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『FLASH』第23話「過去との決別」(「Fast Enough」)感想(かなり長い)

「いつか母さんを殺した犯人を見つけて、父さんの無実を必ず証明してみせる。――今日がその日だ」
ロニーはさくっと帰っていなくてホッとしました(笑)
そして、かなり好きなキャラであるシュタイン教授が大活躍で嬉しい。まあこれも、新ドラマの関係はあるのでしょうが、なんでもかんでもシスコが理解してしまうより、教授が解説する方が説得力も増しましたし。
それにしてもファイアストームは前回ラストで、リバースが倒れた途端に「じゃ、録画したドラマがあるから」みたいなノリでフラッシュの肩を叩いて画面外へ走っていっていたのですが、アローに釣られて帰りそうになって、途中で引き返してきたのか。
そんなアローとファイアストームの協力もあり、遂に母の仇であり父の冤罪の原因でもある、ハリソン・ウェルズ/リバース・フラッシュ/イオバード・ソーン、をパイプライン刑務所に閉じ込める事に成功したバリー・アレン/フラッシュは、ガラス越しにご対面。
この“ガラス越しの対面”というのが、バリーと実父ヘンリーとの関係性になぞらえているように見えるのは、なかなか面白い。
そして――最後まで最高に気持ち悪い博士による、最終回、怒濤のスーパーどん引きタイムが今始まる!
「手ぶらか? ビッグベリーバーガーは? この時代の唯一の楽しみだった」
早速、もうこいつ、泣いたり笑ったり出来なくなるまで殴りたい、という顔になるバリーだが、自制して話を進め、イオバードが136年後の生まれであるなど、色々一気に種明かし。
「ある未来で、我々は、敵となる。ライバル、宿敵、逆の存在だ」
「どうして? なんで敵になるんだ?」
「どうでもいいさ。……もう、今となってはな」
未来での両者の関係は濁されるのですが、バリーは自分(?)が、推定約180年後の世界でもヒーローやっている事に、もう少しツッコめ(笑) まあ、2024年のクライシス消失とか間にありますし、時空を越えたり吹っ飛んだりに関しては、もはや何でもアリではありますが。
同レベルの能力を持った存在による決定打の無い互角の戦いが続く中、フラッシュの真の名を知ったリバースは、過去のバリー・アレンを殺す事でフラッシュを倒そうとタイムトラベルを敢行するが、同じく過去へタイムトラベルしたフラッシュの妨害を受け、作戦失敗。そこで一計を案じたリバースは、幼いバリーに重いトラウマを与える事で、フラッシュになる可能性の芽を摘もうと、ノラを刺殺。わざわざナイフでノラを刺し殺したのは、嫌がらせの一貫であると判明しました。
だがその後、未来へ帰ろうとしたリバースは、タイムトラベルの影響?で体内のスピードフォースを失ってしまい、時の虜囚となってしまう。
「自分が居た時代に戻る、唯一の方法は……フラッシュだった。だがもうフラッシュは誕生しない。だから――作り上げた」
「……僕を訓練したり、大勢の命を救う手助けをしたのはどうしてだ」
「速くなってもらう必要があったからだっ。超高速で、おまえが走って、時空間バリアを破り安定したワームホールを開けられたら、それを通って、私は帰れる!」
かくしてリバースは、自分の世界へ帰る為に自分の仇敵を育成しなくてはならない、という厄介な因果に巻き込まれ、ハリソン・ウェルズに成り代わると粒子加速器を作成。意図的に事故を引き起こす事でダークマター波をばらまき、人為的にメタヒューマンを生み出すとバリー・アレンをフラッシュとして鍛え上げたのだった。
「おまえになんか協力しない」
「するさ。バリー・アレン、私に協力すれば……――君の願いはかなう。過去に戻って母親を助けられる。父親も刑務所に入れられる事はない。そして、君は家族と幸せに暮らせる」
