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『コンレボ』第22話「巨神たちの時代」感想(長い)

神化49年12月――超人が絡んだ過去の大事件の裏表を悪し様に描く映画『日本大予言』公開。立ち見客も出る大盛況の中で、笑美は爾朗の姿を見つける。
「あれが記憶なのか夢なのか、確証はなかった……」
――4ヶ月前。倫子に借りた超人ヘルメットを被った爾朗は幼少期の出来事を夢に見、そしてジンが被っていた超人能力強化ヘルメットの中で生まれた怪剣クロードという人格が、電子チップの中に焼き付けられ、帝告も知らぬままにヘルメットと一緒に複製されていた事に気付く。
「だがそれは本当にクロードだろうか。ジンは人吉爾朗の代用品として作られた事を、否定しようとしながら憧れていた。彼の描いた幻想の超人は――……だから、知っている全てを今から見せよう」
「……こんなの嘘だ、出鱈目だ! 俺は、俺は……やめろっ、見せるな! 見せるなぁーーーっ!」
幻像の中でクロードと出会って何かを見せられ、恐慌状態に陥る爾朗のヘルメットをすぽっと外すアースちゃん。判断が速くて素敵。
「それは危険だ……クロードの、怨念が染みついている。超人の力を信じ、世界を変えられると信じたクロードの思想に、伝染してしまう」
ヘルメットの危険性を告げる爾朗に、酒の回った倫子は自分が超人を嫌う理由……神化34年に怪獣が暴れた際の被害で両親が死亡した事を語る。
「しょうがないわよね。超人だって完璧なわけじゃない。だけど、超人って本当はもっと凄いものじゃないの? ビルよりでっかかったり、宇宙を飛んだり、へんしーん!しちゃったりさ。そんなのが集まったら、それこそ世界中から戦争をなくしたり、飢えて死ぬ子供全部助けたり、出来そうなもんじゃない」
「無茶いうなよ」
「無茶かな……だったらせめて、正義を示してよ。絶対的な本当の正義を。正義は人の数だけあるなんて使い古された言葉じゃなくてさ。信じられる、本当の……。……私はただの人間よ。超人だなんて思わない。なりたいとも思わない。だけど、もし力があったら……力が…………」
ここまで今作の世界観における「正義」とは、人の数だけあるものではなく、「誰かに決められる」ものでした。
個々人の行動指針そのものの価値は+(正)でも−(負)でもなく、それが時代や環境に応じて誰かの支持を得た時に、正義となる。逆に言えば、正義とは、担保なくしては正義たりえない。
その最たる象徴として今作の背景に置かれているのが、戦前/戦後という大きなパラダイムシフトであり、戦時においては“勝利の為の正義”であり、平時においては“大量殺戮兵器”であるという、爾朗の懊悩に繋がっています。
注目されるのはその観点で見た時、倫子の求める「絶対的な本当の正義を示してくれる誰か」というのは、いっけん子供の理想のようで、実は、全体主義的な危険な思想性を孕んでいる事。
すなわちここで爾朗は、「理想の超人が示す正義」とは正しいのか? という問題に直面します。
正義とは、力あるものが掲げる絶対の真理なのか? 時代と人間の集団に左右されて揺れ動く陽炎なのか?
移ろう世界の中で、超人は「正義」を示せるのか――示すべきなのか。
同時に、超人が世界中から戦争をなくしたり、飢えて死ぬ子供全てを助けたりできないというのなら、それは諦めるべき悲劇なのか、という、時に正義の価値を決めてしまう力を持った大衆(それはとりもなおさず、TVの前の視聴者である)の存在意味が問われ、超人に対する凡人達への反問として突き刺さります。
自由・平和・正義。
それは、どこかの誰かに押しつけて実現してもらうものなのか?
倫子は酔いつぶれ、ヘルメットをぐしゃっと押し潰すアースちゃん。判断が速くて素敵。
