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14年後の月に吠える〜『∀ガンダム』全話再見1

◆第1話「月に吠える」◆
〔脚本:星山博之 絵コンテ:斧谷稔 演出:渡邊哲哉 作画監督土器手司


宇宙から地球へ降下した少年ロラン・セアックは、出自を隠しながらハイム鉱山に住み込みで働く事になる。それから2年――機械に詳しい事を見込まれ、ハイム家の運転手となったロランは、街で共に地球へ降下した友人二人と再会。実は月からやってきた彼等だが、地球では月に住む人々の事は一切ニュースになっておらず、隠されていた。土地の成人式に参加する事を許されたロランは、同胞の地球への“帰還”を祈り、満月に向けて叫ぶのであった。

「男は男 女は女 年を越せ 夜を越せ ホワイトドールのご加護の元に」

(ビシニティの人々)

地域共同体で、15歳に達した男女が山の上に集まって宵越しの祭で成人の儀式を行います、大人達は下山して、よそ者と14歳以下の少年少女は立ち入り禁止です。
成人式に参加した男女は夜通し楽しく語り明か……って、そんなわけはない。
というのが、『∀ガンダム』です(断定)。
古い共同体、祭、成人式、とこれだけ要素が揃ってセックスを想起しないわけがなく、これはつまり、そういう事として捉えるべきでありましょう。
もともと、会話のやり取りとかちょっとした仕草で男女の関係を匂わせる富野演出ですが、物語の重要なギミックとして間接的ながらこれだけ堂々と持ってきたというのは凄い。
なお、ここのキエルさん(15歳)の「パートナーを選びます」の時の表情が物凄く女王様然としていて、しばらくキエルさんは怖い人方面に行くのかとビクビクしてしました(笑)
まあディアナ様も当初、目がちょっと怖かったりするので、どう転がってもいいであろう布石の類なのですが。


