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『侍戦隊シンケンジャー』感想32

確認の為にちょっと45話を見返したのですが、広間での一同話し合い最中、
「影武者を立てたのは、封印の文字の件は勿論、シンケンジャーの柱である志波家の、まさに最後の1人を隠し、19代20代と、次への柱が太く育つのを待つ為だった筈」
という彦馬の台詞の所で、「隠し、19代20代と」の所で姫のアップになって目が左右に動くカットが入っていて、箇所が箇所だけに意味深。確信犯かなぁ。
彦馬からすると、志波家の為、また丈瑠の為、それが正道だと信じているけど、薫からすると「おまえも私にそれを要求するのか」となるわけで、彦馬の言っている事が裏を返すと、「丈瑠が人生捨ててるんだから、薫も人生捨てろ」と恐らく自覚無しに言ってしまっているというのは、彦馬にしても、という部分が深読みするとなかなか凶悪。
◆第四十六幕「激突大勝負」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子
真ヒロイン争いを通り越し、真の主人公争いが勃発している事など知らず、十臓と向かい合う丈瑠。
「これだ……存在するのは、ただ、剣のみ。するべき事は、ただ戦いのみ。あとは一切の無。おまえならここまで来ると思っていた」
シンケンレッドのイメージ植物ともいえるモミジの葉の舞い落ちる中、十臓は喜色と共に刀を振り上げる。
(裏正、喜べ……これから味わうものこそ、最高の!)
2人の死闘は森の中に移り、落ち葉を投げつけたり拳や蹴りを放ったりと、文字通りの全力を尽くした戦いが展開し、十臓は変身。応じて丈瑠もシンケンレッドへ変身する……やっぱり、返却していなかった書道フォン。
源太から連絡を受け、丈瑠の行方を捜しに出ようとする彦馬は、戦いから帰ってきた4人に改めて頭を下げる。
「すまん。……外道衆を倒す為にも、おまえ達を欺き通せと殿を叱咤してきたのは儂だ。詫びて済む事ではない。しかしここは、殿の言うように……」
「日下部ぇ、いつまで殿、殿と言っておる」
またも見事な憎まれ役として登場する丹波さん。やりきってくれている所が、実に清々しい(笑)
「この日下部彦馬、殿をお預かりした時より17年、まことの殿と、心に決めて、お育てお仕えして参りました。そう決めなければ、私も、殿も……」
前回今回と、長い台詞で伊吹吾郎が、さすがの貫禄。「まことの殿と、心に決めて、お育てお仕えして参りました」と淀みなく言えるのはさすがです。
「まことの殿とは、何事?!」
立ち去る彦馬の背中に憤りをぶつける丹波、の後頭部に直撃する扇子。
わざわざ扇子が飛んでくるワンカットが別にあるのは、時代劇『八百八町夢日記』(主演:里見浩太朗)を思い出してしまいました(笑)
自分が今日まであったのは影武者のお陰、と遂に丹波に明確に反論する姫だが、丹波は悪びれない。
「しかし、影も、役目を終えて、ホッとしているのでは。偽りの暮らしも楽ではございますまい。何もかもぜーんぶ、嘘ですからなぁ。ははははは」
「全部、嘘……」
丹波、おまえはしばらく口を閉じろ」
丈瑠への侮蔑を隠さない丹波は、黒子に取り押さえられくつわを噛まされて物理的に口を封じられるという酷い扱いになり、後々立場にフォローあるかと思いましたが、ギャグ風味に処理されたので下手するとこのままフェードアウトかもしれない……(笑)
一方、激闘を続ける丈瑠と十臓。
(存在するのは、ただ、剣のみ。するべき事は、ただ、戦いのみ)
(確かに、これだけは本物だ。いっさい嘘が無い)
人と人との関わりではなく、虚実なき命のやり取り……生か死か、ただそれだけの、修羅の世界の淵を覗き込む丈瑠。
その頃、シタリは自分の生命力を注ぎ込む事でアヤカシを強化していた。
「あたしゃ、生きていたいんだよぉ……その為なら、命を半分ぐらいなくすのも、しょ、しょうがないさ!」
これまで延々と穀潰しの面倒を見、知恵袋的存在として特権的立場にあるも、いまひとつスタンスのわからなかったシタリですが、ここでその目的、執念が「生きていたい」という所にあったというのが明かされたのは、なかなか面白い。特に立派な信念や大きなもくろみがあるわけでなく、純粋にいぎたない、というのは凄くシタリにふさわしいと納得です。
「ったく、丈瑠も爺さんも、この世を守る為、て言えば、俺たちが動けないと思って!」
「実際その通りだ! 我々は、その一点だけはどうあっても揺るがせるわけにはいかない」
「丈瑠はさ……ずっとこうやって、抱えてきたんだよね。私達に嘘ついてるから、わざと距離置こうとして。……もっと早く気づけてたら」
「言ってくれりゃあ良かったんだよ……」
「殿様……しんどかったやろな。うちが殿様殿様、て言うたんびに……辛い思いしてはったんかな」
一斉に、それぞれの立場からヒロイン度を稼ぎに来る4人。
なお仮に丈瑠がこっそり真相を告白していた場合、真っ先に情報漏洩やらかすのは千明だと思います!