「……嘘だ。そんなの信じない」
ニヤリと笑う博士に激昂して、ガラス戸を叩くバリー。
「今すぐお前を殺したい」
「気持ちはわかる。私も君を見る度に怒りを感じてた。だが、今は……ジョーやヘンリーと、同じ気持ちだ。……君を誇らしく思う。息子のようにね」
ひぃーーーーーーーーーーーーーー。
「やめろ! そんな事は二度と、僕に言うんじゃない!」
「怒るのは当然だ。だが私はチャンスを与えてる。私が台無しにした、君の人生をやり直すチャンスだ。ものにしたくはないか?」
前回ラストで意外とあっさり倒れたリバースには何か裏があるのかと思ったら、閉じ込められた上でなお余裕たっぷりで、物語当初からの、バリー個人の最大の目的を天秤の片方に乗せて取引を持ちかけてくる、という少々意外な展開。
いや、博士としては充分筋が通っているのでしょうが、最終回はもっと派手に展開するものと思い込んでいたので、8割方会話シーンで展開する作劇はビックリでした。
それが面白くないかといえばそんな事はなく、<シーズン1>集大成としてしっかり面白いですし、思えば前回、キャストもアクション(演出効果)も心配になるぐらい山盛りだったのは、最終回がこういう作りになるからだったのか、と納得。
「滅多にないチャンスだ。間違った過去を正すとはな。それに、母親も助けられる。ウェルズはなかなかのパラドックスを提示してきな」
だがそれには、15年分の出来事が変わるリスクをともなう。
「今とは全く違う人生になるが、君がその事を知る事は、決してない。前の人生の事は忘れてる」
「……こういう事? 母さんは殺されないし、父さんも捕まらないけど……ジョー達と暮らす事もない」
「俺と会う事もないかも。ケイトリンとも。ロニーとも」
「そうだな。君の人生がどうなってしまうか、やってみないとわからない」
「……迷う事は無い。やるしかないだろ。過去を変えるんだ」
心の揺れるバリーの背中を押すジョー。
「お前が、両親と暮らせるチャンスだ。母親も側に居てくれる」
「でも、父親が側に居なくなる」
「父親は居るさ。本物のな。ウェルズは、俺達の人生を弄んだ。お前がフラッシュになったのは、この状況を、収拾する為だ。この1年でおまえは何人も助けた。今度は、自分を助ける番だ」
迷えるバリーは、刑務所で実父にも相談するが……
「駄目だ。……やるんじゃない」
ヘンリーはハッキリと、過去を変えようとする試みを制止する。
「だけど、母さんを、助けられる」
「リスクはあるだろう? 過去を変えた事で、おまえが変わったら、どうする?」
「変わったっていい」
「駄目だ」
ここでバリーが言葉に詰まるのが凄くいい。
「私は、本当に、嬉しいんだ。お前がこんなにも、素晴らしい存在になって。これからも、そうあり続けるだろう。フラッシュとしてだけではなく、バリーとしてもだ。誠実で、優しくて……いつもヒーローだった。母さんも、誇りに思ってる筈だ。もし母さんがここに居たら、きっと止めてる。今の特別な貴方が少しでも変わってしまうなら、私を助けないで頂戴って、そう、言う筈だ」
父の言葉に、男泣きにくれるバリー。
「バリー、お前に望むのは……父親が、息子に、何よりも望む事だ。いつか、お前にも、父親になってほしい。それだけだ。そうすれば、理解できる。……私がお前の事を、どれだけ、愛してるか」
歴史改変要素が入った所で、過去を変えられる力を得た者が、それを変えない事で“今の自分”を肯定する、というのは定番のテーゼでありますが、とかく自己否定の傾向が強かったバリーが、フラッシュとなり、仲間を得、人々を助け、自分自身を少しずつ受け入れられるようになっていき、アイリスの件を除けば見ていて好感度も高い、そんな23話分の積み重ねの末に、改めて父親から、「今のお前が最高なんだ」と肯定される、というのは美しく決まりました。