とにかく、Bパートが圧巻。
Aパートに関しては、メインとなる時間の2年前という事でキャラクターデザイン(に基づいた作画)がやや落ち着かない影響もあり、物凄いスピードの展開、必要最低限に圧縮されすぎてわかりにくい会話のやり取り、など、入りにくい、というのは正直な所。またそこで、敢えて主人公の背景を明確にしないで、地球の自然への驚きや感動を演出だけで見せていく、という手法をとっている為に、輪を掛けてしまっています。
謎のMSの地球降下→これまでの『ガンダム』タイトルとはかけ離れた世界→いきなり脱ぐ→いきなり溺れる→いきなり覗く
と、インパクト勝負で引っ張る流れになってしまったのは、否めない所。
それでも充分に見せはするのですが、総体の中でテンポが良いとは言えません。
ただこれは、私が1話や2話を繰り返し見過ぎている為に感じている事であり、特にこの10分弱の為のキャラデザインが表情を描けてない、と違和感を強く覚えてしまう、という要素はあるかもしれません。
しかしこの据わりの悪さは、Aパート最後の宵越しの祭を経て、一変。
2年が経過し、ハイム鉱山に住み込みで働くようになっていたロランが、機械いじりが得意な事を見込まれ、グエンの肝いりで新車の運転手見習いとなる。
この流れの中で、小刻みに見せられていく世界観、登場人物、その心理描写、全てがお見事。ここが非常に良く出来ているので、長いですが少し順を追ってみます。
−−−−−
呼び出しを受け、鉱山からハイム家へやってくるロラン。ハイム家では、キエルとソシエの姉妹が、父とグエンの会話を覗き見中。部屋の中ではハイム父とグエンが仕事や戦争の噂について話していますが、ここで、主の席とは別の椅子に座って書類を読んでいるハイム父に対し、グエンが壁の銃をいじりながら背中を向けて話している事で、二人の上下関係が示されます。
そこにロランがやってきて、どさくさまぎれに部屋の中へもつれ込むハイム姉妹。
部屋の両側に、グエン/ハイム父と、ロラン/ハイム姉妹という関係で対面。
ロランとハイム姉妹の間にも当然上下関係はあるのですが、それは姉妹の性格もあって極めて厳密なものでもなく、この関係性は比較的近しい。
そしてグエンは、ロランが2年前にコヨーテに襲われた所を助けた少年だと思い出す。この縁に、勉強をしてご恩返しをしなければ、というハイム父からの会話の流れを受け、「良かったわね、ロラン」と単純にロランについて喜ぶソシエに対し、
(ロランに向けて)「でも、新時代の学問というのは厳しいのよ」
「はあ」
「そうでございましょう、グエン様」
とロランをだしにグエン様へ会話を繋ぐキエルさん。
「そうだが、ローラは君のお父様の目に叶ったのだ」
……と、さりげなく問題発言。
「ヤツには今年、2年遅れの成人式に参加させますしね。なぁ?」
ここで、パトロンの目にかなった少年をいつまでもよそ者扱いするわけにはいかないと、成人の儀式への参加を認めるハイム父。面白いのは、ハイム父は如何にも既に決定していた事項のように喋っていますが、ロランの反応を見るとこれはアドリブである事(笑)
「お願いできるんですか!」
「あたしと一緒に?」
ロラン、会話の流れが読めない子(笑)
幸い、グエン様はスルーしてくれましたが。
まあここで空気読んで、「はい、そうなんです」とか答えてしまうと機転は利くけどちょっと嫌な子になりかねず、グエン様とハイム父は大人の会話をしている、という表現にもなっているわけですが。
半歩大人のキエルさんはそんな世界の方により踏み込む為にグエン様に近づこうとしており、一方、ソシエは隣の男の子の方が気になる、というのも鮮やかに対比。
車の試運転の為に外に出ると、空を行くミリシャの航空部隊。見上げたキエルはそれもグエンとの会話の糸口に用いるが、グエンはどちらかというと新車が大事。キャリア志向だけど男の子のメカニカルな世界には興味のないキエルさんの、つまらなそうな顔が可愛い(笑)
しかしそこで如才なく、キエルの社交界デビューの場としてボストニア城のパーティへ招待を約束するグエン様。地元の名士との付き合い方、大きな視点で工業化社会を見すえつつ、細かい配慮も欠かさない、血統背景だけではない出来る男ぶりを見せつけ、この時期のグエン様は実に格好いい。
新車の試運転を兼ね、グエンを飛行場へと送っていく、ロラン、ソシエ、キエル。ここで一旦、カメラはミリシャの飛行場へと移り、メシェー、ミハエル大佐、メシェー父らがクローズアップ。グエンによる空軍戦力の拡張と、彼がパトロンであるミリシャという部隊の存在が少しずつ形になって見えてきます。
「いい腕だった。期待しているよ、ローラ」
巨大な飛行船で去って行くグエン。
メシェー「……ロランだろ」
ソシエ「ロランよ」
それを見送る面々。
飛行船に向けて一礼するキエルに、ちらっと視線を動かすロラン。
「……む」
それに気付いて口を曲げるソシエと、それにくすりと笑うメシェー。
去りゆく巨大な存在――飛行船とそれに乗るグエン――という印象的な絵を使いながら、それぞれの登場人物の関係性を示唆し、ソシエとメシェーの気安い関係まで会話二つと2カットで盛り込まれる、という技の冴え。
そして時間は少し流れ、ロランはハイム家の運転手として生活を送っていく――。
−−−−−
と、この5分ほどが実に濃厚、実に素晴らしい。
基本的にただ会話で展開していくだけなのですが、この流れに込められた情報量、その見せ方、人物描写の鮮やかさ。何度見ても魅入られる凄さ。
また、先にAパートはハイスピードに過ぎるとは書きましたが、Bパート入ったら2年経過していてロランが完璧に地元に馴染んでいる、という面倒くさくない所は、非常に好みです。職場のコミュニティに馴染むまでとかつらつら描かれても、個人的にはまるで面白くないので(^^;
(その上で、成人の儀式への参加は許されておらず、地域共同体への帰属が重要なファクターになっているというのは重要)
このスピード感と濃厚さこそが富野演出の醍醐味でありますが、『∀ガンダム』1話Bパートはそのバランスが非常に取れた、傑作。Bパートの出来が良すぎるだけで、Aパートと合わせても、もちろん傑作回。
細かい所ではこの後も、運転手ロランが直射日光の下、お嬢様の買い物中に車の横で休めの姿勢で待機して待っているとか、運転席は屋根が無いので雨が降っていると雨ざらしとか、特に差別的扱いというわけではなく、この世界ではごく自然な運転手とお嬢様の関係として描写が入る所も秀逸。
あと個人的な興味が薄いのでスルーしがちなのですが、改めて見るとソシエはいちいち面白い。特に、ロラン、キース、フランの3人が集まっている所を覗き見して、
「田舎者同士の集まりか」
と、明らかにフランを見て
(私の方が可愛い。勝った……!)
みたいな言動をしつつ、
そのロランとフランが肩に腕を乗せ合うのを見て凄くむっとした顔になったり、手についたインクの匂いをロランにかがせているのを遠目に見て「あの女、キスさせるの?」は、名言。
テンション上がったロランが山を掘り返して高笑いしながら月に向かって何か叫んでいてもスルー出来るあたり、懐も大きい。


