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久々に石持浅海2

●『玩具店の英雄』
『月の扉』の探偵役だった通称“座間味くん”が、気の置けない酒の席で警察関係者から過去の事件の話を聞いて、そこに隠された思わぬ真実を解き明かす、というシリーズ短編第2弾。
『月の扉』は非常に好きな長編なのですが、これは出来悪し。
毎回のエピソードは、〔当時の事件現場に居た警察官の一人称による導入→本編の語り手による前振り→事件概要の説明→座間味くんの推理披露〕という形式を取るのですが、まずこの中で〔本編の語り手による前振り〕のシーンがひたすら面白くありません。恐らく、ページ数の決まった雑誌連載形式の都合で、導入・概要・推理、を書いた後、余った紙幅を前振りシーンで埋めているのではないかと思われるのですが、クスリとさせる所があるわけでなく、語り手を魅力的にするわけではなく、飲み会の食事や飲酒シーンがおいしそうなわけでもなく、あまりに力を抜きすぎ。
謎解きの出来は目立って悪くはないものの、うなるほどのものはない、と言った所。その上で個人的に一番引っかかったのは、語り手の座間味くん礼賛が過剰になりすぎて、読んでいて段々気持ち悪くなってくる事。
探偵の推理力を一種のワトソン役が褒めるというのは良くある構図ですし、今作におけるヒーローとして好意的に評価されるのは構わないのですが、推理力とセットの短所、みたいな部分が一切描かれず、語り手がひたすら座間味君を持ち上げ続けた果てに「広く、深い人間力」とかまで言い出すと、さすがに作者が何をしたいのか疑問になってきます(^^;
語り手が個性的だったり魅力的ならまた話は変わりますが、正直、ほぼ三人称の地の文と変わらない語り手なので、語り手個人というより作品世界そのものがひたすら座間味くんを持ち上げるような構造になってしまっており、さすがに行き過ぎ。
あまりに過剰な持ち上げに、これはラストでトンデモないオチが待っているのでは、とドキドキしたぐらい。
誤解を受けないように書いておくと、『月の扉』の座間味くん自体は好きなのですが、今作において語り手から過剰に礼賛される座間味くん(作中で言及された短所といえば、社会面に興味が無い、ぐらい)には、小説の登場人物としての魅力は全く感じませんでした。それは、あの事件から時を経て、“大人”になった座間味くんという作者の意図があったのかもしれませんが、語り手自身の描写(魅力)不足とあいまって、物語を面白くしなかったように思えます。
あ、『月の扉』は傑作なのでお薦めです。


●『届け物はまだ手の中に』


 恩師の復讐の為に殺人を犯した楡井和樹には、警察に逮捕される前にどうしてもやらなくてはならない事があった。それは、同じ恩師を持ちながら復讐を捨てたかつての親友・設楽に、その結果を見せつける事。それで初めて、復讐は完成する。設楽の家を訪れた楡井は、設楽の妻、妹、秘書、の3人に出迎えられるが、何故か肝心の設楽は姿を見せない。楡井は3人の様子に徐々に違和感を抱き始めるが、果たして、この家では何が起こっているのか……?
殺人を犯した男が自分の目的を果たす為に、奇妙な状況の謎解きに考えを巡らせる、という石持浅海らしい回りくどいミステリー。基本、限定された空間で会話劇によって論理的に謎の正体に迫っていく、というのも作者お得意の手法。構造的に著者の傑作『扉は閉ざされたまま』を意識している節が見えるのですが、正直『扉は……』に比べると切れ味は断然鈍ります(^^;
読者に対して納得できる物語の着地点に誘導しつつ、最後にもう一ひねりを入れてくるのですが……
(以下、ピンと来る人には結末のネタバレになる可能性があるので、ご注意下さい)



……あまりに作者らしすぎて、石持浅海を何作か読んでいると、ひねりとして機能していません(^^; ある意味、お約束の安心感が発生しているのですが、ミステリーとしてはそれでいいのか(笑) 作者がそれに気付かないとも思えないので、わざとやっている節はありますが、それもそれでどうなのか。