バリーは認められ、そして、変えなくてもいいと許される。
ここ数話、全く出番の無かったお父さんが最終話でしっかり、抑えるべき所を抑えてくれたのも良かったです。
一方スターラボでは、ロニーがセントラルシティに残る事を決断し、ケイトリンに改めてプロポーズ。
「最近はあいつが居るけど、俺には君が必要だ。じゃないと俺は、俺じゃない」
気を遣っているのか準備に夢中で気付かないだけなのか、ガラス越しに隣の部屋でうろちょろしているシュタイン教授がおいしい(笑) なおクライマックス手前で、そのシュタイン教授を司祭にして、晴れて二人は結婚。ED映像に使われていた指輪を渡すシーンは、回想シーンの可能性も含めて誰と誰なのか気になっていたのですが、まさかのロニー&ケイトリンでした。
父の言葉にますます悩めるバリーは、いつもの屋上でアイリスと遭遇。
「……やるつもりなの?」
「…………あまりに大きすぎて、わからない」
お父さんの振り→ロニーのプロポーズ→過去を変えても私たち結婚するのかなぁという正直どうでもいい話、と一つの要素をきっちり繋げてくるのは今作らしい話運びで、これがクライマックスにも効いてきます。
「君とジョーと暮らして……最高の人生を送れたんだ」
ここでバリーが、改めて、“今”を肯定してくれたのもまた良かった。
「私もそうよ」
「どうすればいいと思う? 誰かに教えてほしい」
「……じゃあ教える。貴方はいつも人の事を優先してる。今は貴方の気持ちを考えて。自分の心に従うべきよ。貴方がやるべき事をやればいいわ」
ジョーもアイリスも、ヒーローとして多くの人を助けてきたバリーには見返りを得る権利がある、というスタンスなのですが「いつも自分の事を優先して、自分の気持ちだけしか考えず、自分の心に従ってやりたい事をやる」って、凄く、アイリスの生き様デスネ。
決意を固めたバリーは、再び博士の下へ……て誰だよ、ビッグベリーバーガー差し入れしたの?!
「あ〜……来たか。予想が外れた。私の予想より1時間長く悩んでた」
「まずは(殴りたい)、どういう(殴りたい)、プランなんだ(全力で加速つけて殴りたい)。おまえの、壮大な計画は」
ウェルズは、再起動した粒子加速器の中で、フラッシュと陽子を衝突させる、という計画を明かす。
「もし十分な速度で、君と粒子が、衝突すれば、それによって時空に、穴を開ける事が出来る筈だ。穴は別の時空に繋がっていて、通ればここから、別の時空に行ける」
「……ワームホールか」
「つまり、君は過去に戻ってお母さんが亡くなった夜に行けるし、私はうちに帰ることが出来る。未来にだ」
ワームホール発生の為にフラッシュに求められる十分な速度――Fast Enough――は、マッハ2。
「お願いしたい事がある」
「へえそう? 何しろって? みんなはどうか知らないけど、君が死ぬかもしれないのにお願いなんて絶対聞くもんか」
「タイムマシンを作って」
「……聞こうか」
シスコが不機嫌なのには、両親を救いたいという気持ちはわかるけど俺達と君の友情が消滅するかもしれない可能性についてはどう思ってるわけ、という部分も入っているのかと思うのですが、それはそれとして、未知の科学の誘惑にあっさり翻意してしまうのが、どこまでもおいしい(笑)
シスコとロニーは、スピードフォースを失い速度をコントロールできないウェルズの為のタイムマシン制作に取りかかり、設計について博士に相談しに行くシスコ、リバーススーツの指輪圧縮技術が気になって仕方ないと、どこまでもブレない。
「俺達もちょっとは使えた?」
「勿論君には助けられてた。……ロニーにも。加速器を、作り直した時、君が居たら楽しいだろうなって、いつも考えてたよ」
ひぃーーーーーー。
「本当に言いたい事はないんだな?」
「何言えって言うんだよ?!」
