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『フリーター、家を買う。』(有川浩)、読了

フリーター、家を買う。

フリーター、家を買う。

2007年7〜12月まで、日経ネット丸の内オフィスにてWEB連載されていた作品に書き下ろし一章を加えたもの。
主人公は、大学卒業後、入社3ヶ月で自ら退社してしまった、現在25歳無職の青年。再就職の為の活動に本腰は入らず、当座のお金を稼ぐアルバイトも長続きせず、まだ若いし……と怠惰な生活に溺れつつある日々だったが、そんな時、母親が重度の鬱病を発症する。嫁ぎ先から急ぎ駆けつけた姉の口から語られる、母親の抱えていた苦悩を知り、如何に自分が甘えていたかを思い知る主人公。一念発起して立ち上がったフリーター、無理解な父親と、世間の厳しさを乗り越えて、崩壊寸前の家族は果たして再生できるのか――。
化けた。
有川浩に関しては、『空の中』の大絶賛以来、作家としてはかなり高く評価していますが、それでも正直、ここまで書ける人だとは思っていませんでした。
作家としてのキャパと引き出しを考えれば、“化けた”というより、もともと持っていた中から別の部分を見せた、といった方が適切なのかもしれませんし、そもそも連載自体は1年半前なので、時間的にいえば、“既に化けていた”というのが、正解なのかもしれませんが、多分これは、有川浩にとって、一つのターニングポイント的作品ではないかと思います。
題材が重いだけに耐性が無いと少々きついかもしれませんが、フィクションの効用としてのクッションを適度に挟みながら物語として成立させる手腕、特に、父と息子の男同士の面倒くささ、の描き方は極めて秀逸。
これまで発表されてきた作品における“いかにもな有川浩らしさ”とは一線を画す為、そういった部分を期待すると肩透かしとなるかもしれませんが、確実に幅を広げている事を見せてくれる、佳品。こういう、自分の予測していた範囲内から、ぽん、と外に飛び出されるというのはなかなか得難い体験であります。
改めて、今、お薦めできる作家。