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大変久々の宮部みゆき

「電車は人間を乗せるものだ。鉄道は、人間と人間を繋ぐものだ。だから鉄道を愛する者は、けっして人間を憎めない」


 花菱英一の家は、写真館であるが、写真屋ではない。
 少々変わり者の両親がシャッター商店街の一隅にある宅地を購入した際、新しく家を建てるのではなく、そこに建っていたもはや資産価値を失っている古い家屋を補修して、そのまま住む事を決めてしまったからである。木造二階建て、元スタジオをリビングに改装された店舗付き住宅――その名を、<小暮写眞館>。
 新しい住まいに不満たらたらながらも新しい生活を始めた英一だが、写眞館が営業を再開したと勘違いした女子高生から、在りし日の写眞館で現像されたらしい、奇妙な写真を押しつけられてしまう。それは、6人の男女と、顔だけの女性が写った、見るからに心霊写真であった……。
成り行きで奇妙な写真の謎を追う事になった高校一年生の主人公・英一を中心に、コドモ人生常勝将軍たる優等生の弟ピカ、親友で天才肌のテンコ、不動産会社の須藤社長に、態度の悪い事務員・垣本順子、などなど、様々な人物が絡み合い、その中でそれぞれの抱える“痛み”が顔を覗かせ、さりげない日常を生きる人々の悔いや救いが描かれていく、そんな物語。
語り口は比較的軽めでユーモアも豊富であり、重苦しい内容ではありませんが、一方で登場人物達の抱える“痛み”は真摯に描かれ、一人の少年の成長を描く青春小説の形を取りつつ、それがただ青春の痛みというだけではなく、“今”の前にも後ろにも伸びている、というのが構造の巧さ。
また、それを彩るちょっと癖のある人物達の描き方が実に鮮やかで、久々に読んだ宮部みゆきは改めて小説が巧い。
もともと非常に好きな作家だったのですが、『模倣犯』を読んでいてあまりに体力を消耗した為しばらくご無沙汰になっており、かれこれ8年ぶりぐらい……?
で、今作(文庫版)の解説に、2010年の著者インタビューが引用されているのですが、それによると作者本人も、『模倣犯』後遺症といったものがしばらくあって、現代もので重い犯罪ものが書けなくなっていた時期があったとの事。
今作はそういった重さから離れた現代小説、という意識があったようですが、全面的に明るいだけの小説ではなく、深く突き刺さってくる要素も散りばめられてはいるものの、読後感は気持ちいい一冊でした。
貧乏くじ体質だったり劣等感を抱えがちだったりしつつも真っ直ぐな気性の主人公は好感が持てましたし、鉄道愛好会の田中ヒロシがとてもおいしい。
著者の作品の中では、『夢にも思わない』『ステップ・ファザー・ステップ』辺りが好きな方は、面白いかも。
そして主人公が高校生繋がりという事で、宮部みゆき作品の中では一番好きな『魔術はささやく』を引っ張り出してきてつい読みふけってしまったのですが、『魔術はささやく』は傑作なのでお薦めです。