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劇場で冒険

※本編最終盤の内容に触れている箇所がある為、ご留意下さい。
◆『轟轟戦隊ボウケンジャーTHE MOVIE −最強のプレシャス−』◆ (監督:諸田敏 脚本:會川昇
見所は、

おもむろにジャケットを脱ぐセクシー担当:伊能真墨
ここぞとばかり明石父を繰り返し「お父様」と呼ぶさくらさん
画面一杯に尻を出すチーフ

……多いな。
プレシャス強奪もとい回収に成功して特別休暇でも出たのか、プールで遊ぶボウケンジャー一同。菜月がチーフの腕時計をプールに落とし、それを拾いに格好良く飛び込むチーフだが、時計は排水溝の隙間をくぐってしまい、水中で「ぶほはぁ?!」という顔になって冒頭から笑わせに来ます。
「ようやくまた、新たな命が満ちた」
その時計の針が刻む音に合わせ、円盤の上で回転する謎めいた少女が姿を見せ、時計盤の秒針の回転とイメージが重ねられる事で、少女の非人間的な雰囲気が鮮やかに強調。
「強き方達へ。世界中の、強き方達へ。メッセージを送ります。私は、ミューズ」
そして激しい地割れが道路を襲い、様々なTVなどに少女の姿が浮かび上がってメッセージを世界に伝えると、市街地に突如として巨大な山が出現する……と興味を惹く謎と派手な破壊を畳みかけ、これが映画だ! という大仕掛けが冒頭に展開。
「強き方へ。素晴らしい古代の宝を受け継いで下さい。私たちの文明の遺産――プレシャス。強き方達よ、私は、あなた達を待ってます」
某理央様を大変刺激しそうなメッセージを耳にし、我こそはと集うネガティブ達。
「ゴードム文明が再び地球を支配する為、古代の宝とやら、私がいただくぅぅぅ!」
「ガジャ! 今日こそジャリュウ一族の、邪魔はさせん!」
「プレシャスはダークシャドウがいただく」
「ゲッコウ様、お願い!」
ゲッコウ様は再生ツクモガミ軍団を出現させて出番を確保し、相変わらずハイスペック。
「宝などに目の色変えて……ふん」
その戦いを見つめるのは、まるっきりインディ・ジョーンズな見た目の中年男性(特別出演:倉田保昭)……この時点ではまるっきり謎の男なのですが、ネガティブ出現のシーンでゴードム兵に襲われそうになった子供を助けているシーンが挟まれる事で、立ち位置が示されているという誘導の仕方が巧みで、映画への造詣も深い會川さんの引き出しの多さと、それを汲み取った諸田監督の演出による、映画的な構成と絵作りが冴え渡ります。
そしてプレシャスを巡る仁義なき戦いの最後に姿を見せたのは、第4のネガティブ、じゃなかった、対立組織を次々とネガティブ認定して社会的に抹殺を図る事でお馴染みの……
「ネガティブシンジケート、大集合か」
「大人しく帰った方がいいよ」
「プレシャスは悪い事になんか使わせない!」
「私たちが安全に保護します!」
轟轟戦隊ボウケンジャー
TVシリーズ放映中の番外編的劇場版、というのはどうしても、現在進行形で本編を見ているか、本編とは別に後から見るか、で視聴体勢と印象が変わってしまいますが、今作はアバンタイトル部分のここで、「ああ、ボウケンジャーだなぁ(笑)」と思えた事で、作品世界に入り直す強烈なフックになってくれました。
この、「ああ、○○だなぁ」とどこで思わせるのかが、映画の独立性としては大事なのだな、と。
「ネガティブを倒し、プレシャスを回収する。行くぞ! Ready! ボウケンジャー!」