3機のナッツのお披露目セレモニー当日、超人課は独自に警備に加わり、バイオデストロイヤーを危険視する柴と白田はナッツ襲撃に動き、現場で行動を決めあぐねていた爾朗だが、エクウスに気付いた大鉄の過剰反応により、戦端が開かれてしまう。3機のナッツには、倫子、元IQ、ジャッキーが乗り込み、それぞれの脳裏に浮かぶクロードの幻影。
「また、唄っていいんだ……」
フォークリフトを操るアイドルことジャッキーさん、後半戦で初めて喋ったような。
「危ない天弓ナイト! 僕が守る!」
大鉄もまたレックスを暴走させそうになるが、風郎太の助けで外側からヘルメットを溶かし、呪縛から逃れる事に成功。
「まだまだ子供だな〜、おまえ」
爾朗が、正義を探し求めて大人になれない男だとすると、大鉄は、自ら正義を示す為に一足早く大人になろうとした少年、だと思っているのですが、名前を戻し、BL団と訣別し、子供コミュニティを離れて大人の社会に背伸びして加わった牧大鉄/音無弓彦を、ここで“子供の味方”お化けの風郎太が救う、というのはかなり示唆的。
そこで導く側に回れないセンパイの人徳の薄さは感じますが、爾朗センパイ、まだ坊やだから仕方ない。
「僕はあれを止める!」
「え、いいのかよ、仲間だろ?」
「だから、止めなきゃいけないんだ!」
そして、倫子に呼びかけるクロード。
「それが君の力だ」
「私の、力」
「君はこの世界を支配する事もできる。神にさえなれる」
「……悪の超人達め!」
ナッツーミサイル発射で大被害が起こり、珍しく焦る里見顧問。
「これは、私の力……。超人はもっと凄いものだと思っていた。だけど、ずっと裏切られてきた。今度こそ……!」
ナッツー1の背中にマントが翻り、覚悟を決めた爾朗のエクウスと激突した所で場面が変わり、しばらく不在だった光速エスパーは世界を旅していたとの事で、超人カフェに帰還したエスパーが1枚のレコードをかけ、遂に巨神達の戦いが始まる。
「人吉爾朗、おまえが超人なら、世界を変えてみせろ!」
ナッツー1に重なるクロード。そして……
「彼が描いた幻想の超人は――俺だ」
爾朗が見た、クロードの正体、クロードのヘルメットの内側、ジンが思い描いた幻想の超人、それは……人吉爾朗だった。
エクウスはナッツービームの直撃を受けて地面に叩きつけられ、そこに駆け寄る、風郎太、ジャガー、ライト。
「倒すしかないか……それは正しい事か、風郎太?」
「え?」
「今は正しいと思っても、後で後悔する。おまえが一番よく知っているんじゃないのか」
決断を恐れ、後悔に怯え、理由を失い、がんじがらめになっていく爾朗。
「クロードじゃない。……ジンでもない。あれは――俺だ。刻まれたクロードという人格は、正義と平和と自由と、無力な人々の為に戦うと信じる、俺だ。どっかに正しい超人は居るって信じて、だけど見つからなくて、助けを求めてる。そんな子供の俺が……」
「だから戦えないというのか?!」
「倫子を突き動かしている、正しい超人であろうという激情。それも俺のものだ。あそこに居るのは、この力をどうしたらいいかわからず、持て余し泣いていた、子供の頃の俺なんだ。……俺は思い出したんだ全てっ。俺は守りたいんだっ、全ての超人を。そうしなきゃ俺は、俺は……」
超人ヘルメットを被り、超人に絶対的な本当の正義を求めた倫子の姿は爾朗の映し鏡であり、ヘルメットの中のクロード人格――超人の力を信じ、世界を変えられると信じたクロードの思想とはすなわち、人吉爾朗の理想であり悲嘆であるという事が明かされた事で見えてくるのは、つまりそれは、超人病ではないか、という事。
周到に爾朗が「クロードの思想に、伝染」という言い回しを用いているのですが、第18話の変異セイタカアワダチソウによる?影響が肉体的変異をもたらす超人病だとすれば、クロードヘルメットによる伝染は、精神的な超人病と見て良いでしょう。
そして正しい超人を望む者は、神の現し身の力を振るい、自ら正しさを作り出そうとする。
だが超人は、決して普遍の正義ではない。
それでも誰かの為に立ち上がろうとする時。
君が戦う理由はなんだ?
「前に言ったよな。怪獣の炎で泣く子供が居るなら――」

