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『時間の種』(ジョン・ウィンダム)読了

『トリフィドの日』『呪われた村』などの、ジョン・ウィンダムの1940〜50年代の作品を集めた短編集。1956年発刊。
イデアストーリーというよりも、SF的な状況設定「もし、このような事が起きたら……」に遭遇した人物の悲喜劇、といった形式が主体。
たとえば、パラレルワールドを行き来する機械の話の場合、主眼は機械そのものよりも、その機械を使ってやってきた“もうひとりの自分”に出会ってしまった男の陥る困った状況。異世界の人物と精神入れ替わりをする男の話の場合、その仕組みや世界よりも、精神を交換した者同士の駆け引きが主体になっていく……など。
通底しているのは、イギリス流のブラックユーモア?とでもいった味わいで、毒のある笑いがそこかしこに顔を出します。ハッピーエンドともバッドエンドともいえない、これはこれで悪くはないかもしれないけど……どうだろうね? といった結末はやや独特。
印象的なのは、非常に嫌な読後感の「強いものだけ生き残る」。嫌な後味を倍加させる、最後の一節が名訳。ブラックな笑いが痛烈なオチとなり、著者の作風が綺麗にはまった「頭の悪い火星人」。ロバート・シェクリィ辺りを思わせる風刺の効いた「ポーリーののぞき穴」、といったところ。
SF的な飛躍――センス・オブ・ワンダーというよりは、SF的な状況設定をガジェットに用いた現代小説、の趣が強いですが、筋立てがシンプルで読みやすく、平均して面白かったです。