「「「「「スタートアップ!!」」」」」
で3ネガティブとボウケンジャーの戦闘が始まり、タイトルを挟んで、キャスト&スタッフクレジットを入れながら主題歌をバックにまずは掴みの派手なバトル(なおクレジットで戦隊メンバーのスーツアクターが表記されており、珍しい印象)。
・吊られるガジャ様
・しれっとトカゲ兵とゴードム兵に命令を出すシズカ
ビークルと関連した水属性の戦闘技術を見せるパーフェクトソルジャー・ボウケンピンク
・どさくさ紛れに今日も宿敵にぶったぎられる陛下
と、それぞれ見せ場の用意された集団戦から、クライマックスシュートでまとめて吹き飛ばされてネガティブは退場し、やられ役ではありますが印象的で、絶妙な使い方。
「ミューズの元へ急げ。アタック!」
ところが5人は、背後からぶちこまれたミサイルを受けて変身解除に追い込まれ、そこに現れたのは大地を踏み鳴らす巨大ロボ。
「ひゃはははは、どけどけ〜、邪魔だ邪魔だ!」
「クエスター!」
……あ、忘れてた(笑)
だがクエスターというネガティブが増えたなら、ボウケンジャーにもあの男が増えていた! 地平線の向こうから唸るサイレン、光るパトランプ! 駆けつけたボウケンシルバーがサイレンビルダーでクエスターノコギリロボを食い止めている間に、改めて謎の岩山へとアタックする5人。だが妨害はまだまだ終わらず、山腹をクライミング中にあのインディ・ジョーンズな見た目の中年冒険者が姿を見せると、なにやら既知の関係らしいチーフを足蹴にして先へ登っていってしまう。
その頃、岩山の形状にどこか見覚えを感じていた牧野先生は、「恐竜を滅ぼした最強生物」という本の中に、そっくりの図画を見つける。その本の著者の名は――明石虹一。
「いつか、自分だけの大切な何かを見つけたい、か」
崖を登り切ったボウケンジャーを余裕綽々で待っていたのは、チーフの愛好するフレーズを口にした謎の中年冒険者
「いつまで経っても見つけられないのは、何が大切かわかってない証拠だよ坊主」
「坊主坊主って、なにこのおじちゃん」
「自己紹介、していただきましょうか」
「俺の親父だ」
「え?」「親父ぃ?!」「お父様?!」「てことは」
「おう、ずんちゃ、てのやってんだろ?」
ボウケンジャーだ! それにもう俺は坊主じゃない!」
「泣き虫坊主は、卒業したのかな?」
「なにぃ?!」
飄々とした態度を崩さない父親に敵愾心剥き出しで突っかかるチーフだが、そこに現れる、しぶとく生き延びていたトカゲ兵士とゴードム兵、そして、謎の少女ミューズ。
「強き方達よ。宝は最も早く、私の元に辿り着いた方に差し上げます」
一同まとめて穴に落とされると、落ちた先は何故か嵐の海の真っ只中で、大渦に飲み込まれそうになりながら何とか5人は岸に辿り着き、水に濡れるとなんとなく心配な具合になるチーフの頭髪(え)
「おじちゃん、じゃない、チーフのお父さんは?」
「あいつはそう簡単には死なん。明石虹一は」
「……伝説の、UMAハンターですよね?」
不滅の牙の父親もまた、世に知られた冒険者であった……が、何やら父親と軋轢があるらしいチーフは、菜月にも声を荒げるなど心穏やかならぬ様子を見せる。……本編最終回まで見ていると、チーフの器が割と小さいのは平常進行なのですが、劇場版公開の頃だと、まだ、これは珍しいリアクションだったのでしょうか……?(笑)