寺に向かった彦馬は、地面に落ちた包帯と剣戟の音に気付き、体力の限界を超えて戦う丈瑠と十臓の間に割って入る。この辺り、敢えて綺麗な殺陣にしていないのが、今回良い所。
「殿、お止めください。このような戦い、まるで外道衆のような」
空虚の中で、戦いそのものに囚われようとしている丈瑠を止めようと、十臓の前に立ちはだかる爺。十臓は彦馬もろとも丈瑠を斬ろうとし、彦馬をもぎ離そうとする丈瑠の姿が微妙に、彦馬を人質に取っているように見えます(笑)
間一髪、丈瑠は十臓の斬撃から彦馬を守り、反撃を浴びせるも相討ち。十臓は斜面を転がり、丈瑠と彦馬は崖から落ちてしまう……。
「嘘があったら、全部嘘なんかな……。今までの事、殿様と一緒に居た間の事、全部……」
「ことは……」
ことはの手をぎゅっと握りしめる姐さん、さすが男前その2!(おぃ)
「嘘かもしれないな…………。そう思えば、迷う事はない」
「流ノ介……」
前半のおんぶイベントとか全く活用できない息子の姿に、お父さんはホットケーキを食べながら涙が止まらない事でしょう……。
千々に乱れる4人だが、またもタイミング悪く隙間センサーが反応。シタリの生命力で強化されたアヤカシが、人間の苦しみや悲しみで三途の川の水を増し、ドウコクのスキンケアを促進させる為に地上で暴れ出す。
「皆思う所はあるだろうが……私と一緒に戦ってほしい、頼む」
奥から出てきた姫を加え、シンケンジャー出陣。
色々考えていくと、姫は表に出てきた後も影武者の協力を得られる予定で動いたのではという気がしてきたのですが(そこで立場からくる丈瑠の心情を量りきれず、やや性急に動いてしまったのは若さである)、奥に引きこもっている間は、
(どうしてこうなった……?! あの、へたれめ……!)
みたいな感じで、畳のヘリに握り拳をぶつけているのかもしれない。
ダイゴヨウに引きずられながら丈瑠を探していた源太はアヤカシに遭遇し、変身して戦うも苦戦。そこへシンケンジャーが到着する。
改めて、4人が姫と一緒に戦う光景を目の当たりにし、納得しきれない思いを噛みしめる源太。
「なあ……おまえら……本当に、あのお姫様と一緒に」
「もっと憎たらしいお姫様なら、簡単だったのにな……」
5人もシタリの力を得たアヤカシに苦しむも、最後は姫のスーパー化から猛牛バズーカで外道伏滅し、アヤカシ巨大化。……あまり三途の川を増やせてない気がするが、大丈夫か、
「天空シンケンオーで行く」
そして姫は姫で、全バージョン乗ってみたくなっていませんか(笑)
アヤカシの毛針攻撃を華麗に飛び上がって回避した天空シンケンオーは唐竹割りで一刀両断、と思いきやシタリの生命力を得ていたアヤカシは三の目に転じてCGの暗黒竜が出現し、シンケンジャーはサムライハオーを降臨させる(シタリの言っていた命の半分、というのは二の目を与えたという事か)。
その頃、崖から落ちて負傷するも何とか無事だった彦馬は、丈瑠を育ててきた日々の事を語っていた。
「全ては、あの日の約束を守る為に……」
回想シーンで、丈瑠父から丈瑠を預かる彦馬。
「日下部どの、この子はまだこんなに小さいが……きっと!」
「安心してくれ。今日より、命を賭けて支え続ける。……落ちぬように。――我が殿として」
そして丈瑠父は、外道衆との戦いの中で還らぬ人となる。


――決して逃げるな。外道衆から、此の世を守れ……!

