はてなダイアリーのサービス終了にともなう、旧「ものかきの繰り言」の記事保管用ブログ。また、旧ダイアリー記事にアクセスされた場合、こちらにリダイレクトされています。旧ダイアリーからインポートしたそのままの状態の為、過去記事は読みやすいように徐々に手直し予定。
 現在活動中のブログはこちら→ 〔ものかきの繰り言2022〕
 特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)

『彼女が追ってくる』(石持浅海)、感想

彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)

彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)


独立起業して輸入販売業で成功を収めている中条夏子は、以前に勤めていた会社の招待を受け、旧知の経営者達が集う親睦会「箱根会」に出席する。彼女には一つの目的があった。かつての同僚にして親友・黒羽姫乃との再会、そして場合によっては、彼女を殺す事――。はたして、愛した男の死の原因が姫乃にあると確信した夏子は、箱根会の夜に彼女を刺殺する。
証拠は完全に隠滅、警察の捜査を逃れる自信が夏子にはあった。だが、事件は意外な展開を見せる。翌朝発見された姫乃の死体が、夏子に全く覚えのないカフスボタンを握っていたのだ。結果、殺人の容疑は思いもかけぬ人物に降り掛かり、夏子はその謎解きを強いられる事になる。いったい彼女は、何のためにそんなものを握りしめていたのか? 終わった筈の戦いはまだ続いているのか?
そう、死んだ筈の彼女が追ってくる――。
『扉は閉ざされたまま』『君の望む死に方』に続く、探偵役に碓氷優佳を据えたシリーズものの3作目。
数年前に作者が倒叙シリーズ3部作で出すとか言っていましたが、特に3部作がどうこうという記述も雰囲気もないので、しれっとまた新しい長編が出たりもしそうですが、それはそれで良し。少なくとも3作目は出すという事で、待ちに待っていた1冊。前作の出来が良くなかったので心配もありましたが、まあ満足のいく出来。
倒叙形式という事で、今回も犯人はハッキリしており、現場で発見された、犯人が思いもしない“ありえざる遺留品”が謎解きの中心となります。その遺留品には何の意味があるのか? それにより自分以外の人間に容疑がかかる事がどんな意味をもたらすのか? 警察との戦いに備え不測の事態を避けたい犯人は、殺した筈の相手の影に追われ、その真相を知ろうともがく。
そしてそこに居合わせた、異形の頭脳と精神を持つ女、碓氷優佳――。
前作がミステリとしては、読者を引きつける謎の呈示が存在しない、という欠陥を抱えていたのに対し、今回は読者にもわかりやすく謎が呈示されており、うまく構成されています。合わせて今作は、碓氷優佳が何を目的としているのか、というのが読者にとってはちょっとした謎。これは、同じ探偵役(主人公、ではない)による一応のシリーズ物、という部分を巧く使いました。
また、微妙に前作を内包した構造になっているのは、作者のちょっとした意地か。前々作を意識したような部分もわずかに盛り込まれており、そういう意味では、3部作っぽいといえばぽい。特に前作の内容の取り込み方は、なかなか秀逸。
ストーリーとしては前2作を読んでいなくても全く問題ありませんが、探偵役の造形は前2作を踏まえていないとわかりづらい為(というか、真にオカシイ部分が見えてこなくて勿体ない)、独立した作品というよりは、やはりシリーズ作品として読んだ方が面白いかと思われます。前作の出来があまりよろしくないので、第1作『扉は閉ざされたまま』だけでも良いですが(この時点ではシリーズになるとは考えていなかったでしょうが)。『扉は閉ざされたまま』は超傑作、お薦め。定期的に書いてますが、むしろとりあえずそれだけでも読んでいただきたい。
『扉は閉ざされたまま』といえば、この作品で“犯人の動機に納得がいかない”と散々言われたらしいのを未だに作者は腹に据えかねているみたいで、今作にもちょっとした反論があったり。個人的には全然気にならなかったので、そんなに未だに抗弁しないといけないのか、という感じではありますが。とても蛇足だったと思うのですが、文庫版でその辺りを補足する短編を書き下ろした(書かされた?)ぐらいだからなぁ。
他、心理的拘束の活用や、読み進めていく内に出てくるちょっとした不満が最終的に伏線になるという辺りは、石持浅海らしい巧さ。最初は据わりが今ひとつだなぁと思ったタイトルも読んでいく内にはまってきて、秀逸。……まあやっぱり、初見で興を引く感じのタイトルでは無いのがちょっと残念ですが。
決して名作とか傑作という程ではありませんが、水準以上の出来の堅実な佳作。
そして何より、今回も碓氷優佳がキチガイで可愛い。
ええもう、ここまで書いた感想が台無しのレベルで、私、碓氷優佳大好きなので、彼女の活躍だけでけっこう満足していたり。
表面上普通人を装っている頭脳明晰でキチガイの美女とか、凄く好き。
はい、非常に特殊な趣味なので、世間の同意は求めません(おーぃ)
また、作者がTwitterしているの発見したのですが、それによると現在、碓氷優佳を主役に据えた短編を「小説NON」(詳伝社)で、不定期連載中との事で、これは1冊にまとまるのが楽しみ。
来年には座間味くんシリーズ(『月の扉』の探偵役)の短篇集第2弾も発刊予定との事。シリーズ探偵を作れないと苦笑しながらむしろ作らない事を標榜していた節のある作者ですが、仕事上の都合もあるのでしょうが、少しスタイルに変化が出つつあるようです。あと、今年の『このミステリが凄い』を読んだら、この数年色々と手当たり次第にやっていたけれど来年以降は少し本格に戻りたい、みたいな事を書いていたので、その辺りも含めて、石持浅海という作家が今後どうなっていくかもまた、楽しみです。