その頃、クエスターノコギリで真っ二つにされそうになっていたサイレンビルダーは、牧野から仲間の危機を知らされると起死回生の放水からトリプルリキッドボンバーで逆転勝利を収め、早い登場から前半の内にロボ戦で見せ場を一つ、と追加戦士の活躍シーンも至れり尽くせり。
一方、山脈内部の5人は熱砂の砂漠を横断中で、本編の傑作第4話で印象深いしりとりネタを挟みつつ、水を欲しがる菜月に蒼太が水筒をプレゼント。
「大甘だな」
「女の子には優しくしなきゃ」
この後、本編の方では色々アレな事になる蒼太さんなので、女の子への優しい対応とやらに、視線がどうしても生暖かくなります。
「チーフ、チーフはお父さんが嫌いなんですか?」
そこから、蒼太がかなりストレートな質問をチーフにぶつけるのは、大人の距離感を持ったボウケンジャーとしては少し違和感がありましたが、これは映画の尺の中で親子の関係を収める為に、致し方なかったか。
「……「人間は愚かだ」。それがあいつの口癖だ。そんな愚かな人間の作ったプレシャスなんか、価値が無いと言っている」
「でも結局、チーフも同じ冒険者で」
「違う! ……俺は人間が好きだ。愚かだと思わないし……プレシャスは人間の叡知だ……。あいつとは、別の道だ」
父親への反発をチーフが示して父子の間にわだかまる問題が示されたところで砂漠に突如、炎が走り、落とした水筒を拾おうとした菜月と、それを助けようとした蒼太がリタイア。……事態が深刻な一方、強風の中でダッシュした影響か、チーフの髪が全て四方八方に広がって、大変面白い髪型に。
砂漠地帯を抜けたチーフ・さくら・真墨の3人は、鬱蒼とした森の中で明石父と再会し、明石父がこの地を訪れた目的である、恐竜を絶滅させた生物とされる謎の甲虫を捕獲する姿を目撃。
「坊主は帰れ!」
「帰らない!」
掴み合い寸前の明石親子に向け、
「俺には……親が居ねぇからよくわからねぇけど、親子って」
と、何かいい事を言おうとした真墨、会心のタイミングで虫に捕まる(笑)
この劇場版では比較的地味な扱いの真墨なのですが、このワンポイントで凄まじい存在感を出して凄いぞ真墨。
続けて、多脚系の昆虫が苦手? と今作だけの弱点を覗かせたさくらも明石父をかばって虫に捕まってしまい、残った父子はワイヤーを使って辛くも脱出。次々と仲間を失いながら、頑なにミューズの元へ向かおうとする息子に父は強く憤る。
「自分にとって、いや、人間にとって本当に大切なものが何か……わかっちゃねぇんだよなぁ。人のこざかしい知恵で作られたプレシャスよりも、大事なものがあるんだよ!」
宝の地図に盛り上がった勢いで、部下を騙してソロプレイでお宝を巡る冒険を独り占めしようとした過去が、重くのしかかります(笑)
「人は愚かだ。……あいつもそうなってしまったかぁ……」
父の嘆きを背に受けながら、洞穴の奥へと辿り着いたチーフは、円盤上で回転するミューズと遂に対面。
「ようこそ、最も強い方。あなたを待っていました」
「ここはなんなんだ? 君は何者だ?」
「私は、星から星へと旅をして、強い生物を見つけると、その遺伝子を取り込んできました。――宇宙最強の生命体に進化する為に」
「君が恐竜を滅ぼした……? じゃあ君のプレシャスとはなんだ?」
「……長い間、より強い戦闘生物の誕生を待っていました。そして、やっと見つけました。……あなたがプレシャスです」
チーフ、遂に、他人からプレシャス認定を受ける(笑)
そして不滅の牙は宇宙レベルで見てもちょっとヤバめの戦闘生物であった!!
