- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/03/05
- メディア: 単行本
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という、全編、主人公の書いた手紙のみで構成された、一風変わった長編小説。
『夜は短し歩けよ乙女』は楽しんだものの『太陽の塔』は途中で挫折した森見登美彦に再挑戦。
主人公は今回も、女性と縁薄くも、女性に憧れを抱きつつ、そんな自分を叱咤しつつも妄想を膨らませがちな、うらぶれた青春を送っている(と思っている)大学生。
躁と鬱が交錯し、奇天烈な言動と思考が目白押し。フレーズや言い回しの巧さは抜群であるものの、なんというか、濃すぎて読んでて酸欠気味になる事があるのですが(それで『太陽の塔』は力尽きた)、今作、手紙という形式を取っている事によってか、その濃度がやや薄まっておりまして、最後まで読めました。
基本的に相手からの返信は一切明らかにされず、主人公が書いた手紙のみで構成されるのですが、複数の人物への手紙が積み重なっていく事で幾つかの出来事の輪郭や人間関係が明確となり、それが最終盤で見事に一つの絵図を描き出すという構造はお見事。
主人公の、もの悲しく、時にキレ気味な手紙なるものを文章の主体にしながら、きっちりと小説的なクライマックスが存在する辺りは、唸らされました。
一方で、あくまでも主人公サイドからの手紙のみしか書かれない為に、「大丈夫だろうか、これ全て、主人公の妄想だったらどうしよう」みたいな恐怖感(?)も付きまとったりはするのですが、そこまでも狙いなのか、或いは、この作品に関してはもっと素直に読むべきなのか。
正直、『夜は短し歩けよ乙女』なんかも、このカップルは大丈夫だろうか、とか思ったりしたのですが、あまりそこまで考えずに、ファンタジーとして幸いな結末を読み込むべきなのかな、とは思いつつ、どこまで素直に受け入れて良いものやら、ちょっと悩みます(笑)
もっとも、ストーリーどうこう抜きにして、フレーズの抜群の巧さだけでも充分に楽しめる作品。
例えば、第1章より。
脈絡なく思い出したけど、俺は気になる女の子の夢を見るのが得意である。かつて、高校から大学までの気になった女の子(アイドル含む)が総出演する凄い夢を見たことがある。実家の居間に意中の乙女たちがみっちり座って、無言で「きなこ餅」を喰っていた。嬉しいより怖い。対処できなくて裏口から逃げたよ。
とか、凄い、と素直に感心です。
気持ち悪さとすれすれの面白さなのですが、今後もほどほどに注目したい作家です。