「私に聞くな! 君なら少しは私の気持ちがわかるだろう。こんな野蛮な時代、私には、ふさわしくない。死人と暮らしてるようだ」
立ち去るシスコを引き留めた博士が、設計図を放り投げて珍しくストレートに声を荒げ、さすがの博士も多少は、この時代に共感してくれる相手が欲しかったという描写。まあそれも、博士の身勝手に過ぎないのですが。
「俺を死人だと思ってるから、殺したってわけか」
「…………今……なんて言った?」
ウェルズにぐさっと殺された、上書きされた時間の記憶を告白するシスコ。
「シスコ…………残念だ」
シスコの話を聞いた博士は、シスコが別の時間軸の記憶を保持しているのは、ダークマター波の影響を受け、揺れ動く時空間を見通す力を得た為だと指摘。
「…………どうせそれも嘘だろ? ……違うね。……嘘だ」
「怖がらなくてもいい。素晴らしくて、名誉な運命が、待ち受けてる。冒険の人生だ。その冒険を君に与えたのが……誰だったか忘れないでくれ。愛を持って、君に与えた」
ひぃーーーーーーーーーーー。
今後使う予定があるのかどうかわかりませんが、シスコが上書きされた時間の記憶を持っていたのはかなり都合が良すぎたので、そこに一応の理由付け。博士の「残念だ」発言と、「名誉な運命」「冒険の人生」が微妙に噛み合っていない気はするのですが、これはあれか、揺らぎの影響を受けやすい時空ワープ体質とかになってしまって、性格によっては楽しいけど平穏とは無縁な人生になってしまうという事か。
どうしてまた、タイムマシンの素材がどうとかいう話に尺を割くのだろうと思ったのですが、今後への布石を置きつつ、ウェルズを腐れ外道の極悪人だとは思いつつも、どこか親離れし切れないシスコの微妙な感情を拾ってくれたのは良かったです。
その頃ラボのセンタールームでは、応援に駆り出されたやさぐれエディが、シュタイン教授と出会っていた。
「念のため居るようにってジョーに言われたけど、邪魔なだけですね」
「この世に邪魔な人間なんて居やしないさ。誰だって意味があって存在してる」
「俺は違います。未来から来たウェルズが言ってたんだから、確かです。俺はヒーローにもなれないし、好きな女も取り逃がす」
「どうして、彼を信じるんだ?」
「2024年の新聞を見せられた」
「私は、“最高のボス”って書いてあるマグカップを持ってるが、それを私のアシスタントに見せても信じてはくれないぞ」
なんか違わね? という顔になりつつ、教授の話に耳を傾けるエディ。
シュタイン教授は今回の非常に便利な解説キャラなのですが、それ以外の要素もしっかり持たせて物語の中に組み込んでくるのが、手抜かりのない作りです。
「今、ここでは最先端の科学で、タイムトラベルを実現しようとしている。だがそんな事よりソーンくん、君が、最も興味深い研究対象かもしれん」
「俺が?」
教授は、イオバードが自身にとって7代前の曾曾曾曾曾祖父にあたるエディと同じ街で生活する羽目になった事、フラッシュを育成する過程で共に事件に関わり、自身の存在を守る為にエディの命に注意を払わなければならなかった事など、現在の極めてねじれて、微妙なバランスの上に成り立っている状況の中心近くに、実はエディが居る事を指摘。
「つまり君は、君は、科学では作り出す事ができない、非常に珍しい現象なんだ」
「現象?」
え、俺もの扱い? 無意味な存在とどっちがマシ? という表情になるエディだが……
「偶然だ。偶然は、科学じゃ、予測できない。ソーンくん、君はアノマリーだ。あー、いってみれば不確定要素だ。普通じゃ知れない自分の未来を知っている。その運命を、変える事だって出来るんだ」
そこに存在しているという事そのもの、の価値を教えられ、目を見開く。
ジョーさえ救ってくれないエディにシュタイン教授が光をもたらすというまさかの展開ですが、日常のほんのちょっとした物言いから学者トークに入った結果……というのが実においしい(笑)