血の滲む覚悟で、次代に未来を託した侍達の1人として。
丈瑠父が先代シンケンジャーと一緒に討ち死にする必然性が実はハッキリしないのですが、外道衆に対する偽装工作の一環なのか、17代目に対する一種の殉死なのか。
襲撃現場に残ってまで、ここでわざわざ丈瑠に父の死ぬシーンを見せつける理由を考えると、辿り着く結論は、影武者作戦の真実を知る人間を減らした上で丈瑠の退路をバッサリ断って強烈なトラウマにより縛り付けるしかないのですが、ちょっと引くレベルの徹底ぶりで、外道すぎるぞ志波家。
彦馬も多分、当時は志波家イズムにどっぷり浸かっていたのが、この17年で丈瑠に情が移ったのでしょうが、「そう決めなければ、私も、殿も……」という台詞から窺えるのは、丈瑠の父同様、彦馬自身も、大きな意味で自分が捨て駒である事を理解していたわけで、捨て駒捨て駒を育てている内に情が生まれて引け目を感じつつもお家の使命の為に鬼になる、とか、侍戦隊としてのハードな背景を貫いた結果、志波家がブラック通り越してダークに突入していて凄まじい。
「殿は、当主としては完璧に成長された。しかしそれが、このような局面で徒となるとは……!」
此の世を守る為、お家の為、一方では丈瑠自身の命を守る為……様々な事情はあれど、1人の幼い子供を一個のモンスターとして育て上げた事を、今更ながらに悔いる爺。彦馬は丈瑠に何かを伝えようとするが、そこへいびつなモンスターの匂いを嗅ぎつけた男、人の身で外道に堕ちきった人斬り、腑破十臓が再び現れる。
「来い! おまえがするべき事は、戦いのみ。あるのは……剣のみだ」
「なりません! 殿には、それだけではない筈」
第43話で、十臓と裏正の設定を用いて、「どこからどこまでが人間なのか?」というテーマに少し踏み込みましたが、やはりそちらは主要テーマではなく、今作の主要テーマはそこから裏返した、「如何にして人間は人間であるのか」だった、という構造が見えてきました。
一種の人工ヒーローだった事が判明した丈瑠ですが、その「ヒーロー」という役割を失った時、そこに「人間」は残っているのか?
世界と向き合った時、「人間」は何をもって「人間」なのか?
それを浮き彫りにする為にこそ、腑破十臓という「闘争だけを求める男」を丹念に描き、43話において真の外道として昇華させる事でその鏡とする、という仕込みは実に小林靖子らしい手法。
丈瑠が刀を構えた時、暗黒竜とハオーの戦いが目に入り、ハオーは何とか、今日も忙しいモヂカラ大団円で暗黒竜を消滅させる。そして……。
「なあ、おまえら、頼む! 丈ちゃんが……何もないって……何もないって言うんだよ。そんな事ねえよな?」
屋敷に運び込まれて治療を受けていた源太は、戻ってきた4人にすがりつく。ここの源太の演技はとても良かった。更にそこへ、黒子の救助を受けて担がれてくる彦馬。
「殿が、殿がぁ!」
殿は……何故か馬で戦っていた。 
しかも、わざわざ森の中という無駄難度。
無言で十臓と剣をぶつけ合う丈瑠の胸に、彦馬の残した言葉が響く。
「殿! 爺はずうっと、嬉しく思っておりましたぞ……。偽りの殿と家臣であっても、流ノ介達と心を通じ合っていく様子が。それは……嘘だけではない筈。嘘だけでは」
絆とは、“殿と家臣”だから生まれたものなのか、それとも――。
彦馬に代わり丈瑠の元へ向かおうとする茉子、千明、ことはだが、流ノ介だけはその場を動かない……動けない。
「私は、侍として……!」
屋敷に残る事を選ぶ流ノ介の肩に手を置く姐さん、相変わらずおいしい。
丈瑠と十臓は馬上で変身すると、ますます激しくぶつかり合う。
嘘偽りのない、剣だけの世界。
人の世の絆を失い、ただ生死のやり取りのみを己の実感とし、戦いに戦いを求める修羅道で、丈瑠は剣鬼と成り果ててしまうのか。
そして、侍達の心は再び一つになれるのか。
「殿ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
床を叩いて絶叫する流ノ介が、物凄い勢いでヒロイン度稼ぎにきた!(笑)
外道衆なりアヤカシなりというのは、設定が小出しだった事もあり今ひとつ掴めなかったのですが、ここに来て成る程、『ダイターン3』(アニメ)で言えばメガノイド、『ダブルクロス』(TRPGルール)で言えばジャームだったのだな、と。
一つの欲望や衝動しか見えなくなり、世界との関わりがそれに塗りつぶされている存在。
ダブルクロス』は、ヒーロー物的なストーリーをTRPGに落とし込みやすいというかそういう志向のルールですが、「ロイス(他者との繋がり)を軒並み失った丈瑠の元へ完全にジャーム化している事が判明した十臓がやってきて、おまえも衝動に身を任せてジャーム化しないか? と戦っている内に丈瑠の侵食率がガンガン上がりまくり、固定ロイスのNPC・彦馬が、丈瑠が失ったと思っているロイスはまだ残っている筈と必死の説得をするが、果たしてどうなる?!」と、今回の『シンケンジャー』がルールに則って言語化できてしまう辺り、良く出来ていると思います(笑)
後こうなってみると、丈瑠と彦馬がことはの侍への傾倒を割と気にしていた、ことはの危うさを感じていたというのも、頷けます。
物語としてはベタな方向に向かっておりますが、丹念な布石が綺麗に繋がり、非常に盛り上がってきた所で、残すは3話。白熱のヒロイン争奪戦の行方や如何に、次回、サブタイトルも豪速球!
ところで今作、企画段階から前年の『ゴーオンジャー』の対だったのかなぁ、なんて事もここ数話の展開を見ると改めて思います。『ゴーオン』が00年代戦隊の集大成としてド王道を突っ走っりきったのに対して、「これだけやっておけば次の10年でまた色々出来るだろう」みたいな。