「…………やはりそうか。全ては強き者を見つける為の、ゲームだったんだな。俺の仲間はどうした?!」
さすがにこのカラクリを類推しており、“仲間を助ける”為にこそ急いでミューズの元に辿り着こうとしていたチーフに対し、ミューズがニヤリと笑うと気絶して囚われの仲間達(とトカゲ兵士とゴードム兵士)が姿を見せる。
「私たちが一つになった時の餌よ。……さあ、一つになりましょう。そして最高のプレシャスになるのです」
押し倒されたチーフに無表情にミューズの顔が迫り、起きて! さくらさん、起きてーーー!!(笑)
「悪いが俺のプレシャスは、仲間だ!!」
「なんだと?」
絶体絶命のチーフの一喝にミューズが動きを止めたその時――
「なんだ、わかってるじゃねぇか」
いつの間にやら部屋の中に入り込んでいた明石父が仲間達の拘束を解き、その隙を突いてミューズの顔面に膝を叩き込んだチーフも脱出。
「人間は愚かだ」という明石父は実は、「人間」をこそ大切に思っており、だからこそ「人間」よりも「物」を大切にしてしまう「人間」を許せないでいた、という真実が明かされ、本当に大切なのは「人(の心)」か「物」か? という本編のテーマと接続しながら、実は同じものを見ていた明石父子の道が、鮮やかにクロス。
「一つになるのだ……そして進化するのだ。最強の生命体に」
「俺が見つけたかったのは……あんな愚かな生物か」
チーフから痛烈な拒絶を受けたミューズは、白銀の昆虫人間(声:飯塚昭三)へと変貌し、手をわきわきさせながらめげずにアプローチ。
「暁!」
「親父ぃ!」
「よっしゃ!」
対して親子は心を一つにファイト一発連携を炸裂させて昆虫人間を機械に叩きつけ(ここでトカゲ兵とゴードム兵を巻き込んでいるのが手堅い演出)、目を覚ました仲間達と共に脱出しようとるすが、洞穴の天井を走って回り込む昆虫帝王。
「最強の遺伝子、絶対逃がさん!」
そこに天井を突き破って映士が増援に駆けつけ、明石父が牧野先生&ボイスと旧知という会話でアクセルラーの機能回復が判明し、苦しい盤面に光明をもたらす追加戦士の劇的意味と、映士のキャラクター性の双方が活かされ、変身可能シークエンスのわざとらしくならない見せ方が鮮やかでした。
「見せてやるさ、人間の本当の強さを!」
並んで変身してフル名乗りを決め、物凄く光る6人。

「果てなきボウケンスピリッツ!」
「「「「「「轟轟戦隊ボウケンジャー!!」」」」」」

一気呵成に反撃に出るボウケンジャーだが、そこは一応、宇宙最強の生命体を目指す昆虫帝王の奇妙な歩法と腕の捌きに翻弄され、戦闘力の高さを見せるシルバーが浴びせた一撃から連続攻撃を仕掛けるも、範囲攻撃を食らって壊滅寸前(恒例)。
「私に逆らうとは愚かな人間ども」
「……負けてたまるか……! 俺は、ボウケンレッドだ!!」
だが不滅の冒険スピリッツで立ち上がった赤が父譲りのロープ術で油断した昆虫帝王の動きを封じると、ワイヤー巻き取りの加速一閃でクリティカルヒットを叩き込み、やや急な逆転劇ではありますが、最後、自己肯定力で勝つのが凄くボウケンジャーです。
弱った昆虫帝王にデュアルクラッシャーとサガスナイパーの同時必殺技が直撃し、呆気ない最期となった最強生命体ですが、敗因は一つ――
他人の遺伝子を求める時点で、自己肯定力が足りない!!