同時に、例えばジョーが科学バカ達と知り合って知見を得たり、バリーがエディにパンチの打ち方を教わったり、壁を越えて人が繋がっていく事で思わぬ化学反応が発生する事がある、というのは、主人公バリーを中心に、出会いによる変化を丁寧に描いてきた今作らしい展開。
にしても最終盤のジョーは、幾ら優先順位が


アイリス>(アイガー北壁)>バリー>>>>>(時空の狭間)>>>>>エディ

にしても、エディに対して酷いと思う。
目から鱗が20枚ぐらい剥がれ落ち、やさぐれモードを脱したエディはアイリスの元を訪ると、そもそもアイリスとの出会いが偶然の積み重ねであった事を語る。
「偶然がどれだけ凄いか、ある人に教わった。で、考えた。俺達が一緒になるまで、幾つの偶然が重なったんだろうって。最近……バリーの運命の事ばかり考えて、自分の運命の事を忘れてた。運命は君だ。アイリス・ウェスト。俺がしてきた事は、全部、君に繋がってたんだ。――未来がなんだ」
「未来が何よ」
かくして、よりを戻す二人。エディに関しては、この先バリーに負ける事はあるかもしれないけど、運命に屈して自分から白旗を振るよりは堂々と運命に挑みたい、というのはわかるのですが、アイリスは……まあ、バリーが過去を変えるという事はイコール、“今のアイリス”より“過去の家族”を取るという事にはなるので、後は成り行き任せなんでしょうけど。
その頃、スターラボではタイムトラベルにより発生する問題点が見つかっていた。それは、ワームホールの発生にともなって特異点――ブラックホール――が地上に誕生し、地球そのものが危険にさらされるという可能性。
「少しのリスクはあるさ」
面々に囲まれながら、モニター越しにしれっと言ってのけた博士は、これまで共に幾多の苦難を乗り越えてきたじゃないか、と悪びれる事なく気持ち悪さを全開。
「必ず君達の側に私が居た。私が20年近く考えてきた計画だ。成功する」
その対策とは、ワームホールが開いてから特異点が発生するまでの1分52秒の間に、フラッシュが過去を変え、現代へ戻ってきてワームホールを閉じる事。
「約2分あれば、ノラを助ける事は出来る」
「おまえをやっつける時間は無いけど」
「どっちを取るかだ」
「時間を過ぎたら?」
「過ぎないさ。君を信じてる。いつも信じてきた。家族や友達は、私ほど君の事を信じてないのかな」
ここで今作全体を貫く重要なキーワードでもある「信じる」を口にして、自分を少しずつ信じる努力を続けてきたバリーのナイーブな部分に火であぶった毒蛾のナイフをぐさぐさ刺してくるウェルズ博士が、最終回まで最高に気持ち悪くて最低で最高です。
歴史のバタフライ効果という大きすぎて想定もしようがない不確定な事象ではなく、目に見える明確な危険の可能性に苦悩するバリー。改めて決行の是非を問われたジョーも躊躇を見せ、バリーの背中を押したのは、自分の事を心配して躊躇わないようにという、親としての強がりだったと白状する。
「僕に出来ると思う? 僕に……母さんを助けられる? マッハ2なんて出せる?」
「ああ。……出来るさ」
だがその上で、ジョーもまた、バリー・アレンを全力で肯定する。
「……今まで、ずっと母さんを助けて……父さんを自由にしたいって、思ってきた。…………それでもう一人の親を失うなんて」
「バリー……」
「いやジョー、これだけは伝えたい。あの事件で失ったものばかりに気を取られたけど、手に入れたものも、沢山あるんだ。父さんは刑務所だけど、別の父さんが出来た。……ジョーだ。……また失いたくない」
「俺はどこにも行かない。いいな絶対だ。いいな」

「……今ようやく、人生を生きてる気がするんだ。正直、母さんが死んでから前に進めなかった。色々な事を諦めてきた。今は違う。僕を支えてくれる、仲間もできた。前に進んでる」