――おまえが何者でも、俺は、戦う! おまえの炎で、泣く子供が居るなら!!

「あそこで泣いている子供が居る!!」
「だが、あれは……」
「いいじゃんか! 自分自身だろうと誰だろうと、泣いている子供に違いなんかねぇだろ!」



超人病か……俺もそう言われたよ。この人のしている事は正しくないかもしれない。だけど――俺はこの人を護る」
「何故だ……?」
「子供の為に戦うのが、超人だからだ」

「は、爾朗。おまえ風郎太を超人課に入れる時、なんて言った? 大切なものを思い出させてくれるから必要だ。そう言ったよな。まさか本当になるとはな。立て爾朗! 転んだ子供に手を差し伸べるのが大人の役目だ。それともおまえは――まだ坊やのままか?」
超人とは何か。
それは絶対の正義を示す存在ではない。
人々を導く存在でもない。
ただ、泣いている子供を救う者。
そしてまた、いつかその子供が大人になった時、泣いている誰かに手を差し伸べられるように伝えられる者。
子供とは未来のシンボルであると同時に大人にとっての過去であり、どんな大人の中にも、かつて子供だった自分が居る。
ならば君は、かつて子供だった自分に、胸を張れる大人になったのか。
誰かに正義を押しつけずに、自分の足で立っているのか――?
という感じで何となく繋げてみましたが、根本的に「正義」という価値観は環境が決めるものとした上で、「誰かが示してくれる正義」を否定し、では個人が持てる正しさ、その指針になりうるものって何だろう、という時に、泣いている子供を助けられる良き大人である事、という事なのかな、と。これはまた、行動の基準になる「内なる正義の担保」を持つ事、ともいえると思います。
この後の回想シーンで、
「正義の味方だって……言ったじゃないか……」
「私は、正義ではない。そんなものは、どこにも無いのかも」
「嫌だぁぁっ! そんなの、嫌だ……」
「ああ、嫌だよなぁ……」
天弓ナイト最期の、正義があったらいいなぁという呟き、けれど正義が存在しないのなら、出来るだけ正しい事をやりたいという願いが、子供から大人から子供へと繋がっていって欲しいという希望、それが今作における超人観、メタ的に言えば、ヒーローが教えてくれた事であり、伝え続けていきたいものだろうか、とひとまずそんな気がします。この辺りも残り話数でまだ踏み込んでくるかもしれませんが。
「もう泣くな。わかるぞ。暴れたいんだ。どうにもならないんだ。正義の超人に憧れた筈なのに、どうしてって。大人はみんなそうさ。正しい事ばかりしていられない! それでも、それでも……!」
それでも、転んだ子供に手を差し伸べて、出来る限り真っ直ぐ歩く姿を見せられるのならば。
爾朗は立ち上がる理由を見つけ、エクウスと支援ジェットが合体してグレートエクウスが誕生。グレートエクウスは空中戦でナッツー1を撃破し、2と3はレックスとグロスオーゲンが連係攻撃で拘束。こうして事態は収束するが、多数の死傷者を出した事件は超人による大規模なテロとして扱われ、里見顧問は結果として望んだ成果を得るのであった。
「もはや超人は怪獣と同じ存在だ」
神化49年9月――輸送中のナッツ3機は、氾濫した川に飲み込まれて消えていく。
「人は神にはなれないか……」
出来損ないの神もしくは、神を模した人形が川に流されるというナッツの結末も、なかなか意味深ですが、これはもしかしたら次回以降に繋がるのかも。
そしてプロパガンダ映画『大予言』と爾朗の記憶により、神化38年、大鉄君事件において天弓ナイトを殺したのは、天弓ナイトを誘拐犯と誤解して絶望した爾朗の暴走であった事が明らかになる。
「天弓ナイトは殺された。警察の陰謀でも、自ら火を掛けたのでもない。恐るべき怪獣が正義の超人を滅ぼしたのだ。そして奴は今、日本を滅ぼそうとしている」
里見の(映画の?)ナレーションに合わせて映る映画館の客席、そこに並ぶ均一化した観客のシルエット。
「知っていたよ、ずっと前から」
これに爾朗のバストアップが対比される、という絵が印象的。
――正義を決めるのは、誰なのか?
いよいよ最終盤、爾朗の一つの脱皮を描くと同時に、超人テーゼの部分的否定と肯定が入り交じってややこしい事この上ないのですが、更に今回、超人病により“荒ぶるスーパーロボット”の姿を通して、超人の魂が神の器を操るという構図から、英雄/鬼という、「超人」の持つ本質的な両義性が強調され炙り出されています。

英雄とその敵である怪物は、同じ根から生まれた異なる枝、相対立する同族といえるであろう。私が、頼光一党は彼らの同族である酒呑童子たちを退治している、と述べたのは、このような意味からである。英雄は、彼の出自、彼の過去、もう一つの彼の否定として、鬼などの怪物を退治する。退治することによって社会に迎えられ、英雄となるのである。
(『神々の精神史』小松和彦
これは『御伽草子』における酒呑童子討伐の説話について解説した民俗学の本の一文なのですが、「英雄」の部分を「仮面ライダー」に入れ替えても驚くほどそのまま通用してしまい、日本的ヒーロー観の一つの思想的連なりを見る事が出来ます。
同書では、英雄と鬼との違いを、社会に迎えられているのが英雄であり排除されているのが鬼であるとし、そこに里/山などの対立概念を見るのですが、これはそのまま、『コンレボ』劇中で里見顧問が進める、超人/超人以外の区分に通じるといえましょう。
英雄が社会/文化のカテゴリに存在するものならば、鬼とは自然に属するものであり、そこにはまた「妖怪」という言葉が浮かび上がります。
第20話以降、カミと神、神と鬼、鬼と英雄、というテーマが断片的に浮かび上がっているように見えるのですが、日本的ヒーロー観の追求として今作を見れば、その到達点が、人と鬼の物語になるというのは自然なのかもしれず、最終的にそれを連結するのが爾朗という事になるのかもしれません。
そんなわけでこの最終盤に予告ナレーションの回ってきた笑美さんですが(映像はジャガーさんメインだったけど)、やはり輝子虎を持っていた事が今回判明。そして過去に天弓ナイトの居場所を探す際に爾朗とした約束の内容が「私の事、ずっと好きでいて」というものだった事も明らかになり、これは大事なポイントになりそう。
いったいぜんたい、ここからどうまとめるのか、次回、神化50年突入で爾朗センパイはあっさり三十路なのか?! いや、8月誕生とすれば、ギリギリセーフなのか?! 残り2話、楽しみです。