ざくっと紹介と感想。
「週刊モーニング」連載中。
かつて兄弟は共に宇宙飛行士になる事を誓った。長じて弟は夢を叶えてNASAで月着陸ミッションの時を待ち、兄は務めていた自動車会社をクビになり無職となった。再起した兄は宇宙飛行士を目指し、先を行く弟の元へ辿り着けるのか――?!
少年の夢を取り戻した男が宇宙飛行士を目指すという物語で、展開の骨子は古典的なビジネス(サクセス)ストーリー。ただその題材を「宇宙飛行士」とした事と、今よりちょっとばかり未来という設定がパラレル的な懐の広さを持ち、虚実のバランスが絶妙で面白い。
出色なのは、主人公の造形。上では“夢を取り戻した男”と描きましたが、実はそこまで割り切ってロマンに燃えているわけでもなく、常に後ろ向きな部分と情けなさを持ち合わせ、事ある毎に落ち込むのですが、同時に土壇場での引きの強さとねばり強さを持っている。基本的には三枚目のムードメーカーというキャラクターながら、優れた観察能力と一種のカメラ記憶的なもの(作中ではっきり言及はされていない、筈)を持っており、地味な能力が地味に活きる、という話運びも秀逸。特に、話が暗くなりそうな所をうまくひっくり返す立ち方が、絶妙。
作者には申し訳ないですが、変にメディア化に引っかかる事なく、地道に堅実に進んでほしいマンガ。
「週刊モーニング」連載中。
J2落ちも経験し、前シーズンも残留争いをするなど、低迷が続くJ1クラブ、ETU(East Tokyo United)。そのチームに、かつての中心選手であり、海外クラブに移籍後、イングランドの5部リーグで監督を務めていた男、達海猛が監督として帰ってきた! 果たして達海はチームを蘇らせ、「GIANT KILLING(大物食い)」を起こせるのか。今、波乱に満ちたETUの新たなシーズンが始まる。
「監督」に焦点を合わせ、「クラブ」という存在を重視した、異色のサッカーマンガ。
今春からアニメ化という事で話題も集まりつつありますが、基本的には展開の地味なマンガな上に着地点がまだ見えてきていないので、ちょっと早くないかな、という気はしないでもない。まあ今時は、そのぐらいの青い時にアニメにしてしまうのが主流ではあるのですが。
例えば普通の少年マンガだったら、「奇跡のリーグ優勝」というのが着地点になるのでしょうが、物語自体がそういう世界観とは思えず(そこが一つ、人気のもとだとも思いますし)、作中でも勝ったり負けたりですし、とても現在のシーズン中に優勝はしそうにない。むしろしたら、マンガそのものが白けそう。
と考えると最低でも2シーズンぐらいの構想はありそうで、現在13巻で最初のシーズンのオールスター中なので、先の長いマンガになりそうな気がしています。勿論、人気商売なので思うように行くとは限りませんが、今の所は順調そうですし。
各キャラクター(選手)の描き方がゆっくりな所も含めて、読者も腰を据えてじっくり付き合うマンガ、という気がするので、もう少し早めに着地しそうという部分では、目下気になるのはサポーター問題。今のペースだと、これを1年目のクライマックスに絡めて、いざ2年目、みたいになるのかなぁと勝手に妄想しています。あと単純に、このサポーターネタ(かつて熱心に応援していたが子供が産まれたり家庭の事情でスタジアムから離れていたおじさん達と、チームの弱小時代を支えてきたという自負を持つ現在のゴール裏での主流派、のすれ違いと反発)をどうまとめるのか、というのは興味深い。
これに日本代表ネタも絡めていたりするので、贅沢なサッカーマンガ、という気もする。
個人的には後藤さんが好きなので、なんとか幸せになってほしいです(笑)
- 『SKET DANCE』(篠原健太)
「週刊少年ジャンプ」連載中。
ボッスン、スイッチ、ヒメコの3人が「スケット団」として校内のトラブルを解決したり、なんでもない日常を過ごしたり、という日々を描く、基本1話完結形式の学園コメディ。どたばた系のギャグが多めですが、いわゆる人情話があったり、時にはシリアスな話もあり、世界観を守った範囲でやれる事は色々やってみよう、といった感じ。