(第1話)
そしてバリーも、歩き出した1年近くの成長により、足踏みしていたと感じていた時間を肯定できるようになり、<シーズン1>の集大成として、二人の父親とのシーンは、いずれも素晴らしかったです。
ケイトリンとロニーの結婚式を挟んで、いよいよタイムトラベルに臨むバリーは、ジョーと父子の抱擁をかわす。
「じゃあね、父さん」
「…………じゃあな息子」
スーツを着込み、粒子加速器の円筒の中へ入ったフラッシュを、檻の中から見下ろすウェルズ。
「バリー。我々の運命は君が握ってる。君なら必ず出来る。さあ……
走れ、バリー、走れ!」
これしか無いだろう、というフレーズが期待通りに決まって鳥肌ものでしたが、この台詞を口にするのが因縁の仇というのが実に『FLASH』というか、ウェルズ博士あっての<シーズン1>だなぁとしみじみ。
粒子加速器の中をぐるぐる走りながら加速していくフラッシュに、“いつも通りに”ウェルズ博士が声をかけるという構図がまた、最高に気持ち悪くて凄い。
「いいぞバリ−、その調子だ」
遂にマッハ2に到達したフラッシュは、入射された陽子と衝突。ワームホールが発生し、15年前、あの晩のアレン家へと時空を跳躍して辿り着く。だが、居間を覗き込んだフラッシュは子供バリーを救おうとしていた未来フラッシュと目が合って手振りで制止され……母親を助けない事を選ぶ。
断腸の思いで母の死を受け入れたフラッシュは、リバースが去った後、瀕死の母親の前でマスクを外す。
「私の父にそっくり」
「……理解できないと思うけど、僕なんだ、母さん。バリーだ」
今回、至る所でバリーが泣いているのですが、23話分の蓄積が効いており、胸に迫ります。
「またここに来れたんだ。母さんの事…………安心させたくて。父さんも僕も大丈夫だ。僕も父さんも、母さん……大好きだ」
そしてバリーは、絶命した母親の胸で泣きじゃくる……。
一方現在――
「そろそろハリソン・ウェルズとお別れの時間だな」
ここでワームホールから謎の帽子?が転がり出てくるのですが、微妙にどこかで見たことあるような気もして、アメコミネタの今後の布石でしょうか。
「これはいったいなんだ?」
「別れの合図だ」
それにしても、スターラボは律儀にウェルズ用のタイムマシンを完成させてしまいましたが、言ってしまえば壮大なマッチポンプであるウェルズの計画に全面的に荷担する事になっているわけで、タイムトラベルの方法だけ聞いて、「僕は過去に行く。おまえはずっとここに居ろ」では駄目だったのか、というのはさすがに気になってしまう所。
基本的には、リバースがノラを殺さなかった時間――正史――に戻す、というスタンスなのでしょうが、バリーと両親の問題に焦点が集中しすぎて、リバースの扱いに関する葛藤が描かれなかったのは、不足を感じた部分です。
もう少し書くと、メタヒューマンの実質的な人権無視と拉致監禁に関して、自分に言い訳をしながらの現状維持は出来ても、ウェルズのように完全に改悛の余地が無い極悪人を一生飼い殺すだけの度胸と覚悟が無いのはバリーとスターラボの弱さ(無論これは、人間として当たり前の弱さであり、それを乗り越えるには並外れた精神力を持つか、或いはどこか壊れるしかない)であり、抗議はしても黙認するしかないジョーも、この弱さを抱えているといえます。
そして今作は、“人間の弱さ”と丁寧に向き合う事で一貫しており、その弱さにつけ込んで他者を利用する腐れ外道にして、奪われた全てを取り返す為と自己の権利を正当化しながら、その為に他の誰かの全てを奪える絶対悪こそが、イオバード・ソーンであります。
だからこそ――
「帰れる……」
博士の乗ったタイムマシンがワームホールに進入する寸前、過去から戻ってきたフラッシュのパンチがタイムマシンを粉々に粉砕する!
