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『キケン』(有川浩)、読了

キケン

キケン


ほどほどの都市部に存在し、ほどほどの偏差値で入学できる、成南電気工科大学。ごく一般的なこの工科
大学に、一つの部活があった。その名を、〔機械制御研究部〕、略して「機研」。
「機研」=「危険」。
“ユナ・ボマー”の異名を持つ部長・上野と、“大魔神”と恐れられる副部長・大神、これは彼らに率いられ、様々な伝説と武勇伝に彩られた「キケン」の、黄金時代の物語である。
小説新潮」2009年3月号〜7月号に連載された内容を、一冊にまとめた連作短編。
昨年刊行の『三匹のおっさん』もそうでしたが、“大人のライトノベル”を標榜する筆者はどうも、一般文芸誌への連載作品において、故意に軽いノリを強調している節があります。今作は表紙の装丁からしてかなり遊んでおりますが、登場人物が自ら表紙にツッコんでいる通り、表紙と本編内容はそれほど合致しておりません。
そして出来としては今ひとつ。
連作短編の形式を取っており、最終的な長編としてはやりたかった事はわかるし、ぼちぼち程度にまとまっているとは思うのですが、どうにも短編としての一話一話の出来がよろしくない。
なんというか、薄味。
濃すぎて苦いのが好きというわけではありませんが、それにしても薄いし、有川浩の魅力というのは、月並みな内容になりそうな所から一歩か二歩踏み込んだ所でこちらを唸らせてくれる所にあると思うので(それこそ『三匹のおっさん』はその好例)、その点、今作はちょっと物足りない。
ただ、味付けのバランスに関しては如何様にも出来る技量の持ち主であるというのは過去の作品で証明されているので、“口に合わなかった”というのが、評価としてはふさわしいのか。
タイトルからしてオチまでわかる2話とかどうなんだろう、とは思うのですが、オチまでわかる所を含めて、“オトコノコの世界を覗く話”であり、私が作者に期待しているものがそういう所になかった、というのはあるのかもしれません。
もっとも有川浩に“オトコノコ”の部分が無いかといえば、傑作特撮怪獣映画小説『空の中』をものしている人に無いわけがなく、むしろ有川浩は“オトコノコ”サイドであって、横で思い出語りを聞いている立ち位置ではないと思う(笑)
そして何度でも人に薦めますが、現在までの有川浩の最高傑作であると評価する『空の中』の素晴らしい所の一つは、「怪獣小説」でなくて、「特撮怪獣映画小説」な所なのですよ。
と書いて分かる人には本当に読んでほしい。
全ての、怪獣映画を愛する人にお薦めする大傑作です。
空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)