コミックスにおける作者のライナーノートを読む感じでは、お笑いが好きらしく、コントとかシチュエーションコメディをかなり意識してプロットを作っている模様。
正直、絵柄が好きではなくてずっとスルーしていたマンガだったのですが、まとめ読みして、堅実に人気を得ている事に納得。マンガの形式的に“引き”で逃げられないというのはありますが、冨樫『ハンター』を別格とすれば、今ジャンプで一番、話の構成を練っているマンガではないでしょうか。
ぐだぐだで終わる時もありますが、全体的にかなり秀逸な筋立てが多い。
現在の「ジャンプ」の流れ的には、有る程度『銀魂』辺りが開いた道ではありましょうが、この雑誌で10巻以上、学園コメディという基本軸をぶらさず連載続けているのは伊達ではないと、少し感心。
これは今まで軽く見ていた事を、深く反省(軽く楽しめばいいものだ、とはまた別の話で)。
もう一つ付け加えると、例えば『バクマン。』なんかよりも、よほど今作の方が物語と登場人物に対して真摯である、という事は興味深い。
「週刊少年ジャンプ」連載中。
かつて“キセキの世代”と呼ばれた中学バスケット伝説のチーム。あまりに影が薄い為に、もはや特殊能力の領域で“他人に気付かれない”という特徴を持つ少年・黒子は、そのチームの6人目として活躍した。しかし、チームの在り方と相容れないものを感じた黒子は、“自分のバスケ”を求めて、誠凛高校に進学。そこで、アメリカ帰りの超高校級プレーヤー・火神、と出会う……。
主人公の特技が、“死角からの不意打ち”という、やや変化球ながら、全体としては割と王道路線のバスケットマンガ。スポーツマンガの世界観としては、リアルとトンデモの中間ぐらいか。
作者も自分で書いていましたが、とにかく展開が速くてビックリです(笑) 試合に次ぐ試合でどんどん話が進んでいきます。本誌の方ではやっと、展開が一段落した後で初めて、誠凛高校のバスケット部が普段どんな練習をしているか、が語られるというビックリな構成。
今時ジャンプでスポーツマンガをやろうと思ったら、人気が安定するまではこのぐらいのペースでやらないと駄目なのか、という空恐ろしささえ感じます。ただ、そこまでやった甲斐あってか、ある程度のポジションを確保して、物語の展開と合わせて少しじっくりとレベルアップ編を描きそうな感じなので(この雑誌は油断しているとそこで切られますが)、キャラの掘り下げを含めて、期待したい所。
このマンガが偉いと思うのは、ある程度の強さを持った学校なら「努力(練習)しているのは当たり前」という前提がある所。弱小校が強豪校をうち破るタイプのマンガにおいて“弱小校の努力と練習量”だけがクローズアップされて勝因になる事はままありますが、「いや、強豪校だって当然かなり練習しているよね?」というのは個人的に昔から気になる所でありまして、それ以外(以上)の要因を書こう、という意思が作者に見える所は評価したい。
もっともその為に先輩部員ズが最初からかなりハイスペックである事などが説明不足で、コミックス6巻以上の内容をかけてようやくその辺りに触れられるようになったというのはどうなのか、というのはありますが。
絵は基本的に上手くないですが、バスケットシーンは相当練習したようで、動きのある絵にはあまり違和感を感じないのが良い所。代わりに、ただの立ち絵とかが明らかに等身おかしい時とかありますが、描いていれば上手くなりますしね。
コミックスは順調に売れていますし、地道に頑張ってほしい。
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……くしくもなんか、個人的に「地道に頑張ってほしい」マンガが並びましたが、そういうマンガを幾つ揃えられるか、というのが、“雑誌の力”に影響するのかなと思います。ただ今時は、雑誌では地味ながら堅実に人気のあるマンガ、の部数がなかなか増えない(増やせない)御時世なので、メディア展開でジャンプアップ、というのも避けては通れない道になりつつありますが。
さてそろそろ、『GIANT KILLING』(「ジャイキリ」と略すらしい)の置き場所を考えないとなぁ。