「助けなかったのか? 何故! なぜだぁ?! おまえの望みがかなったのに。全てが手に入るのに、なぜ助けなかったんだぁ!!」
「もう手に入れてる」
今のままのヒーローである事を選んだフラッシュは、弱さを乗り越え、悪の目論見を打ち砕く。
ここでフラッシュがイオバードの帰還を阻止するのは、「僕は過去を変えない、だからお前も一生この牢獄のままだ!」という覚悟の宣言とも思え、これが<シーズン2>でどう踏まえられるのかはわかりませんが、<シーズン1>のラストが、ヒーローとしての新たなステップアップで締められる、というのも、ヒーローの成長を丹念に積み上げてきた今作らしいかな、と。
そう考えると、今作のかなり危うい部分に突っ込んで、悪との取引でヒーローが痛烈なしっぺ返しを受けるという第22話そのものが、この最終回の為の大きな布石であったのかもしれません。
「なら奪ってやる」
イオバードはリバースへと転じ、因縁渦巻く粒子加速器の中で、激しくぶつかり合う赤い閃光と黄色い閃光。混乱の中、ジェネレーターの停止によりワームホールの拡大は食い止められるが、フラッシュはリバース怒りのフラッシュ百烈拳に追い詰められてしまう。
「ちゃんと伝えておこう。お前を殺した後で、あいつらを全員殺す。勿論お前の父親もな。勝つのはいつも私だ、フラァッシュ!!」
殺意を込めた高速振動ハンドが振り下ろされようとしたその時、パイプラインに木霊する一発の銃声――。
そこに立っていたのは、拳銃を手にワイシャツの胸を真っ赤に染めたエディ・ソーン。
「エディ! 何してんだ?! どうして?! お前なんて事を?!」
「偶然なんてあり得ないんだ……」
偶然バリーの同僚で、偶然バリーの養父の相棒で、偶然バリーの思い人の恋人で、偶然……偶然……偶然……それは、偶然そこに居たという、積み重なった運命の悪戯という名の必然。
先祖であるエディが自らの命を絶った事により存在が揺らいでいくリバースは、力を失い、最後の最後で、ウェルズからイオバードの顔に。
「あいつは間違ってた。俺は……ヒーローになったんだ」
「ええ、そうよエディ、あなたはヒーローよ」
「それが俺の、夢だった。……君のヒーロー。ああ…… I Love ……アイ……リス」
率直なところ、凡人が英雄になる為には死ぬしかないというテーゼは好きではないのですが、さんざんイオバードから存在の無価値を吹き込まれたエディが、イオバードにとって自身の最大の存在価値を用いて一矢報い、他者の人生や心を踏みにじり弄んできたイオバードが、その邪悪さ故に余計な事を口にしたのが原因で足下をすくわれる事になる、というのは、納得はいく構図。
また今作の大きなテーマでいうならば、エディが自死を選ぶ事によりリバースが消滅するというのは、“個人の決断で運命を書き換えられる事”の、これ以上ない証左といえます。
一つ面白いのは、自信たっぷりに見え、セクシーヒゲ系イケメンマッチョで、アイリスの恋人、というバリーの対極に居るかのようだったエディが、失意を乗り越えて自己の存在の肯定に辿り着き、バリーの軌跡をなぞるようにしてヒーローになる事で、今作の裏主人公として着地している事。
同時にエディがやった事は、少年バリーを殺す事でフラッシュの存在を歴史から消し去ろうとしたリバースの相似といえ、エディ・ソーンを通して間接的に、正義と悪が交錯する、という<シーズン1>の構造を凝縮した存在となって最期を迎える事になりました。
ついでにもう一つ付け加えると、

「僕は知ってる。…………彼はヒーローだ」
「ヒーローになんてなって欲しくなかった。夫になって欲しかった」
(第3話)
帰ってきたロニーがケイトリンの夫になったエピソードにおいて、くしくも同じ粒子加速器という舞台で、エディがヒーローになって死ぬというのは、要素の重ねが好きな今作のスタッフだけに、意図的なものでしょうか。
思えば今作の警察関係者は初期から死亡フラグを適度に所持していましたし、今回はロニーが、がっつんがっつん死亡フラグを立てまくっていたので、ジョー、ロニー、それからシスコの揺り戻し分など、エディは周辺キャラの死亡フラグを全てまとめて精算してくれたともいえるのか。
後凄くどうでもいい話ですが、イオバードによるとエディは「一族で唯一歴史に残らなかった駄目人間」だそうですが、それを額面通りに受け止めるなら(たぶん大げさに言っていると思いますが)、エディは息子も孫も歴史に残る人物になるわけで、種牡馬(失敬)としては物凄く優秀だったのでは。……というか、外道ヒロインに引っかかって捨てられたショックで、駄目人間になってしまったのでは。
「君はずっと私にコントールされてた。私無しじゃ、生きていけないぞ。……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
エディの衝撃の決断に皆が呆然とする中、ハリソン・ウェルズ/リバース・フラッシュ/イオバード・ソーンは、最後の最後までいやらしい捨て台詞を残して、遂に消滅。ところが、一度は閉じた筈のワームホールが再び拡大を始め、特異点を生み出してしまう。バリー達は慌ててパイプラインから脱出し、エディの亡骸が特異点に吸い込まれていったのは、使うか使うかわからない布石の類でしょうか。
……エディまで、超人になって戻ってくるとやりすぎな感はありますけど(^^;
セントラルシティの上空に巨大な特異点が出現し、世間的にはこれはまた、スターラボやっちまった案件になるのか(笑)
今回は、シュタイン教授の、社会的地位と名声が危ない!!