明石父に力を認められつつ脱出に成功するボウケンジャーだが、その背後で岩山が崩れると、昆虫帝王の本体といえる巨大な宇宙船が姿を現し、蛾のような羽を広げた昆虫帝王は、地球人のボウケンスピリッツに雪辱できる遺伝子を求め、別の星を目指して飛び立とうとする。
「最強生物を産み出す為、送り込まれた宇宙船。あれが本体だったのか……」
「ハザードレベル、無限大?!」
「危なすぎ!」
自ら「使命」と口にしているので、どうやら昆虫帝王(ミューズ)はプログラムされて宇宙にばらまかれた存在ではないのか、というのが示唆されつつ(最も、送り主の文明は既に滅びている、という可能性もまたありそうですが)、サナギから成虫と化した巨大昆虫帝王を食い止めるべく、シルバーに災害救助を任せて、ゴーゴービークル全車発進。
開幕のアルティメット飛び蹴りが直撃したと思ったのも束の間、鷲掴みにされて危機に陥るダイボウケンだが、「まだ最後の手がある!」と1人ジェットに乗り移った赤は、敢えてアルティメットフォーメーションを解除すると、6−10までの追加ビークルを合体させる裏技、ボウケンフォーメーション2を発動。
「父さん……これが俺の冒険だ」
格好良く宣言するチーフですが、この局面で口にすると(前例もあるだけに)一か八か爆発の危険性を顧みずにぶっつけ本番で合体するのが俺の冒険という事になるけどそれでいいのチーフ?!
チーフの趣味嗜好に関する若干の疑惑が生まれつつも、幸運判定に成功したチーフは裏モードのダイタンケンを完成させ、早速ドリルをレンタルする事で窮地を脱したダイボウケンと揃い踏み。
ロボ重視かつ追加ビークルにドラマ性を与える事にこだわってきた今作らしく、劇場版スペシャルロボをあくまで既存ビークルのバリエーションに設定した上で組み替えギミックも活かし、一か八かの裏モードというスペシャル感もしっかり付与から、二大ロボとして並べてみせる、という隙の無い構成がお見事。
二大ロボは巨大昆虫帝王の胴体上を走りながら連続攻撃を浴びせ、トドメはダイタンケン謎のヘッドアタックでグッジョブ!
……何を、つけているんですか、牧野先生。
ゴーゴージェットって単体の時、コックピットどこについていたっけ……とうそ寒い思いに囚われつつ、断末魔の叫びをあげて虚空で崩壊する昆虫帝王。その大爆発を背に、地上へ向けて手を繋いで飛び降りる二大ロボは背後からの爆炎に包まれるが……空中アルティメットフォーメーションによってアルティメットダイボウケンとして平和の戻った街の上空を飛翔するのであった。
爆発から脱出→炎に包まれる→無事に帰還、というのは冒険アクション物(など)のストレートなオマージュでしょうが、これをロボットでやった事と、アルティメット→二大ロボ→アルティメット、とする事で、開幕のキック以外見せ場の無かったアルティメットダイボウケンにしっかり意味を持たせ、改めて全員で帰還させているというのが、オマージュであり定番ネタを、しっかり『ボウケンジャー』として仕立て直していて、実にお見事。
災害救助を名目にラストバトルからは外されてしまったシルバーも、爆発を見上げる姿がワンカット挟まる事で、帰還を待つ者の役割が与えられており、全方位ぬかりがありません。
……地上の人々の「ありがとうボウケンジャー」は、サージェス財団が用意したプロパガンダさくらに見えて仕方ありませんが(笑)
息子達の勝利を見届けた明石父は、倒壊した建物の中で、落ちていた時計を発見し……――全てが一段落すると挨拶もなく姿を消していた父親に憎まれ口を叩くチーフの背中には、いつの間にやら虹一からのメッセージが貼り付けられていた。


暁、私はとっくに大切なものを見つけている
お前はまだまだ探してみろ
「なに考えてんだあいつは」
「これって、チーフを認めて下さったって事ですよ」
「うん、チーフに頑張れって言ってる」
背中を向けながらも、くすぐったい顔になる不滅の牙。
「きっと、お父様にとってのプレシャスは」