さて、巧みな演出により登場人物を見事に活写していく第1話ですが、ロボットアニメとして見た場合、非常に大きな特徴が一つあります。
それは、冒頭にちらっと出てくるフラットのみしか、ロボットが出てこない事。
フラット自体も全体像はわかりにくく、地球に降下してきたシーンだけで動きもない為、実質、ロボットアニメ的な意味でのロボットは登場していない、といっても過言ではないでしょう。
そして富野由悠季といえば、“外敵の侵入により日常が崩壊して主人公(達)が生き残る為に戦わざるを得なくなり、戦う”という作劇をさせれば日本一といっていい演出家です。
多数の登場人物がそれぞれの思惑で入り乱れながら動くタイムテーブル、スラップスティック寸前の疾走感とドタバタ、それでいながら積み重ねられていく物語進行の必然性、そして到達するクライマックス。
特に『機動戦士ガンダム』及び『伝説巨神イデオン』第1話は共にジャンルにおける金字塔であり、教科書といっていい圧倒的な完成度を誇ります。
(※参考過去記事:]『機動戦士ガンダム』、ブライトはなぜアムロにガンダムを任せたのか?『伝説巨神イデオン』1話詳解
出来が良すぎて、後発作品における同様の導入法を、軒並み抹殺したレベル。
その富野由悠季が敢えて得意技を用いなかったのがこの第1話であり、富野アニメとしても、ロボットアニメとしても非常に異色の内容といえます。
また、富野監督は、プロフェッショナルとして商業主義には非常に真摯で、基本的にほぼ必ず、1話に1回は戦闘を盛り込むという作り方を守っており、その点でも敢えて縛りを破った構造となっております。
その上で、決して前後編という構造でもなく、1話は1話としてまとまりながら、さりとてロボットが出てくるわけでなく、派手な見せ場もなく、かといってキャラクターアニメでもない。
ただ世界を見せていくというアプローチなのに、引きずり込まれる面白さ。
それも、こんな世界がいいなぁ、とか、このキャラクターいいなぁ、とか共感や感情移入をともなう面白さとは、やや違う。というか、あんな胸毛ワールドには、正直あまり住みたくありません(おぃ)
で、じゃあ何が面白いの? と問われると、これが非常に難しい。
私のような人間にとっては、ひたすら、見せ方が面白い、とは言えるのですが。
さりげない描写の積み重ねが、決して派手な造形なしに、登場人物の骨格を浮き上がらせていくという演出の見事さ。濃厚にして丁寧で、それでいながらテンポの速い富野演出の精髄を堪能できる、そんな楽しさ。
富野ファンの泥沼と言われてしまえばそれまでですが、これが、気持ちがいい。
ロボットも出てこないし、派手な展開の一つも無いけど、ただ見せているものが面白いという、ロボットアニメとして異形の傑作回。
この辺りは、脳がこの方面に活性化してきて何か閃いたら追補するかもしれません。ちょっとうまく言語化できなくて、逃げ腰なのですが、とにかく、Bパート、特にグエン様登場から退場までの流れは非常に素晴らしい。
ロランが月に向けて叫んで自らの出自と物語の鍵を視聴者に明かし、第2話へ続く。

「地球はとてもいい所だ。みんな、早く戻ってこーーーーーい!」

ロラン・セアック