです。
「さあ答を出せ。難波の復讐を果たすか、俺に忠誠を誓うか」
会長の杖を手に戻ってきたエボルは、以前にヘッドハントしていた内海に杖を放り投げ、それを手に考え込む内海、というのは象徴的な映像で面白い。
「ははは、ははは……はーははは! ならば! 答は一つさ!」
会長の為に朝6時からどら焼き屋の前に並んだり、会長の為に名古屋まで往復して大福を買ったり、会長の為にデパ地下の有名和菓子店の行列に変装して三度並んだり……じっと考え込んでいた内海は突如として高笑いを始めると、杖を膝でへし折り、眼鏡の奥の瞳を見開く。
「あなたに、忠誠を、誓おぉぉ!!」
「ふふふはははははははは、だから人間は面白い」
エボルは台座を叩いて笑い転げ、新しい玩具の入手にご満悦。
「この星を滅ぼすのはやめたぁ! ふはははははは、あははは、うーつみ」
そしてエボルからもう一つのエボルドライバーを受け取った内海は、コウモリと発動機ボトルをエボルマッチして、白いローグへと変身する!
「さあ、存分に戦え。仮面ライダー――マッドローグ!」
「くくははは、ふははははは、ははははは、あーはっはははは!!」
次回予告からはけっこう期待していたのですが、完全に引っ張りすぎだった難波サイド関係者の大掃除、知的二枚目キャラがこういう壊れ方するとみんな喜ぶでしょ?的なネタ意識にしか見えない内海の豹変と、ノリが合わないところ多々で大変ガックリ。
そもそも内海なんてここまで完全に、話に都合の良いように良いように動かされていただけのキャラなので、それこそ知的キャラとしても二枚目キャラとしても成立しておらず、難波会長の小間使いを卒業するにあたって生じる葛藤のかの字どころかくさかんむりすら見えてこないという茫漠たる虚無。初期の仇敵が形を変えて登場、というシチュエーション自体はそれなりに盛り上がるのですが、中身が内海では完全に役者不足です。
もはや内海が重要な立ち位置に居る、という状況自体が面白くないので、この後、仮に内海がエボルの玩具を卒業して思わぬ痛撃を食らわせる、みたいな一ひねりの展開になったとしても、面白く感じないだろうなぁ……というのが見えてしまうのも、辛い。
あと青羽はキーポイントとして例外としても、黄にしろ赤にしろ今回の歯車兄弟にしろ、劇中での仕事がなくなって誰の目にも用済みになったので始末するという退場のさせ方が、深刻に単調。
うーん……残念、すごく残念。