さくらの台詞に合わせて、メモの裏側がセピア色の父子の写真であった事がカメラに向けて示される(さくらは気付いて言ったわけではない)、という見せ方が絶妙。
そんな光景を知ってか知らずか、船に乗って去って行く明石父の腕には、チーフが大事にしていた腕時計が。
「暁のヤツ……こんな物、まだ持ってやがったのか」
親子はお互いが捨てていなかった繋がりを確認、交換し、写真に気付いたボウケンジャー達のドタバタでエンド。
………………ところでお父さん、その袋の中には、山で捕まえた最強昆虫が入ったままなのでは。
あの一匹が最後の昆虫帝王とは思えない、第二第三の昆虫帝王(CV:柴田秀勝加藤精三……)が……というのが真のオチなのではオチなのかもしれないまちょっと覚悟はしておけ。
冒頭の大仕掛けの見せ方に始まって、戦隊夏映画の様々な制約は制約とした上で、「映画」をやる! という事へのこだわりが随所に溢れ、TV本編の要素を十全に取り込みつつ如何に単独の番外編として成立させるかを計算した會川脚本、それを汲み取って映画的な絵作りを仕掛けると同時に、随所にコメディチックな箇所を挟んで飽きさせない諸田監督らしい演出がバッチリ噛み合って、非常に面白かったです。
特に、長めの尺を意識した笑いどころの配分と、満遍なく散りばめられたアクションシーンのバランスはお見事で、30分強の中で非常に綺麗にまとまった一作でした。
本編登場前の制作でキャラが固まってないなど、諸事情で夏の劇場版では不遇な扱いが目立つ追加戦士も、早めの登場から十分な見せ場が与えられ、性格にも違和感が無いと、不満のない扱いだったのも秀逸。
TVシリーズ含めて諸田監督の演出作品として、屈指の名作になったと思います。
ここから少し、本編最終盤の内容に触れる余談になりますが、この劇場版を踏まえた上で考えると、最終決戦における竜王陛下というのは、冒険者の暗黒面に堕ちた不滅の牙であると同時に、愚かな人間を見限った明石虹一でもあり、チーフのみならず、明石父子の鏡面であったのだな、と。
では明石父と竜王陛下を分けたのが何であったのかといえば、愚かな人間に絶望して人間を辞めようとしたのが陛下であり、愚かな人間に希望を持って人間であり続けたのが明石父であった、と。
そしてその決定的な分岐点の象徴となるのが、明石父にとっての継承者である明石暁であり(同時にこれは、香川先生が生んだ英雄を目指した子供達も示す)、まさしく「お父様にとってのプレシャス」=希望=明石暁、という構造の駄目押しが浮かび上がってきます。
そしてそう見ると、TV本編だけだと若干こだわりすぎに見えた、チーフの竜王への再三の説得、ギリギリの瞬間まで200年前の男に手を伸ばし続けたのは、チーフにとってあの男は、自分自身の影というばかりではなく、明石虹一でもあったのだ、という事で非常に腑に落ちました。
結局、影の父との神話的合一は果たされなかったわけですが、物心両面における「継承」というのが今作の主要なテーゼの一つだと考えた時、人は何を受け継ぐのか(子から見た親)、と同時に、人は何を遺せるのか(親から見た子)というのが劇場版を包括したテーマとして見えてきて、その上で、必ずしも血統に限らず、香川先生のような遺し方もある、と示唆されているのが、今作の心憎い構造であり、作品を貫く願いと祈りに思えます。
……ところで更に蛇足気味の与太になりますが、最強の遺伝子を求めるミューズ、というのを背景として、継承の物語としてこの劇場版を見た時、

暁、私はとっくに大切なものを見つけている
お前はまだまだ探してみろ
明石父がとっくに見つけていて、不滅の牙がまだまだ探さなくてはいけない「大切なもの」とはなんなのか……それは既に互いにわかりきっている「仲間」とは別のものであるならば、読み上げるのがさくらさんというのはなかなか思わせぶりに感じるわけでありますが、さて……頑張れさくらさん! 宇宙の果てまで追いかけろ!!
というところで、なんだか綺麗にオチた気がするので、『轟轟戦隊ボウケンジャーTHE MOVIE』感想でした。