ここで、空の異常を見上げる姿で、準レギュラークラスの人物がちらっとずつ登場するのですが、キャプテン・コールドとシン警部の間に出てきた女性は、初めて見るような……セシル検事には見えないのですが、私が覚えていないだけか、<シーズン2>のキャラなのか。
なお、〔コールド→?→シン警部→ヘンリー〕と登場する為、シン警部(新婚旅行帰り)が凄く重要人物みたいな扱い(笑)
膨大なエネルギーの塊である特異点は周囲のビルなどを次々と吸い込んでいくが、このまま世界を崩壊させるわけにはいかない。
「やるしかない!」
巨大な特異点の中心へ向かって疾走していくフラッシュ……で、つ・づ・く!
終わってないから、つづく!!
……実のところ、米国ドラマを第1話から最終話まできちっと見るのが初めてだったので、「おお、これが噂のえげつない引き……!」と、ちょっと楽しかったです(笑) いや、冷静になると、えーーーなんですが、そういう物だと思って念入りに覚悟を決めてから見た事もあって、体験としては楽しめてしまいました。
あと、えげつない引きは引きでも、謎の狙撃でジョーが倒れて現場を怪しげに離れるシン警部とか、刑務所で凄く悪い笑みを浮かべるお父さんとか、キャラクターを使っての引きでなかったのは良かったです(^^;
今回、良い会話が多くて、大量の書き取りにより物凄く長くなってしまいましたが、<シーズン2>へ向けての引き要素、謎のままの伏線、解決していない諸々、などはあるものの、今作のテーマとしてやるべき事はきちっとやり、そう来なくてはという所はしっかり期待通りに収まって、<シーズン1>の集大成としては満足いく最終回でした。
特に好きなのは、二人のお父さんとバリーのやり取り、「走れ。バリー。走れ!」、そして「もう手に入れてる」。
興味はあったものの、おっかなびっくり見始めた作品でしたが、作品構造の巧さ、ユーモア溢れる会話の面白さ、キャラクターの好感度コントロールの鮮やかさ、締める所は締めるヒーロー物としての格好良さ、そして炸裂するスーパーどん引きタイム、と出来の良さにがっつりはまり、非常に面白かったです。
特に、最初から最後まで全力全開で気持ち悪かったウェルズ博士は、オールタイムベスト級の悪役(笑) もうホント、最低すぎて最高でした。何度か書いていますが、インテリ系好青年役を得意とする宮本充を、この博士にあてたというキャスティングの妙が実に素晴らしかったです。
キャストで言うと、福山潤の、“普通の好青年”役の巧さも印象的。アニメ的なデフォルメや、アクの強いキャラの印象がどうしても強いですが、吹き替えでこういう、さらっとした演技させてもピタッと作ってくるなーと、改めて感心。
<シーズン2>をどうするかは色々と検討してみようと思いますが、大変、楽しい全23話でした。